ケイケイの映画日記
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2024年10月01日(火) 「サウンド・オブ・フリーダム」




打ちのめされました。「闇の子供たち」でも描かれた、児童の人身売買。「闇の子供たち」は、当時今よりずっと貧しかった東南アジアが舞台でしたが、この作品の主な舞台は、中南米。世界中で蔓延る事なのだと、暗澹たる想いです。ラストで知りましたが、ジム・カヴィーゼル演じる捜査官は、実在の人です。志の高い崇高な作力作。監督はアレハンドロ・モンテベルデ。

アメリカ人のティム・バラード(ジム・カヴィーゼル)は、国土安全保障省の捜査官として、性犯罪で誘拐された児童の捜査をしています。保護したホンジュラスの少年と、一緒に拉致された姉ロシオ(クリスタル・アパリシオ)を救うと約束した事を切欠に、上司と掛け合い特別捜査の許可を得ます。単身コロンビアに渡ったティムは、当地の警察官から、秘密裏に子供たちを解放する闇社会の大物バンピロ(ビル・キャンプ)を、協力者として紹介されます。

冒頭、子供たちが誘拐される様子が描かれます。ホンジュラスでも地方なのでしょうか、さりげなくあちこちに、文明の遅れなど貧困を感じさせる演出です。彼の地では、市井の人々の立身出世は、まだまだ芸能やスポーツしかないのでしょう。父親の無防備な様子は、日本では考えられませんが、ここでは仕方ないのだろうと、納得しました。むしろ、父親の深い哀しみに寄り添う演出に、感じ入ります。

小児性愛者(ペドフィリア)を捕まえるのが仕事のティムたち。同僚が、「この仕事は辞める。犯人を捕まえても、子供たちは一人も助けた事がない」と言う。ティムは報告書に犯罪の克明な様子を書く時、涙します。この様子に、彼らもまた、子供たちや親と同じく傷ついているのだと、痛感します。この事は念頭に会った事がなく、捜査官たちに、心から申し訳なく思いました。それと同時に、百戦錬磨の捜査官たちにさえ、心の傷を癒えさせない、最悪の犯罪なのだとも認識しました。

どす黒く華やかな裏社会で生きるバンピロが、ペドに食い物にされる子供たちを救おうと決心した理由が、とても感動的です。数々の罪を犯した彼が、初めて死にたいと思う程悔やんだ罪が、自分が買った娼婦が、25歳ではなく14歳だった事です。頭に降りた神の啓示に従ったと言うバンピロ。執拗にペドフィリアの罪深さを描き、また悪党にも、善なる心に灯がともる事も示唆しています。

この作品に根底には、神があります。ティムしかり、姉弟しかり、バンピロしかり。ティムが少年から貰ったネックレスは、ティムと同じ名前の教会のものです。父から姉にプレゼントされ、それを姉は、別れの際に弟が守られるよう、渡したのです。ティムの魂に火をつけたのは、このネックレスです。

ティム自身、6人の子供を持つ善き父です。命がけで、猪突猛進するように見える彼ですが、妻子の気持ちを置き去りにしているのではないと描写する、妻(ミラ・ソルヴィノ)との毎日のメール。実際の妻も、夫を鼓舞してくれたとか。「お父さんは、あなたたちより、見ず知らずの女の子が大切」だと教えるより、「お父さんは、一人の女の子の命と人生を守るた、崇高な仕事に就いている。」と伝えるのでは、最悪の時に、子供たちの感情の守られ方が違います。これは例え話で、伝え方の良し悪しのつもりではありません。家庭生活は平穏な時だけではなく、時に嵐が吹き荒れる事も多々あります。その時、夫婦は良く話し合い、同じ方向に向く事が、如何に大切かと感じます。妻もまた、信仰しているのでしょう。

もう一人感じ入った存在が資産家のパブロ(エドゥアルド・ベラステーギ)。囮捜査のためには莫大なお金が必要で、身の危険を感じ悩んだあげく、子供たちを救うため手を貸します。ここも富める者は貧する者へ分け与えるという、キリスト教の教えが隠れていたと思います。

隠れテーマは神でしょうが、バンピロのように清濁併せ吞む人、パブロのように損得を抜きにして応援するパトロンの存在が、大切かを教えます。正論だけで通用しない世の中で、様々な境遇の人々が協力しあって、正義を貫かねばいけないのですね。

とにかく展開がスリリングで、最後の最後まで息がつけませんでした。社会派サスペンスとしても、娯楽面でも秀逸です。ティムの強靭な正義感は、最後まで観客の心を動かし、突き動かしてくれます。

この作品はある方面から圧力がかかり、(政治的?資本?)製作から五年間お蔵入りだったとか。何たること!子供は、清潔な環境に身を置き、栄養に配慮した食事を取り、勉学と社会性を身に着けるよう学校に通い、親や親に替わる人から、愛情を持って育てられる。これは子供の権利です。書いていて、虚しくなりました。世界中どころか、日本でも、ここからこぼれ落ちる子供たちが、たくさんいる事に。

ティムは何故命懸けで、ロシオを救いたかったのか?「ロシオは希望だ」と語ります。苛烈な捜査で傷ついた心を癒すのは、ロシオを救い出す事でしか、叶わないと思ったのですね。ロシオの身の上の辛さは、自分と同じなのだと。ロシオの事を、自分たちの娘のようだと妻と語り合うティム。バンピロも、14歳の娼婦の闇は、自分の闇だと言っています。この尊い気持ちが、全ての人に伝わりますように。

観るのに勇気が必要な作品ですが、大人として、子供たちへの責任とは何か?もう一度鑑みたくなる作品でした。演じる子供たちへ配慮があるので、直接的な性暴力のシーンは無かった事を、付け加えます。必見作です。





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