あふりかくじらノート
あふりかくじら



 懐かしさの狭間、エディンバラの追憶。

天気の良い午後、いつもの石畳の通りを歩く。
いつもの教会、いつもの陽射しが降り注ぐ。
みなれた店、パブの扉。

わたしは、この街を懐かしく思う。
スデニ、ナツカシサノハザマ。

初めてここにたどり着いた日。
大学院にいきはじめて、睡眠時間を削りながら
課題を読んだ日々。

ひとつところに、トドマレナイ。

あの瞬間のわたしから、今のわたしはもう
ずいぶん遠いところに来ていて、街では
知っている顔とすれ違う。

もう、すっかりこの街に慣れてしまった。
その石畳、ときの流れ、古い記憶、旅人たち、
城、大聖堂、酸素、陽射し、酵母のにおい、
日に焼けたパブの看板、バグパイプ…。

わたしがひとつところに存在する意味とは何か。
わたしの感覚のなかでの土地の変貌とは何か。

エディンバラという街を、わたしはとても好きだ。
だから、この街にいながらにして、すでに懐かしい。

そう感じたとき、ここを去る日のことがみえてきた。

もう、ここへきて8ヶ月になる。
それは、わたしのなかで、ある意味悠久の時間。

いつかは、去らなくてはならない。
ひとりで。
…ひとりで。


2001年05月10日(木)
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