ケイケイの映画日記
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2024年01月21日(日) |
「NOCEBO/ノセボ」 |
親愛なる映画友達のプッシュで観て参りました。私がホラー、ミステリー好きというのをご存じで、尚且つ「90分ちょっとです」(長い映画は大嫌い)との魅惑の囁きに、付き合いの長さを感じ、恐悦至極でございました。あまり話題には上っていませんが、期待通りの秀作でした。ロルカン・フィネガン。
子供服のデザイナーとして活躍するクリスティーン(エヴァ・グリーン)。マーケティングの仕事で世界中を回る夫のフェリックス(マーク・ストロング)と、小学生のボブス(ビリー・ガズドン)と、お城のような邸宅に住んでいます。仕事中にある幻影を観てから、原因不明の体調不良に襲われるクリスティーン。8か月が過ぎます。そこへクリスティーンに雇われたと、フィリピン人メイドのダイアナ(チャイ・フォナシエ)が現れます。雇った記憶はなかったクリスティーンですが、民間療法で体調をほぐしてくれるダイアナを、信頼していきます。
甲斐甲斐しくクリスティーンの介護をし、家族の世話をするダイアナ。しかし自室に祭壇を作り、クリスティーンの体調不良の原因を作ったダニを箱にしまいます。普段は優しい笑みを浮かべているのに、時々、刺すような視線をクリスティーンに向ける様子が不穏です。
ダイアナは、とある不可抗力で、魔術師を引き継いでしまったと語ります。その名はオンゴ。その魔術のせいで、人からは嫌われ、貧しかった彼女の親は、娘で金儲けしたと、辛い自分の半生を語ります。そして自分を信じて欲しいと、クリスティーンに伝えます。
時系列がバラバラで、クリスティーンの近しい過去、ダイアナの生い立ちが、今と並行して、少しずつ挿入されます。そこには他者の子供にも優しく、幸せな家庭を築いていたはずのクリスティーンの裏の顔と、魔術を使い、豪勢な暮らしも出来たはずなのに、魔術を封印して、平凡な道を歩んでいたダイアナの様子が描かれます。この少しずつ、が、とても効いている。ジグゾーパズルが少しずつ埋められていくように、二人の女性の真実の顔が浮かび上がる様子がとても秀逸で、脚本の上手さが光ります。
ボブスは学校で虐められており、両親は仕事で忙しい。どこにも居場所がないのです。母であるクリスティーンは、娘の自分に向けられる毒舌は、その苛立ちだからなのに、そんな娘が疎ましい。しかしダイアナは、少しの交流で、ボブスの悩みを見抜きます。それは魔術師だからではなく、ボブスを見守る気持ちがあったからでしょう。そこにこの二人の、母としての素地や素養が、現れていると思いました。
母親の体調の悪さに心配し、言葉をかける娘に、「あっちへ行って!」と、冷たく告げるクリスティーン。親の不調は子供の心を不安にさせるものです。親なら、子供を不安にさせる事に、申し訳なさを感じるはずなのに。自分の感情を優先させるクリスティーンの冷酷な姿に、違和感と嫌悪感を持ちましたが、ショッキングなラストの展開で、それは当然だったんだと感じます。
明かされる真実。ここでも描かれる「黄色人種の命は、白人より軽い」。日本人が「名誉白人」扱いされるのは、皮肉でしかないのだなと、痛感しました。そして、とても居た堪れない気持ちになりました。平凡な幸せを夢見たダイアナが、再び封印していた魔術を使った気持ちは、当然だと思います。
日本が少しずつ沈滞化し、今まで考えられなかった出稼ぎ労働に、海外へ出ている人も多いと聞きます。そんな今だからこそ、東南アジアから就労ビザで日本で働く人たちの気持ちが、理解出来るのでは?国力が落ち、経済力が落ちた今だからこそ、人としての、正しい理性や感情が取り戻さなければいけないのだと、この秀逸なスリラーを観て、痛感しています。
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