無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年07月17日(火) 何年ぶりかの酒の味/『水木しげる貸本漫画傑作選 悪魔くん』上下巻

 最近、早寝をする癖がついてしまっているので、目覚めるのも必然的に早くなってしまった。
 8時、9時にはもう寝てしまっているので、起きるのが3時、4時。
 ちょうどその時間帯にしげが仕事から帰ってくるので、必然的にパソコンの奪い合いになる。
 なんだかなあ、私の方がウチにいる時間が短いんだから、私に譲ってくれてもいいじゃんか、お前は昼間使えるんだし、と主張するのだが、しげは「私の寝る時間がなくなるじゃん!」と怒るのである。
 ……ちょっと待てや、しげが帰宅してすぐに寝たとして、昼間も寝続けて、で、仕事に行く時間になっちゃうとしたら、やっぱり一日の半分以上寝てる計算にならんか?
 一日、12時間以上寝てるやつが、起きてるときずっとパソコンにかじりついてたら、そりゃ、家事する時間がないのも当たり前だ。
 だから、「寝る時間がない」なんてウソをつくなよ。単に人より寝過ぎてるだけじゃないか。家事をちゃんと手伝った上で、自分の主張をしろと言ってるのに、なんでそうワガママばかり言えるのだ。
 でも、最近私も疲れ気味なので、しげを怒鳴りつける元気がない。と言うわけで、結局パソコンはしげが使い続けることになるのであった。
 日記の更新が遅れるのは全てしげが悪いのだ。
 罪滅ぼしに、私の入院中、日記のUPを続けてもらわなきゃ割が合わんよなあ。


 空はどんより雨模様。
 おいコラ、昨日で梅雨明けじゃなかったのか。
 天気予報じゃまだ晴れ時々雨なんて言ってやがるぞ。

 ふと、気がついた。

 今日は、しげに成人病センターまで、職場に提出する私の診断書を取りに行ってもらうように頼んでいる日である。
 しかし、外は雨(が降るかもしれない)。
 雨が降ってる時には結構大切な用事があっても外に出ようとしないのがしげだ。

 いや、それ以前に、しげは「診断書を取りに行かねばならない」こと自体忘れてはいないか。
 記憶力に関しては鳥にも劣るしげのことである。その可能性は大だ。
 職場から電話をかけて確かめてみるという手はある。
 しかし、仮にしげが電話に出なかったとして、それが外出しているためであるのか、それともグータラ寝てるだけなのか、どちらか判別がつかないではないか。

 私は今までのしげの過去の言動を心の中で反芻した。
 しげを信頼すべきか否か。

 そして、私はしげを信じた。

 絶対、忘れてるに違いないと。

 会議や他の仕事もいろいろ残ってたんだけど、同僚に押しつけ、いやいや任せて、職場を早退した。
 で、帰宅してみると。

 「……なんで、早く帰ってきたん?」
 きょとんとしたしげの間抜けヅラがそこに。

 私は思う。
 私くらい、自分の妻の性格、言動を見ぬいている夫はいないだろう。くくくくく((((T-T*))))。

 心の中でしげにムチを打ちつつ、西新の成人病センターまで診断書をもらいに行く。しげは本来自分が一人で行かねばならないのに、二人で行くことになってはしゃいでいる。……少しは罪悪感を持てよ。

 用事は5分で終わり。でもウチから行き帰り1時間ずつかかるんだよなあ。
 なんかムダだ。
 帰りにまた「ひなっ子」に寄って、「串膳」を頼む。
 鶏尽くしの御膳で、唐揚げ、串焼き、吸い物となかなか趣向を凝らしているが、中でも「鶏わさ」というのが特に美味。鶏のササミのタタキをわさび醤油で食べるものだが、固からず柔らかからず、噛んだ時のクニュッとした触感が絶妙。
 メニューに「カルーアミルク」とあったので、なんだこれは、なにかミルクに果汁でも混ぜたものかなと頼んでみる。
 お、意外と美味しいじゃん。

 ……と、一気に飲んじゃったのが失敗。

 これ、カクテルだったのね。
 私は糖尿で酒は一切飲まないが、もともと酒にはく極度に弱い体質で、三三九度のおちょこの日本酒で酔っ払ったというヤツなのである。
 いやもう、からだ中が熱い。
 頭が腫れあがるようだ。
 結局、酒が抜けるまで1時間かかっちまった。
 あとで調べてみると、カルーアミルク、アルコール度数は9度しかないそうである。……それで酔っ払うかな、普通。

 外はいよいよ雨降り。
 酔っ払いの頭には少しは涼しくなって、かえってありがたい。
 文房具屋とベスト電器を回って、ファイルやキーボードカバーなどを買う。西新、滅多に来ることはないけど、結構モノを揃えやすいなあ。
 金文堂で本を買いこむ頃には外は土砂降り。仕方なく雨宿りに、隣のハンバーガー屋に入る(店の名前は忘れた)。
 
