慎吾が「黒部の太陽(以下「黒部」)」やるというので文庫を買った。 といっても買ったのは別の本(笑)吉村昭の「高熱隧道」。
「黒部」の原作は近所の本屋では全く見当たらなかった。 アマゾン見てたら、黒四ダムより古く、昭和11年着工「黒部第三発電所建設工事」をテーマにした小説「高熱隧道(以下「高熱」)」に目がとまった。
「高熱」の方を高く評価するレビューもあったので、慎吾とは関係ないけど早速購入(と言っても本屋で)なにしろ400円(笑)
文庫の薄さの割に、凄まじい内容の本だった。 あとがき読んで、登場人物は全て架空ってんで「ええ〜!!!」って思っちゃったほど。 もちろん出来事そのものはほぼ事実に基づいてるんだけどね。
架空の人物だからと言って、彼らが過度にヒーローのように活躍することは全くない。むしろ主役は過酷な自然現象ともいえる。
最高で160度を超える岩盤。しかも狭いトンネルという暗闇の中。掘削する人夫に真冬の水を太いホースで浴びせ続けても、たちまちそれが40度以上のお湯になる。 人夫1人が作業するのは20分が限界、それでも皮膚のあちこちが火傷で剥がれ、体の脂肪が失われて骨と皮ばかりとなっていく。
しかしさらに恐ろしかったのが「泡(ホウ)雪崩」という現象。 この本で初めて知ったのだけど、本当にそんな現象があるのか、にわかには信じがたい。 普通の雪崩と違って、雪崩の際、雪の粒によって圧縮された空気が障害物にあたって爆発するようにはじける現象らしい。
この「泡雪崩」が工事宿舎を直撃、鉄筋5階建ての宿舎の2階より上部を「そのまま」もぎ取り、遠く離れた山の岩盤に叩き付けたのだ。なんとその飛距離580m。
信じられる?鉄筋のビルが原型のまま、580m空を飛んだのだ。 内部に居た人々、84名の命とともに。
これほどの犠牲を出しても工事への思いを捨てきれない技師。そして工事中止へ動いていたにもかかわらず、天皇から「御下賜金」が犠牲者全員に出されたとたん「国家の重要工事」として続行されることになる時代背景。
超然とそこにある自然と比べて、人間サイドには誇り高さと滑稽さがないまぜになっている。 でも、そんな人間でいいじゃないか、って気もするんだよね。 挑まれた自然からすると、蚊にさされた程にも感じないとしても。 むしろそれでいいというか。いつまでも、自然には恐れおののく程度でちょうどいいんだと思う。
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