無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年04月12日(木) 驚天動地/『ストレート・チェイサー』(西澤保彦)ほか

 『國文学』5月号、今回はメディア特集。
 佐伯順子という人が、波津彬子『天主物語』をとりあげて、少女マンガの「花と女性のコンビネーションによる視覚的相乗効果」についてやたら述べているが、なんだか三十年か四十年くらい前の古臭い少女マンガ論を読まされているようで、ああ、活字の人ってのはやっぱりこんなふうに世間とズレていくのだなあ、とシミジミ思った。
 今時の少女漫画はめったに花をしょわせたりはしない。むしろ花を描くことを恥ずかしがるマンガ家も多いくらいである。波津さんだって、『雨柳堂』の方ではそんなに画面に花を散らしたりはしていない。
 『天主物語』に花がやたらと散るのは、原作が泉鏡花であり、古臭さを演出するためなんだってことに、この佐伯ってヒト、気付いてないんだなあ。

 週末、よしひと嬢がお泊まりされるかも、ということなので、数日前から「本を片付けてよ」と言われているのだが、肝心の寝部屋で女房がぐーすかぴーと昼寝をしているのである。
 夜になったら起きるかと待っていても全然起きない。結局、今日は片付けが何も出来なかった。……部屋が散らかってたら女房のせいですので、よしひとさん、許してください。

 さて、夕食をどうしようかと、冷蔵庫の中身を物色しに台所に行くと、珍しくも女房がおかずを作り置きしていた。
 エビのチリソースに餃子、いか明太。なぜにこんな豪勢なマネを、と思ったが、肝心の女房が高いびきなので、ワケも聞けない。ともかく腹が減っていたので、食うことにしたが、さすがに量が多いので、エビチリは半分残す。
 居間に戻って、パソコンの前に座り、ふとワキを見ると、フレンチトーストまで置いてある。なんでこんなにサービスいいんだ、なにか機嫌のよくなることでもあったのか、と首を傾げるが、どうせ理由を聞いても話すまいなあ、という気がしてきたので、構わずつまみ食いしながらパソコンに向かう。
 エロの冒険者さんのホームページは毎日必ず読むようにしているのだが、掲示板に最近妙な「荒らし」が多くなっていてちょっと心配である。
 「ここをクリックしてね」と描いてあるアドレスから、どうやらエロサイトに行けるらしいが、そんなん誰が覗いてやるかい。
 「荒らし」の主の名前は変えているが、多分殆どが同一人物の仕業であろう。ホームページの品格を落としてやろうという意図なのだろうが、他のコンテンツを見れば、すぐにエロさんのHPがごくまともなところだと判明する。「荒らし」のやってることはほとんど無意味だと思うんだが、なぜこうもシツコク続けてるんだろうか。

 「モーニング娘。」の新番組、『モー。たいへんでした』、だら―っと見る。未だに全員の顔と名前が一致しないが、それでも今世紀最初のコミックバンドとして、私は「モー娘。」を評価しているのである。いやマジで。
 この見事なくらいに脳みそ空っぽな少女たちを使って、全く無意味な楽曲を立て続けに繰り出してくるつんくのプロデュース能力は、やはり称賛に値する。
 素人を使って笑いをとる方法は、欽ちゃんファミリー、おにゃんこクラブと来て、現在のもー娘。に至る文脈の中で語ることが可能なのだが、日本の音楽シーンでは、そこんとこをきちんと評価してるんだろうか。

 西澤保彦『ストレート・チェイサー』読む。
 このところ忙しくて、マンガは読めても活字本を一冊読み切ることが難しかったのだが、これはまたトンデモナイミステリに当たってしまったものだ。
 推理もののネタバラシはご法度なので、上手く説明しにくいのだが(この辺が「公開」を前提とした日記のツライところだよなあ)、これはもう読者間に賛否両論を起こすことを作者が意図しているとしか思えないトリックを創案している。
 舞台はアメリカ。
 とあるレスビアンバーで二人の女性と知りあったリンズィは、“トリプル交換殺人”を持ちかけられる。冗談で「上司のタナカを殺して」と頼んだリンズィは、翌日、本当にタナカが自宅で殺されたと知らされて、驚愕する。
 しかも現場は二重に鍵のかかった“密室”であり、更に奇妙なことには、中で死んでいたのはタナカではなく、全く別人の東洋人であった……。
 ……初めの展開はまさしく正統的な本格ミステリなんだよね。でも『少女の時間』や『SF JAPAN』の対談でやたら奇抜な作品を書いている作家さんであると紹介されていたし、文庫のオビに「感動の最終行があなたを待つ」なんて書いてあったので、さて、いったいどんな驚天動地のトリックをし掛けてくるものやら、と期待して読んだんですがね……。
 うん、こりゃ確かに“問題作”だわ(^_^;)。
 多分、読者の中にはあたかも『エヴァ』最終回を見た時の人々のように、「ざけんじゃねーぞ、バーロー!」と、本を床に叩き付ける向きもあるのでないか。
 というか、ごく一般的な推理小説ファンであるなら、このトリックは、特に「密室トリック」については、「許せない」と感じて当然だからである。
 どんなトリックかって? だからそれは書けないんだってば。
 で、隔靴掻痒な文章になることを承知で、私の感想を書くとすると、これが実に微妙な言い回しになっちゃうのだが、「認めるが弁護はしない」としか言いようがないのだ。
 この密室トリックについての「アンフェア」論争は必然的に起きると思われるが、少なくともアンフェアではない。ただ、これがアンフェアでないことが理解できるのはよほどのミステリマニアでなくては無理で、なんと解説の加藤朋子さんですら、このトリックが“どういう意味を持っているか”気付いてはいないのだ。なぜ、この小説がアメリカを舞台にしなければならなかったのか、その点に触れなきゃ解説にはならんのだがねえ。
 しかし、その“意味”に気付いたからと言って、このトリックが評価できるかというとそうではなくて、やはり「それがどうした」と怒り出す読者も多いに違いないのだ。アンフェアではなくても、これはとてつもなく“インケツ”なトリックだからだ。
 そして、このインケツトリックが更にオビにもあった“最終行”のトリックの伏線になっている。さすがにこいつはインケツな小説だな、と気付いたおかげで、ラストのトリックは見破れたが、畢竟、私は複雑な思いに見舞われた。
 この作者、まっとうなミステリを書く実力はあるのである。それは、トリックの「仕掛け方」を分析すればはっきり証明できる。しかし、まず断定として構わないと思うが――作者は「まっとうなミステリ」などを書くつもりはサラサラないのだ。作者は読者と「知恵比べ」をしようとは思っていない。ただ、読者を「引っ掛けたい」だけなのだ。
 いや、確かに私も、ミステリ読んでて久しぶりにトリックに引っかかりましたよ。でもね、心地よい引っかかり方じゃないんですよ。たとえアンフェアではなくても、こういうインケツを仕掛けねばならないほど、ミステリというジャンル自体が行き詰まっていることを証明しちゃってるんだもんねえ。
 ……でもこういうインケツなトリックなら、私も今まで書いた戯曲の中で使ったことあるんだよなあ。
 いじいじ。

 夜中、そろそろ寝ようか、という頃になって、女房やっと目覚めて来る。今日は仕事がなかったらしい。
 「……あ―っ、私のパンがない!!」
 なんだ、お前のだったか。すまんすまん、外に出してあったから、私へのかと思っちゃったよ。
 ……こりゃ、しばらくはネチネチネチネチと、この件で責めたてられるな。そのことが気がかりで、寝つけずについ夜更かし。……明日ちゃんと起きられるのだろうか。



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