無責任賛歌
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2002年05月17日(金) |
追悼、柳家小さん/映画『モンスターズ・インク』/『カスミ伝△』2巻(唐沢なをき)ほか |
五代目柳家小さんさん(「師匠」と言わずに「さん」付けだと愛嬌が出るなあ)が16日午前5時、急性心不全のため。享年87歳。 「落語界初の人間国宝」と書かれてあったのを見て、「そう言えばそうだった」と思い出した。師匠には悪いけれど、そういう肩書きに一番縁遠い芸風だった気はするが。かと言って、談志に与えられるはずもない称号であるし、志ん生、円生なきあと、「落語界にも一つ『人間国宝』を」てなときに小さん師匠以外に対象者がいなかったってのは事実なんだけど。……志ん朝さんがあと十年生きてりゃね。 貶してるみたいだけれど、私の落語の素養は小さん師匠から始まっている。 小学校のころ(多分5年生くらい)、母親にねだって買ってもらった初めてのLPが小さん師匠の『たらちね』だった。母親がよく「あ〜らわが君」とか「今朝(こんちょう)は怒風激しゅうして小砂(しょうしゃ)眼入す」なんてギャグを口にしていたので、モトネタを知りたかったのである。で、LPが擦り切れるまでホントに何百回も聞いた。 おかげでこの落語は今でも「小さん師匠風に」暗唱できる。 「自らコトの姓名を問いたもうや?」 「……えェ、大家さんが清兵衛だってのは分ってんスけどね、アナタサマのお名前をお聞きしたいんで……」 この「……」の間と、カタカナの発音をご想像頂きたいところだ。ただ、今にして思うに、下手とまでは言わないが、「至芸」という感じはしなかった。やはり、油の乗りきっていたころの談志や、艶のあったころの円生にはどうあがいたって勝てないのである。 しかも師匠、言い間違えてやがるし(^_^;)。 「ある夜、丹頂の鶴を、ある夜夢見るが故に千代女千代女と申せしが」って、「ある夜」が畳語になってるのもそうだけど、第一、鶴を夢見たんなら、名前は「鶴女」でなきゃおかしいじゃん。これ、録音したほうも録り直しくらいすればいいのに……って、それをしてないから貴重ではあるのだが。
てなわけで、噺家としてあまり高くは買ってなかったんだけど、テレビで『狸賽』のオチを見たときには、「ああ、この芸だけは小さん師匠に敵う人はいないな」と思った。 いわゆる「仕草オチ」の代表的なもので、八っつぁんがイカサマバクチをしようとして、狸をサイコロに化けさせる噺である。一の目を出してほしくて「天神様だ天神様だ」と唱えてサイコロのツボを取った瞬間、狸がしゃっちょこばって衣冠束帯で鎮座している、というオチね(これも解説がいるか?)。 いや、寄り目で口とんがらせて力んで赤くなってた小さん師匠、狸というよりタコに似てたね(^o^)。地顔がもともと丸いからウケただけじゃん、と突っ込みが入りそうだけれど、そういう単純な見方をしていいものかどうか。自分の肉体の特徴を生かすことを考えるのは芸人なら当然のことだと思うけど。 小林信彦や立川志らくあたりは「ヘンな顔で笑いを取るのは最低の芸」とかワケシリ顔に言いそうだけど、じゃあ、円楽の顔で『狸賽』の笑いが取れるのかってんだ。「語り」が終わって、タメずに「仕草」にサラリと移ってたのもよかったよ。 年を取って、白髪は増えたが(もともとハゲの印象が強いのに、それでも白髪があるのがハッキリ見えるのがフシギだった)、痩せ衰えた感じはなかった。 師匠、前の夜に、ちらし寿司をぺろりとたいらげたあといつものように就寝。そのまま、朝になったらなくなってたのが分ったそうだけど、いかにも「らしい」死に方で、少々微笑ましくさえある。
