ケイケイの映画日記
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8年前、「ケンとカズ」(私は未見)が評判を呼んだ、小路紘史の製作・監督・脚本の作品。自主映画の形を取っています。噂に違わぬ力のある監督さんで、やくざ映画として、大変楽しめました。ただ楽しめた分、う〜んと引っ掛かった箇所もあるので、それも書きたいと思います。
裏家業に身を置く孤独な男・辰巳(遠藤雄弥)。昔の恋人京子(亀田七海)の妹、葵(森田想)が起こしたいざこざのため、久しぶりに京子と再会します。しかし、程なく彼女は組の内輪揉めのため、巻き添えで殺害されます。葵は復讐を誓い、辰巳に援護を求めます。
シャブで死んでいく辰巳の弟(藤原季節)のショッキングな冒頭から、暴行で死に逝く者、モノクロの実録物風のオープニング、死体処理の場面など、のっけから、そりゃR15の場面の羅列です。お世辞にも美しいと言える風景など一切なく、汚いセット、汚い場面、暴力シーンの連続ですが、目を覆うかというと、そうでもなく、嫌悪感もない。唯一の嫌悪感は、自分が悪いのに、葵が相手かまわず、唾を吐く事。この子のキャラが、少年院入り寸前の19歳の設定で、傍若無人なクソガキでしたが、パパ活する輩より、ツナギを着て自動車の修理工をするのは、性を売りにせず大変よろしくて、好感が持てます。
「性」の視点で観ると、この手の作品に付き物の、捕らわれたら、女はレイプしてなんぼ、バストもはだけるのが常ですが、それが全くなかった事に感激でした。レイティングの加減で、今はその手のシーンがあれば、R15が難しいのかもですが、ここもポイント高し。
内容は、「レオン」でした。辰巳と葵は年が離れており、葵は辰巳を「おっさん」と呼ぶ。シノギの辛さに、やくざの面々は副業もしており、組と組との抗争ではなく、組内のシャブの盗みあいが元の設定も、世知辛い昨今のやくざの現状を物語っています。実は・・・の黒幕ありぃの、噛ませ犬ありぃの、ライフルの特訓ありぃのの中、迷惑がっていた辰巳が、次第に葵の心情に心寄せていく様子も、澱みがありません。
何故そうなるのかは、弟を見殺しにしてしまった悔恨があるのでしょう。葵に弟を重ねている。愚直で寡黙。しかし、温かい血が流れている男なのは、かつて愛した京子を、看取る場面で解かるのです。「お前の家族はあの娘か?俺達じゃないのか?」と、兄貴(佐藤五郎)に問われるも、葵を選んだ辰巳は、所詮やくざはクズなのだと、深々心に刻んでいたのでしょう。どこか自分に相応しい死に場所を求めていたのかとも、思います。
「風俗に売るぞ」のセリフもあったし、簡単に口封じも出来たのに、葵に対して誰もそうしない。それは彼女が不良でも堅気であったし、クズのはずのやくざにも、心の中に辰巳の弟のような存在があったのかも知れません。その感情を引き出したのも、辰巳です。
遠藤雄弥が、とってもカッコいい!時々見かける顔ですが、出ずっぱりにも健闘しており、堂々の主役っぷりでした。紛れもなくやくざなのに、ずっと清廉さを醸し出しているのは、彼の好演のお陰です。
森田想(こころ)も、とっても良かった!出だしは本当に腹の立つクソガキでしたが、後半からのピュアな心根を全面に出して、一心に姉の復讐を誓う姿は強く印象に残ります。
だからこそ、疑問の葵のセリフがあるんです。辰巳に京子のどこが好きかと問われて、姉のセックスを覗き見した事、男を寝どったのに、姉が許した事を語りますが、せっかくこの子に心を寄せ始めていたのに、ドン引きでした。あくまで私だけかも知れませんが。
そんな下品で下衆な事ではなく、親に早くに死に別れ、代りに育ててくれたとか、どうしようもない不良で、親に折檻されていたのを庇ってくれた等、平凡だけど、これで良かったんじゃないかなぁ。
人に人格があるように、例えヤクザ映画でも、映画には格があるものだと、私は思っています。それは登場人物のキャラに大いに関係があると思います。折角無名に近い俳優さんたちが頑張って、テンポよく面白く、行間もスラスラ読ませてくれていたのに、個人的に、とても残念でした。この作品には「格」があると思っているので。
とは言え、監督のポテンシャルは高く、とても手応えを感じています。早い次作を期待しています。「自分が今日死ぬって、知ってた?」と、銃口を相手に向けて言う葵。19歳の女の子の、このクールでハードボイルドなセリフに、痺れてしまった。今後もこんなセリフやシーン、期待しています。
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