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Montgomery Book

第4章 熱意とともに (1) 扉の言葉
 熱のある人が好きだ。熱のある人は、特有の求心力をもっていて、まわりの人たちに向上心や意欲のおすそ分けを惜しげもなく与え、その人がいることで、生きていくのも悪いことではないと思うことができる。表面的な陽気さや強さとは異なる、伝染性の強い、内なる力。おそらくは瞳を通じて外に現れている力。

 熱のある人が作家であれば、私たちはその人生を直接知らなくても、残した言葉からエネルギーを分かち合うことができる。モードは、そういう意味で熱のある人、熱意の人だった。「しなければならない」ことがあったのである。本人いわく「モンゴメリ一族の情熱」だというが、それだけではないだろう。生まれもっただけの才能によるものでもないだろう。何かをやりとげるには鉄の意志が必要で、鉄をあたためるのは熱意である。それは、あきらめることをしない愚かさをも意味する。しかし、その戦いがやがて勝利を生むこともある。「赤毛のアン」は何度断られ、送り返されたのだったか?4回、記録によっては5回である!途中、2年間も屋根裏で眠りながら。

 「作家」にとって最も大切なものは残した著作である。人生のどのような苦悩も、もはや誰知る人のない世界に去ったあと、書かれなかったことは忘れられる。そして彼女は書いた。自らの精神的な遺伝子を伝える本の扉に、モードは必ずといっていいほど、影響を受けた詩や、大切な人々へのメッセージを残している。興味深いことに、モードは自分の父母や夫、子どもたちといったごく近い身内はその対象としていない。「扉の聖域」に誰かへのメッセージを書く作家は、作品を書いている途中、すでに誰にどのように捧げる作品かを決めているはずである。それを知ることは、作品の成り立ちや作家にとっての意味をより深く味わうことになるだろう。引用詩が教えてくれる、モードの本棚の聖なる場所とともに。

 以下、主な著作のなかから、献辞とともに扉の言葉を拾ってみた。特に詩についてはできる限り、原書からも引用した。(訳注のないものは拙訳)

   *  *  *  

*「アンの青春」
Flowers Spring to blossom where she walks The careful ways of duty, Our hard, stiff lines of life with her Are flowing curves of beauty.
-WHITTIER

彼の女(ひと)の細心に歩む義務の道に、花、咲き出で、彼の女と共にある険しき人生は、美しき曲線をなぞりて流れ行く。
-フィッティア
(篠崎書林版/谷詰則子訳)

ご厚意と激励に感謝し、古き日の我が師、ハリエット・ゴードン・スミス先生に捧ぐ
(篠崎書林版/谷詰則子訳)
(ゴードン先生は、15歳頃までの恩師。子どもたちに人気があったキャヴェンディッシュの先生。)

*「アンの愛情」
All precious things discovered late To those that seek them issue forth, For Love in sequel works with Fate, And draws the veil from hidden worth.
-TENNYSON

遅くに見出されし貴き物はすべて
捜し求める人々の下(もと)へと流れ行く
打ち続く愛が運命に働きかけ、
ヴェールを引いて隠された価値を現す故なり。
-テニソン(篠崎書林版/谷詰則子訳)

アンについて"もっと多くを知りたい"という全世界の若い女性たちに、この書をささげる
-L・M・モンゴメリ
(村岡花子訳/新潮文庫)

*「アンの幸福」
全世界に在る アンの腹心の友人たちへ
(村岡花子訳/新潮文庫)

*「アンの夢の家」
ローラ・アグニュー
(プリンス・アルバート時代からの親友、弟のウィルは若くして亡くなる)

我々の親しい者たちは
あちこちにやしろを築いた、
そこで我々の知っている神々に祈り、そしてささやかな美しい家に住む
-ルパート・ブルーク(村岡花子訳/新潮文庫)

*「炉辺荘のアン」
W.G.P.
(ウィル・プリチャードに宛てたものと思われる。インフルエンザで1897年に死亡。赤毛で緑の目、ゆがんだ口もと。ハンサムではないが素敵、とモードは日記に残している。アンになってよみがえったかのような少年だ)

*「アンの娘リラ」
1919年1月25日、夜明けとともに私のもとを去った、
真の友にして、たぐい稀な人格の、誠実で勇気ある魂、
フレデリーカ・キャンベル・マクファーレンの思い出に
(病死した幼なじみで仲良しのいとこ、フリードに捧げられている。他に「ストーリー・ガール」)

*「アンの友達」
人生の平凡なことがらの下に秘められた美しさは歌われずして過ぎていく。
-フィテヤーの詩より
(村岡花子訳/新潮文庫)

*「ストーリー・ガール」
フリード・キャンベル
(「アンの娘リラ」参照)

*「ストーリー・ガール/黄金の道」
メアリ・ローソン
(母方マクニール家の大叔母。一族の語り部でもあり、モードの仲良しだった。ストーリー・ガールと同じ才能を持っていた人物)

*「マリゴールドの魔法」
ノラ・リファジー
(P.E.I.の少女時代の親友)

*「銀の森のパット」
アレック&メイ・マクニール
アレックとメイと、シークレット・フィールドに(英語版)
(銀の森の当主が、「のっぽのアレック」であるのは偶然ではないらしい。シークレット・フィールドとは、作中に出てくる「秘密が原」)

*「パットお嬢さん」
アーネスト・ウェッブ夫妻とご家族に
(アーネスト・ウェッブは、モードが後半生親しくしていたいとこ、モートル・マクニールの夫。)

*「可愛いエミリー」
To George Boyd Macmillan
Alloa, Scotland
in recognition of a long and stimulating friendship
長きにわたり、励みとなっている友情に感謝して、
スコットランド、アロウアのジョージ・ボイド・マクミランへ
(マクミランは生涯の文通相手)

*「エミリーはのぼる」
To "Pastor Felix" in affectionate appreciation
愛情をこめた読み手であるフェリックス牧師に

「エミリーの求めるもの」
To Stella Campbell Keller of the tribe of Joseph
ヨセフを知る一族、ステラ・キャンベル・ケラーに

*「青い城」
イーフレイム・ウィーバーに
(長年の文通相手)

*「もつれた蜘蛛の巣」
わが良き友フレッド・W・ライト夫妻に捧ぐ
笑いに満ちた、ある一週間の思い出に
(谷口由美子訳/篠崎書林)
(結婚後、家族ぐるみの付き合いをしており、一緒に旅行なども楽しんだ友人)

*「果樹園のセレナーデ」
ベアトリス・A・マッキンタイアに
(いとこのバーティ)

*「夜警」(詩集)
「そして守りの者どもは 彼を畏れたれば 戦きて死人のごとくなりぬ」
(マタイ伝二十八章四節)
(吉川道夫・柴田恭子訳/篠崎書林)

*「赤毛のアン」
The good stars met in your horoscope, Made you of spirit and fire and dew.
-BROWNING
吉星が誕生の天宮図で出会い、魂と炎としずくからあなたを創った。
-ブラウニング
参考文献
2001年12月05日(水)


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Keika