ケイケイの映画日記
目次過去未来


2023年12月04日(月) 「首」




壮大な茶番シリーズ第一弾(二弾目は『翔んで埼玉』)。構想30年とか、あの黒沢明が、たけしが撮れば素晴らしい作品が云々、そんな大風呂敷広げるから、映画好きの皆さんが落胆するのであって。宣伝が間違っています。私のように久々に夫婦で観るには、これしかなかったもんには、そこそこ楽しめました、はい。監督は北野たけし。

時は織田信長(加瀬亮)が天下を支配する時代。謀反を荒木村重(遠藤憲一)を捕まえた者は、跡目を継がせると信長が宣言。秀吉(ビートたけし)、明智光秀(西島秀俊)、徳川家康(小林薫)らの、駆け引きが始まります。

武将としての人格者は一人もおらず、ただ猛々しく騒いでいるだけでね。皆が疑心暗鬼で虎視眈々と跡目を狙う姿は、「アウトレイジ」の戦国版ですな。誰も彼もが自分の権力を肥やす事しか考えず、国の事なんか考えてないのね。政は当時は武士が治めていたけど、今で言えば政治家。この品性下劣な武士たちは、今の世を観ているようだわ(笑)。

談合・作戦、みんな緊張感なくユルユルで、コントのようです。合間合間に戦の場面が挿入され、血しぶきと首が飛ぶ。私はあまり「首」の意味は読み取れなかったですが、あんな誰が誰だか判らない戦の中なら、首でも取らなきゃ、死は確認出来なかったんでしょう。私は勝ち戦の象徴が大将の首で、戦の手柄や誉れだと、今まで思っていました。でもこの作品を観て、そんな大層な意味はなかったんじゃないかと、感じました。

時代劇を演じられる俳優が少なくなったと言われていますが、渡辺謙に中井喜一、「梅安」がとても良かったトヨエツだっているはず。キャストは、わざと時代劇に合う重厚さを醸し出す俳優は、外したかと思いました。演技巧者のこの作品の俳優陣にも、わざと軽いお芝居をして貰っていたと思います。加瀬亮の怪演がとても印象的ですが、そりゃ親のような年のたけしや小林薫を配下に置くには、あれくらい歌舞かなきゃね、貫禄負け確定だもの。

他に良かったのは、服部半蔵の桐谷健太。彼、シュッとしててハンサムなのに、三枚目とか変わり者の役が多く、勿体ないと思っていました。今回眼光鋭く、忍らしい立ち振る舞いがカッコ良かったので、すごく満足です。

「アウトレイジ」も二作通じて、激安の女性ばっかりで、綺麗どころは板谷由夏だけだったと思いますが、今回その荷を背負うのは、おてもやんメイクの柴田理恵。退化しとるのか?いや、進化?(笑)。その代わり、武士道の一環(そうか?)である、男色は満開。あーでもね、前作での「翔んで埼玉」で、GACKTと伊勢谷友介のキスシーンは、中年になっても美形ならありだなと思いましたが、今回はキツかった。柴田理恵の起用も男性同士の濡れ場も、これも計算済みだったんじゃないかなぁ。戦場→男ばっかり→男色。そうかな?これって刑務所の法則かしら(笑)。

血しぶき、泥まみれ、低俗な品格と、これでもかと醜悪さを見せつける。武士だなんだと言いながら、本当はこうだったんだよという、たけし流のブラックジョーク時代劇だと思って観ていたのが、「そこそこ面白かった」理由です。武士と言えば「せ」の付く行いですが、劇中、コメディ色の強い荒川良々のみにふっていたのも、この作品の意味を汲んで貰いたいという監督の、確信犯的なプロットかも知れません。

夫は途中、寝ていました(笑)。「おもしろなかったん?」と聞くと、「いや、座ると寝てしまうのや」(お爺さんなのでごめんよ)と言っており、「寝てたけど、話は解かった。そこそこやで」という感想です。うちの夫はNHKの大河大好きおじさんで、「三谷幸喜が大河をダメにした」と、常々言っておりますが、この作品は合格点だった模様。舞台が本能寺の変の前後なのも良かったのでしょう。だいだいの人が知っているのよね。新解釈で描いていますが、太い幹は動かさなかったのも、功を奏しています。「寝てても解る」のは、ブラックジョークとして描くには、好都合でした。

三池の「十三人の刺客」を観た時、松方弘樹が出てくると、ガーッと!画面が引き締まり、誰よりも華やかになるのに、びっくりした記憶があります。今の白鳳、当時の幸四郎より、もっともっと松方弘樹が、脇役なのに凄かったです。これが時代劇を背負って立っていたスター俳優の力量なんだなと、感動すらしました。「首」には、そんな人は一人もいません(笑)。でもね、たけしなら、そんな演出も多分出来ると思います。今回はブラックジョーク本能寺、という事で。またの機会、楽しみにしています。




ケイケイ |MAILHomePage