無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2002年03月04日(月) 愛のタコ焼き情話/『八戒の大冒険 2002REMIX』(唐沢なをき)/『ダルタニャンの生涯』(佐藤賢一)ほか

 マンガ、唐沢なをき『八戒の大冒険 2002REMIX』(エンターブレイン/ビームコミックス・756円)。
 えっ、『八戒の大冒険』、初版は1988年?!
 そんなに経つのか本当に。
 つーか、『少年キャプテン』掲載時から読んでるから、1987年から数えてもう15年じゃん。……何となく唐沢さんってまだ新人のような印象あったけど、冗談じゃない、ベテランもベテラン、ひと昔前なら老境に入っててもおかしくない年だったんだなあ。
 ギャグではなく、本当にギャグマンガ家の命脈は持って十年なんて言われてたんだよ。往年のギャグマンガ家で、今も活躍中って人がどれだけいるか。
 だから、このデビュー作の傑作群を読みながらも、正直なところ「ああ、この唐沢なをきって人、こんなに才能を浪費してたら、3年でつぶれちゃうだろうなあ」なんて思ってたのだ(逆を言えばそれだけ面白かったってことになる)。
 私自身は、表題作の『八戒の大冒険』が雑誌に載ったときの反響、結構大きかったと記憶してる。なんたって、三蔵法師のお供が3人とも八戒なんて、誰が思い付くか(^o^)。私はもう、雑誌を何度も読み返し、それでもまだ、げらげら笑っていたのだ。なのに、とりさんの解説によれば、「読者ウケも編集ウケも悪いとなをき氏自身がこぼしていた」とか。今の唐沢さんの隆盛を考えると、なんだか信じられない話である。
 とり・みきさんや唐沢さんは「理系ギャグ」なんて評されることが多いが、文型も理系もない、理詰めでこの素っ頓狂な発想が出るものではないことは見当がつきそうなもんだ。今回のREMIX版、前半は旧版からのセレクションなのだが(傑作『忍法十番勝負』は残念ながら「カスミ伝」の第1話にあたるので今回はカット)、毎回毎回、設定を変えてよくこれだけのギャグを実験できたものだと今読み返しても感心する。
 赤塚不二夫が実験性を持ち出したのは『天才バカボン』の後期だったし(『おそ松くん』のころはシチュエーションコメディを描いていたのであって、純粋なギャグマンガではない)、他の作家も、実験性を帯びたマンガを描けば描くほどウケが悪く、消えていく運命にあった。
 だから「唐沢なをき、3年持つかなあ」と当時危惧したのは多分私だけではあるまい。ウケが悪いからではなくて、こんな濃いギャグを続けていたら身が持つまい、という心配ゆえにである。なにしろ、作品によっては、「これを面白がる感性が果たして読者の側にどれだけ用意されているのか」と心配したくなるようなモノまで混じっているのだから。……「解剖図人間」って、やっぱり「改造人間」のシャレから思いついたのかなあ。こんなのなんか、「どうして解剖図の人間が存在するのか」なんて疑問を抱いたら、笑うことすら不可能だろう。理詰めで考えて笑えるギャグではないのだ。

 その意味で、後半の単行本初収録の短編群、これと前半の作品を比較してみるのも面白い。そこには「なぜ唐沢なをきはギャグマンガ家であるにもかかわらず生き残ったのか」という疑問の答えが提示されていると思われるからである。
 『うずまきくん』はタイトルだけを見ると『うずまき』のパロディのようだが、実際には唐沢さんの自画像を自らパロディにしたものである。
 絵を文章で説明するのはすんごく難しいのだが(^_^;)、唐沢さんはトマトのような輪郭に、うずまき目と小さなメガネを描いて自画像としている。鼻や口は省略。このデフォルメと省略を記号として受け入れることは、マンガを読みなれている人間にとっては別段、難しいことではない。
 ところが、世の中、そんなマンガ読みばかりではない。これは実話だそうだが、あのメガネを鼻の穴だと思ってたり、口をイーッてしてる形だと思ってたというファンがいたそうなのだ。
 ……これ、トポロジーっつーか、「騙し絵」の応用なんだよね。ある線や面の集合体が、人によっては別のものに見えることがあるってアレ。「これ、何に見える?」と言われて、二つのものに見えて面白がった経験は誰にでもあるだろう。「女の人の後姿かお婆さんの顔か」とか。それの応用ギャグをどれだけ提示できるかってのを「うずまきくん」では実験しているのだ。
 「実験」ではあるけれど、これは今描いた通り、「マンガの記号に慣れているファン」と、「マンガを読みなれていないファン」の両方を視野の中に入れている。だからこそ、唐沢さんは「マニアウケに留まらない」立場に立つことができたのではないか。
 ともかく、唐沢なをきの原典と発展を考える上でも、徳間版、白夜書房版、どちらも持っているという人もこれは買いである。おカネを惜しまずに買おう。 
 