しげ、だいぶ体調がよくなったので行きは車で送ってもらえる。 けれど帰りはまた時間になっても迎えに来ない。 連絡を入れたら、「時間を間違えた」だと。 さすがにもうタクシー代を出す余裕はない。 「どうすんだよ、迎えに今から来れるのか」 「仕事早いからムリ」 「……じゃあ、歩いて帰れってか」 「仕方ないねえ。おカネ出してやるからタクシー乗ってきィ」 ……出してやるからじゃないだろう(--#)。
しげは仕事に出かけるのだが、私はそろそろ映画に飢えている。 たいてい映画はしげと一緒に行くことにしていたが、時間帯がズレたせいで最近はそれもままならない。で、一緒に行きたい映画は避けて、しげが余り興味がないと言っていた『モンスターズ・インク』を見ることにする。 「なんで(何を使って)行くと?」としげが聞くので「自転車で行くよ」と答えたら、しげは私のことを心配したのか「やめといたら?」と言う。 もう久しく乗っていないので、確かにカンが働かないような予感はするが、かと言っていつまでも自転車に乗るのを怖がってばかりはいられない。 第一、連日タクシー通勤をしているので、バス代ももったいないのだ。 キャナルシティまで、事故にあうこともなく到着。 福家書店で買い忘れていたマンガなどを買って、AMCへ。 公開後、既に何週間も経っているので、9時30分からの上映、観客は10人程度。 子連れがいない分、楽に見られそうだ。
本編の前に上映された短編『FOR THE BIRDS』、これがCGアニメとしてメリハリの利いた傑作。出てくる小鳥たち、デフォルメされたキャラクターなのに羽毛がリアル! 電線に止まっている小鳥たちのところにいきなり現れたイカレた鳥。小鳥たちはイカレた鳥をバカにして苛めるけれど、そのとき電線がたわんで……。 心暖まるディズニー映画の前に堂々とこういう差別ギャグアニメを上映するあたり、ピクサーという会社が決してディズニーの軍門に下ったわけでは無いことを主張しているようで嬉しい。 以前も語ったことであるが、ピクサー作品をディズニーと提携した『トイ・ストーリー』シリーズや『バグズ・ライフ』などの長編で評価してはならない。ピクサーの本質はCGを駆使したシュールでラジカルな短編の方にある。
で、『モンスターズ・インク』の本編の方だけど。 邦題が「化け物会社」とか「怪物株式会社」じゃ売れないってのは分るけど、まるで怪物が使うインクの話みたいだよな(^o^)。 もっとも、これでお子様が「インク」って「会社」のことなんだよって教えられたら、英語の勉強になるのかな。 それはそれとして問題は内容。 なんつーかねー、CGが進歩すれば進歩するほどアニメとしてはつまんなくなるって、どういうことなのかね。 なんたって、一番イイのはオープニングの「手書き」アニメなんだもの(^_^;)。 結局、オモチャだの虫だの化け物だのをキャラクターに選ばなきゃならないってとこにCGの限界があることを示した作品になっちゃってるんだよねえ。 唯一登場する人間のキャラを2歳の子供にしたのも、オトナだとCGじゃうまく動かせないし、皮膚の質感も出せないという判断が働いたからだろう。 アニメはもともと現実にはありえないキャラクターと動きを表現するベクトルを持っているのに、CGはあくまで表現のリアルさを求めているので、両者の間に矛盾が生じるのは必然なのだ。 技術はともかく、ストーリーもキャラクターもありきたり過ぎるのがイマイチな原因。オバケや幽霊が会社組織になってるなんて設定、藤子不二雄(F・A)や水木しげるのマンガやアニメでもう腐るほど見てきてるし。 主役が無骨な大男で、相棒がお調子者のチビってのも、定番過ぎる。こないだの『シュレック』もそうだったし。定番が悪いとは言わないが、こうも連続すると、いくらなんでも食傷する。 唯一、「これはイイかも」と思った「モンスターが子供に触ると解けてしまう」って設定も、結局はモンスターたちを働かせるためのただのウソだったってことがバレて、見ているこっちは拍子抜けしてしまう。