ケイケイの映画日記
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2024年10月09日(水) 「悪魔と夜ふかし」




私の大好きな、いかがわしいオカルトホラー(笑)。かつて、夜のバラエティ番組で、予期せぬ惨劇が映されたビデオテープが発見されたという、架空のお話しです。1970年代半ばのオカルトブームの時、私はミドルティーンで、この手の放送がその頃から好きだったので、どっぷりと懐かしさに浸りました。とある事にも気付きがあり、私的に面白く鑑賞しました。監督はコリン&キャメロン・ケアンズ。

ジャック・デルロイ(デヴィッド・ダストマルチャン)は、夜更けのトークショウー番組「ナイトオウルズ」の人気司会者です。長年高い視聴率を誇っていましたが、最近は低迷気味。起死回生を図り、悪魔を呼び出す儀式を、番組内で行います。しかし、これが思いもよらぬ惨劇を生むのです。

劇中、当時の風俗やオカルトが席巻した時代感を、丁寧に作り込んで蘇らせています。私は子供の頃から、アメリカのコメディドラマやアニメが大好きで、当時の空気感を絶妙に漂わせる美術が秀逸。髪型からファッション、番組構成まで、架空なのに懐かしくて、ウハウハしてしまった(笑)。

映画の「ネットワーク」が作られたのも、この時代。熾烈な視聴率争いも描かれます。視聴率が取れりゃ、何でも有りが描かれます。胸が痛かったのは、おしどり夫婦と称されたジャックの妻が癌に侵され、瀕死の床から夫の番組に出演し、夫への愛を語る場面。お涙頂戴で視聴率を稼ぐのが目的です。表向き大の愛妻家であると言われるジャックですが、本当に妻を愛しているなら、こんな死ぬ一歩手前の病み果てた姿、大衆の前には晒せません。酷い夫だと思いました。このシーン、私には重要でした。

何やら怪しい団体にも出入りするジャック。「アイズ・ワイド・シャット」で、描かれた宗教団体を想起しました。低迷する視聴率のテコ入れに、団体の居住地で火事が起こり、そこの生き残りの少女リリー(イングリット・トレリ)を、番組に出演させます。

これには裏があり、リリーの保護者的存在のジューン(ローラ・ゴードン)は、ジャックと出来ている。今は独身なんですから、公的に公表しても良いものを、元愛妻家ジャックは、妻の死をいつまでも悲しんでいなければならないのでしょう。それも視聴率のため。

ユリ・ゲラーが、当時世界を席巻していましたが、Mr.マリックが出てきた時、ユリより凄いじゃん!と思いました。マリックも超能力者を名乗りますが、それはシャレで、彼がマジシャンなのは、衆人が知っていました。今回種明かしに催眠術も使われます。そう言えば、プリンセス・テンコ―の師匠、初代引田天功が、「さん〜、にぃ〜、いち!」と、テレビで睡眠術を披露していたのもこの頃。アメリカでもそうだったんだと、感慨深い私(笑)。でもこれで騙すのは、凄い高等技術ですよ。裏でプロデューサーとジャックの、仕込みがあーだ、こーだの胡散臭さ満開の会話も、昔だから成立したんですよね。オカルトのお安さは、大衆向けの娯楽としては、手頃だったのでしょう。

私は信仰はしていませんが、神や仏は信じています。でも悪魔は信じていない。馴染みがないからでしょうか?その代りと言ってはなんですが、怨霊は信じています。惨劇の理由は、私は悪魔の降臨ではなく、怨霊だと思うんですが。

一昨年96で亡くった父は、「昔は女は男のついでに生きとったもんや」と、嘯いておりました。それは日本だけではなく、アメリカでも、多分世界中でそうだったんでしょう。そう思わすのは、ジャックが「自分のため」病身の妻を人目に晒したり、恋人ジュリーを日陰者扱いしたり、懇願を却下したりする姿です。二人を踏み躙っているのに、良心の呵責もない。自分の無慈悲な行いに、疑問すらないのです。だって妻や恋人は、自分のついでに生きているから。

夢か現か幻か。妻との再会に喜ぶジャックですが、その妻が怒りの鉄槌を下したとは、夢から覚めても解らないかな?きっと解らないでしょう。

オカルトや風俗だけではなく、1970年代の、そういう男尊女卑まで網羅して描いた作品です。結構秀作でした。


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