 晩飯がハンバーガーというのは味気ないけれど、仕方がない。
 雨が小降りになるまで、買ったばかりのマンガなどを読みながら過ごす。 
 帰宅は結局、午後8時。帰りつくなり、今日も早寝をするのであった。……で、やっぱり朝起きると、しげがパソコン使ってて、私には何もさせてもらえないのであった。 


 マンガ、横山光輝『仮面の忍者赤影』1巻。
 昔持ってたコミックスは紛失したりボロボロになってたり、というわけで、文庫になったのをいい機会に、改めて買い直し。
 表紙の絵が妙にキレイでなんだかアシスタントに描かせたっぽい。
 病気して以来、『殷周伝説』なんか、横山さん自身の線は震えまくっていて、昔日の流れるような線とは程遠くなってるからなあ。
 久しぶりに読み返してみると、山田風太郎忍法帖にヒントを得ているとはいえ、やはりそのストーリー展開の妙には堪能させられる。
 赤影たちの敵となる、甲賀霞谷七人衆、これが実に魅力的なのである。
 ホームページを立ちあげる時には、赤影テレビ版のコーナーも作るつもりなので、ここでちょっと原作キャラとの比較をしておこう。

 <原作>甲賀幻妖斎   <テレビ>甲賀幻妖斎(天津 敏)
    黒童子         悪童子  (大城 秦)
    鬼念坊         鬼念坊  (芦田鉄雄)
    朧一貫         朧一貫  (阿波地大輔)
    夢堂(ゆめどう)典膳  夢堂(むどう)一ツ目(汐路 章)
    ガマ法師        蟇法師  (近江雄二郎)
    土蜘蛛         闇姫   (岡田千代)
    傀儡甚内        傀儡甚内 (波多野博)

 ある程度、名前を拝借してはいるけれど、キャラクターがまるで変わっちゃってるのも多いんだよね。というか、実はドラマよりマンガの方がよっぽどリアルだったりするのだ。
 ガマ法師が操る巨大ガマ、ドラマでは火まで吐いてたが、原作はガマ法師が長年育てたというだけのガマ。
 ドラマの魔神像は巨大ロボットだったけど、原作では幻妖斎の集団催眠で動いているように見えただけ。荒唐無稽にも理由がなきゃならないっていう横山さんの拘りなんだよなあ。ドラマと比べてどっちがいいかってのは一概には答えられない。
 ドラマとなにが一番違うって、原作の甲賀幻妖斎、戦国大名六角義治の雇われ忍者なんだよね。忍者は所詮大名のパシリってシビアな見方が横山さんにはあったのだ。
 だから七人衆、実は赤影たちと戦って立派に死ぬ者ばかりではなかったりする。
 凧を操って空を飛ぶ黒童子は、燃える凧に巻きこまれて事故死、傀儡甚内も雷に打たれて死ぬ。朧一貫は捕虜にされるくらいならと自殺しちゃう。
 いつの時代も下っ端は悲しいよなあ。 


 マンガ、水木しげる『悪魔くん』1・2巻。
 テレビドラマ化された方じゃなく、後の少年ジャンプ連載、『千年王国』でリメイクされることになるオリジナル貸本版。
 いや、前に太田出版から出てたデカ本で買ってたんだけど、もう『悪魔くん』は私の精神的支柱なもんで。
 実は私は革命主義者(笑)なんだが、それはマルクス主義に基づくものではなく、『悪魔くん』に依拠するものなのである。……ってことはサタニストなのか、私ゃ(^.^;)。
 よく読むと、悪魔くんがホンモノの悪魔を呼び出してまでして、この世に築き上げようとした万人が兄弟となる平和な王国ってのがどんなんだか、よく分らないんだよね。リメイク版ではそれが「子供による統治」と具体的に描かれることになるのだけれど、さて、貸本版を描いていた時点で、水木しげるがそんなことを考えていたかどうか、どうも疑わしい。
 悪魔くんの12使徒も、後に描かれたものと当初の構想とは大きく違っていたのではないか。貸本版が途中で打ち切られたものだとしても、既に「梟女」などは登場していなければいけないはずなのに、影も形もないからである。
 私自身は、水木さんが当初考えていた「地上の天国」は、『原始さん』で表されたような「文化のない世界」だったんじゃないか、なんて適当に考えているのだが、もちろん根拠はない。
 ヤモリビトがいみじくも喝破したように、「悪魔くん」は「悪魔」以上の「悪魔」なのだ。自分の使徒を作るためなら殺人も厭わない超神童なのだ。人間のくせにエリートだとか、金持ちだとか、どうでもいいことに拘っているやつに対しては容赦しない子供なのだ。
 「悪魔」は極めて原初的な存在である。全てを「原始」に帰す。そこからもう一度、人間の歴史をやりなおす。それが水木さんの考える「楽園」だったのではないかという気がしてならない。
 ……って、それ『エヴァ』じゃん(^^*) 。



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