あたしは彼を見つけると、路地の柱の影にそっと逃げ込む。 その影で小さくなって、ひざを抱える。 何も見ないように目をつぶる。 気が付いたら横に彼がいる。 「何も心配ない」と彼は言う。 右手に持った甥へのプレゼントを見せて、静かにそして優しく笑う。 あたしは身体全てで安心して、差し出された左手を取る。 今は冬のはずなのに、雪が少しもない道を歩く。 その感触は覚醒しても尚、リアルにあたしの右手にある。 もう一度きつく目を閉じる。 どうにもならない現実を目の前に「心配ない」と行った彼の元へ戻ろうと 何度でも目を閉じる。何度でも。 しかし、一度覚醒してしまった身体は夢に沈まない。 このまま夢の中に身を投じても構わない。 本当にそう思ってしまう位にリアルで、かつ痛い程に非現実的な朝だった。 結局のところ「さようなら」と断ち切れなかったあたしへの罰。
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