 『八戒』の巻末に、「唐沢なをき著作リスト」が載っていたので、買い漏らしはないかと確認してみたら、同内容の再刊を除いて全部持っていてホッとする。 けれど、もしかして再刊のやつも気がつかない書き下ろしが入ってたりしたらやだなあ、とか思って、ほとんど読んだことある作品集でもつい買ってしまいたくなるのがファンの「サガ」か、はたまた「業」か。
 ふとラストの所を見ると、『唐沢商会 マニア蔵』のタイトルが。
 あっ、これは確か、唐沢俊一さんの「裏モノ日記」に書かれていた、唐沢商会の落穂拾い(^^)マンガ集だな。2月末の発売とあるが、まだ店頭では見かけていないぞ。もしかして見逃してるだけか?
 こりゃ、仕事帰りに本屋に寄ってみねばみねばと、いつものごとく、定時退社するやいなや、玄関を飛び出して、迎えに来てるはずのしげの車を、駐車場で待っていたのだが。
 来てねえよ、しげ(--#)。
 また、寝坊してやがるな。
 電話を入れると、やっぱり予想通り寝惚けた声で「もひもひ?」。
 「ごめん」のヒトコトもないのも、いつも通りだ。
 20分遅れてしげが来るまで、寒風吹き荒ぶ中、バス停でひたすら待ちぼうけ。
 側にたこ焼き屋の屋台が出ていたので、コーラと一緒に買う。やや大きめの6個入り400円はまあ、こちらでは普通の値段か。
 地方によっては、たこ焼きもカラカラになるまで揚げて、食感がパリパリしてるやつとか、ソースのみを塗ってるやつとかいろいろあるようだが、福岡のたこ焼きはたいてい、皮はフニャフニャ、ソースの上にマヨネーズとカツブシを乗せるものばかり。
 マヨネーズはともかく、カツブシはアゴの裏に張りついて私は嫌いなのだが、乗せないたこ焼き屋って、この近辺では見かけたことがない。これも定番になってるのかなあ、工夫がないぞ。
 自分一人だけ食べるのもなんなので、しげにもひとパック買っておく。
 「遅れてきたのに、こうして土産まで買ってもらえるなんて、申し訳ない」……そういう気にしげがなってくれればいいな、という淡い期待なのだが、まあ、たいてい淡い期待は淡いままで終わるのが世の常というものだ(-_-;)。
 案の定、迎えにきたしげ、遅れてきたのに謝ろうともせず、たこやきを見せた途端に目を輝かせ舌なめずりして(ホントにだ)ぱくついて、礼も言わない。
 腹が立つのをぐっと抑えて、しげに頼む。
 「本屋に寄ってくれない?」
 「どこの?」
 「博多駅の紀伊國屋」
 「遠いやん!」
 「けど、大きな店じゃないと売ってそうにないし」
 「休日に行けばいいやん!」
 「売り切れてたらどうすんだよ。たくさん入荷しそうな本でもないし(こらこら)」
 「行く時間なんてないよ。行って帰って、1時間以上かかるやん」
 「時間がなくなったのは、おまえが遅れたせいだろ?!」
 「……わかったよ、行くよ。行けばいいんやろ!!」
 「いやなのに無理して行かなくていいよ!」
 毎度毎度の売り言葉に買い言葉のケンカであるが、私ゃ別にこんな会話をしたいわけじゃないんだがなあ。ごく普通の夫婦の会話がしたいんだが、しげの知能では、まず「普通の夫婦」というものを理解すること自体、あと百億万年はかかりそうなので、今生ではちとばかし無理っぽいのである。
 無理だからと言って、放置するのも業腹なので、遅れて来た分、お詫びと言うことで、マクドナルドでしげにおごらせる。
 てりたまバーガーとビッグマック。なんだかムナクソ悪いんで、もう一つ二つ暴食したい気分だったが抑える(まあ、この二つでもカロリーオーバーなんだが)。


 マンガ、徳光康之『濃爆オタク先生』1巻(講談社/マガジンZKC・580円)。
 いやあ〜、濃い濃い。暑苦しさでは島本和彦とタメ張るんじゃないか、このマンガ。なんたって表紙がいきなり劇場版『機動戦士ガンダム』ポスターのパロだよ。しかもコスチュームは黒い三連星でドム背負ってるし。
 でもいるよな、おたく教師。授業中に関係なくアニメの話題振ったりするやつ。それで生徒の歓心を買えるんじゃないかとか考えてるのがミエミエなのがお笑い種だけどさ。
 いっそのこと、このマンガの主人公、暴尾亜空(あばおあくう……なんだかなあ)のように「おたく話しかしない」ってとこまで振り切ってくれりゃかえって楽しいのにな。すぐクビだろうけど(^^)。
 ……はい、ここでテストです。
 次にあげる10個のセリフのうち、四つ以上になにか「響くもの」を感じた人、あなたは立派なおたくです♪
 1、「知識を語るな愛を語れ!」
 2、「みやむー!!」
 3、「ジオンは負けてないから」
 4、「愛の前に体型なぞ無関係」
 5、「ごめんね普通じゃないんだよ、オレドムおたくだもの」
 6、「ロボットじゃない、モビルスーツと言いなさい」
 7、「アニメおたく全員がロリコンってわけじゃないぞ……まあ100人中99人はロリコンだ」
 8、「生身の女性に興味ないんだオレ」
 9、「人を好きになるのにジオンもロシアもないだろう」
 10、「お前を変態にしてしまうその衝動こそ創作者の真の資質」