それじゃまるでドラマを盛り上げるのに寄与しないじゃないの。 「どんなに人間を愛しても、触れられない」って設定にした方が絶対、感動させられるじゃん。それを「実はウソ」なんて腑抜けた設定にしちゃったのは、単に脚本家がアホなのか、それとも「やっぱり主役と子供が抱き合うシーンがないとイカンよ」とかなんとかディズニーから横ヤリが入ったのか。 見ていて退屈したわけじゃないけど、感心したりワクワクしたりするほどのシーンがまるでない。これじゃアカデミー賞を取れなかったのも仕方がない。オスカーが『シュレック』の上に輝いたってのも、そっちの方がまだマシだったってことじゃないのかな。
数ヶ月前、台所を掃除した時、買ってたパンを居間に移動させてそのまま忘れていたら、いつのまにかコバエが卵を生みつけてて、それが一斉に孵っていた。 ……どうも最近コバエがやたら部屋の中を飛んでると思ってたらそのせいだったか。 ウチは本棚から溢れた本が山になっているので、間にハマリ亜伊デたパンに長いこと気付かなかったのだ。 いや、笑いごっちゃない。 しげは今まで枕元にそんなものがあったと気付かずに寝ていたから、ふと目を開けて、そこに小さな粒粒の卵がズラリと見えて、怖気が走ったらしい。 「気色悪い気色悪い気色悪い」 と泣きながらパンを片付けていた。 忘れた私も悪いのだが、枕元やソファを一向に片付けようとしなかったしげ自身にも責任があることなので、同情はしない。 だから日頃から掃除しろってば。 ……さあ、ウチにはほかになにが隠されてるかなっ♪
マンガ、加藤元浩『ロケットマン』2巻(講談社/KCGM・410円)。 うおっ、2ヶ月連続でリリースって、結構リキ入れて売ってるのかな? 『Q.E.D.』と同じく、設定やドラマはよく練られてるんだけれど、少年マンガの限界なのか、やや荒唐無稽な要素が入りこんでるのが気になる。 冷戦終結後、世界各国の情報組織が再編成される中で起きたとされるカンボジアでの事件。そのデータが、記憶を失った主人公、水無葉と関係しているらしい。 ……うーむ、ただの推理ものならともかく、国家間の陰謀とか、加藤さんのライトな絵にはちょっと荷が重過ぎないかなあ。もっともまだ2巻の段階じゃ、これからどうなるか分らないから結論出すのは早計だけど。
マンガ、唐沢なをき『カスミ伝△』2巻(講談社/マガジンZKC・560円)。 レベルが落ちてないなあ。 いやホントにスゴイよ唐沢さん。 デビューから数えたらもう20年か? もしかしたら本当にギャグマンガ家の最長不倒距離を達成するのかも。 縮小マンガ、BGMマンガ、切り取りマンガ、塗り絵マンガ、タイピングマンガ、アメコミマンガ、左右分割マンガ、超どアップマンガ、枠線無しマンガ、実在製品紹介マンガ(でも賞品は送ってくれなかったらしい)、袋とじマンガ(男ならわかるぞ!)、気象図マンガ、後ろ向き後頭部マンガ、横向きエジプトマンガ、レントゲン骸骨マンガ……。『カスミ伝全』『カスミ伝S』と来て、まだこれだけのアイデアが出せるとはねえ。 圧巻なのはラストの『32年目の復讐』。 8歳のときの唐沢さん自身のイタズラがきと今のキャラクターを共演させるというまさしく「夢の共演」。今までも「奥さんマンガ」や「編集者マンガ」と「シロウトマンガ」をちゃんと作品として昇華させてきた唐沢さんの、これは最高傑作ではないかな。 ……できたらまた、『カスミ伝○』とか『カスミ伝@』とか『カスミ伝(笑)』とか再開してほしいなあ。
2001年05月17日(木) 少しまじめな話/『コミックバンチ』創刊号ほか
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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