 ああっ! 全部響きまくりっ! オーマイガッ! 
 ……墓穴掘りだよな、私って(-_-;)。

 では追加テスト。
 次のセリフで連想するセリフを答えよ。
 「諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだッ!! なぜだ!!」
 答えを知りたい人は単行本、買うようにね。自分をおたくだと認識してる諸君、意外と外れるかもしれないぞ(^_^;)。 


 佐藤賢一『ダルタニャンの生涯 ―史実の「三銃士」―』(岩波新書・735円)。
 アレクサンドル・デュマの『三銃士』シリーズで有名なダルタニャンが、実在の人物である、程度の知識はあった。三銃士のアトス、ポルトス、アラミスも同様であることも。
 しかし、その実像については全く知らなかったので、作者が作家の佐藤賢一というのが気にはなったが(作家はたいてい実録であっても粉飾するから)、ともかく読んでみる。
 確かに、ガスコーニュの「現在の」田園風景の描写(当時のでなきゃ意味ないじゃん)や、ダルタニャンを「我らが主人公」などと呼ぶ気取った書き方に、むだな粉飾を感じないではないが、史実を堅苦しく感じさせないための脚色、ということで、うるさく感じる一歩手前でなんとか留まっている。やはり気高き「銃士」を描くには、それなりの文体が必要だというところだろうか。

 ダルタニャンは実はダルタニャンではない。
 それは母方の姓、勇気あるガスコンの名家であることを謳うためにあえて名乗った偽名であって、ダルタニャンの本名は「シャルル・ドゥ・バツ・カステルモール」。
 アトス・ポルトス・アラミスもそれぞれ本名は違うし、まるで『三国志』の「桃園の誓い」を真似たかのような4人の友情も、どうやら史実ではなかった模様だ。彼らが同時期に銃士隊にいたことは事実のようだが、4人がともに行動したエピソードが全く残されていないからである。
 さらには、フィクションでは王権を揺るがす悪の権化であるリシュリュー枢機卿(史実のリシュリューはさっさと死んでいて、ダルタニャンの時代にはマザラン枢機卿に代替わりしている)と対立し、あくまでルイ14世のために働くその颯爽ぶりとは正反対で、なんとダルタニャンはマザラン枢機卿の子飼いの部下として働いているのである。
 『三銃士』ファンはそれを聞くと、虚構と現実の落差に幻滅してしまうかもしれない。しかし、史実は、本当に虚構に比べて「夢のない」ものであるのだろうか。
 大岡越前は天一坊事件を直接担当してはいない。しかし、彼が江戸の火消し組を編成し、防火対策を取った名判官であることは事実である。
 水戸黄門も諸国漫遊などはしていない。しかし将軍綱吉の生類憐れみの令に真っ向から反発し、水戸藩中では実施しなかった慈愛に満ちた人物であることは事実だ。
 虚構は確かに虚構であるが、それを生み出す「素地」があったこと、それは紛れもない事実。ダルタニャンについて言えば、それは「フーケ事件」で彼が取った態度に表れている。
 自らの親政にあたって目の上のコブであった財務長官、ニコラ・フーケを失脚させたルイ14世は、彼の護送を銃士隊長ダルタニャンに任せた。バスティーユへ馬車でフーケを護送している最中、沿道にフーケ夫人が現れる。法的にはフーケと夫人を合わせることは叶えられることではない。しかしダルタニャンは、馬車の速度を緩めた。二人はそこで最後の抱擁を交わす。
 これが史実のダルタニャンである。
 ある意味、王に反逆する行為ではあったが、王の信任厚い彼は、自分に咎めはないと踏んで行動したのだろう。実際、ダルタニャンはその後も順調に出世街道を歩んで行く。したたかな計算とも言えるが、計算だけでできることでもない。彼が「英雄」となったのはこの瞬間からだった。
 もちろん「史実」であるから、ダルタニャンの名誉を傷つける不都合な事件も紹介される。妻との不仲、リール城砦建築に関しての失態などである。
 しかし、それらもまた、「人間」ダルタニャンの姿であることにほかならない。それこそ、「我らが英雄は『人間』であった」と語り継ぐことができるのは、彼が笑い、怒り、泣くその姿を想像することができるからだ。
 『三銃士』のダルタニャンもすばらしい。
 しかし史実のダルタニャンも、やはりすばらしいのである。

 あ、でもダルタニャンの肖像画を見て、「え〜?! こんなニヤケタおっさん?!」とか思わないようにね。ダルタニャンはクリス・オドネルでもガブリエル・バーンでもジャスティン・チェンバースでもないんだからさ。

2001年03月04日(日) 一日が短い。寝てるからだな/アニメ『ソル・ビアンカ』1・2話ほか



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