ケイケイの映画日記
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2023年01月23日(月) 「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」




権力を利用したハーヴェイ・ワインスタインの数々の性的蛮行を暴き、社会現象とも言える「me too」運動を巻き起こす元となった、NYタイムズ紙の記事を書いた、二人の女性記者のお話しです。ずっと緊張感が持続する取材現場も然る事ながら、この二人が子供を持つママさん記者である事に、とても感銘を受けました。社会に波紋をなげかけた事件の掘り下げだけではなく、優れたお仕事映画でもあります。監督はマリア・シュラーダー。

2017年、NYタイムズ記者のミーガン(キャリー・マリガン)とジョディ(ゾーイ・カザン)は、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが、以前より女優や従業員に性的暴行を繰り返している事実を掴みます。しかし映画界で絶対的な権力を持つスタインを恐れ、多くの女性たちは泣き寝入りしています。二人は被害者に寄り添いながら、少しずつ事件の全貌に迫っていきます。

記者たちは「オフレコ」ではなく「オンレコ」に拘ります。結果は判っているのに、観ている間、ジリジリ、モヤモヤ、すごいストレスです。詳細の掴めた大半が示談を選び、その時の誓約書に、口外せずを選んでいます。彼女たちは辛抱強く被害者たちに寄り添い、証言を得ようとします。記事にしたいのは、今後の被害者を食い止めたいからで、正義感と言えます。決して功名心からではないのが観ていて判り、ここはすごく清々しいです。

数々の被害は、聞くに堪えない物です。被害に遭わなかった人は、早く忘れるべきだと言うでしょう。しかし、性被害と言うのは、本当に心を殺すものです。私が生まれて初めて痴漢に遭ったのは、中学一年の時。しっかり今も屈辱感と嫌悪感を覚えています。彼女たちはそれよりもっと酷い被害に遭っているわけで、証言したくないのは、心の底に封印していた記憶を、甦らしたくなかったのが、一番のように感じます。

一人、また一人と彼女たちの熱意に絆され、証言していく被害者たち。それはやはり、同じ女同士と言う事が最大の要因だったと思います。自分の心情を、有りのまま掬い取ってくれるだろうとの、期待です。性犯罪は、被害者が何故か叩かれる犯罪です。劇中にも「枕営業して、仕事を取った女たちのことだろう」とのセリフが出てきます。今でも女性が被害に遭うと、服装だとか時間帯だとか、さも被害者に隙があるように言われます。私が初めて痴漢に遭ったのは、校外活動のため、通学とは違う路線で、一人で天王寺に向かっていた時です。格好はリュックサック、制服、三つ編みでした。これのどこに隙があると?

実際は権力にある男性に迫られ、逆らうと仕事を失う、暴力が怖い、良からぬ噂を立てられるなど、恐れが中心だと描かれています。男女逆は、滅多に聞いた事がない。いつもいつも思うのです。世の中の悪しき環境は、一部の権力のある男性のせいだと。もちろん、女性もいるでしょう。しかし女性は数が少ない。そして出世すると、何故か「特権階級の男」になってしまう。権力と欲は、繋がっているからだと思います。

アシュレイ・ジャッドが、被害者本人で出演。たくさん主演作があったのに、ワインスタインに盾突いて、干されてしまったのは、事件が明るみに出るまで、知りませんでした。権力者の男に屈しなかった彼女は、老けはしていましたが、その代り、人としての誇りを手にして、凛々しかったです。またスクリーンで会いたい。

ミーガンもジョディも、結婚していて子供がいます。仕事の出来るミーガンが、産後鬱から脱したのは、仕事を再開したから。自分を取り戻したのでしょう。共感も理解も出来るのですが、多くの女性たちは、ジョディの方に共感するのではないかな?「向こうにはあなたが話して」とバディのミーガンに言われ、「えっ?私?」と驚くジョディですが、「あなたの方が威圧感がないから」と返事されます。それは正解だと思う。多くの証言は、子供がまだ赤ちゃんのミーガンではなく、そこそこ大きい(でも小学生と幼児)ジョディが取って来ています。親しみ易さは、人の懐に飛び込む時には、重要な武器になるしね。子供の年齢差で、働く女性の環境に差があることも、描き込んでいます。

忘れちゃならないのが、旦那さんたち。妻たちの活躍の陰に夫ありなんて、嬉しいじゃないですか。それも「貴方に感謝している」風のセリフもなく、極普通に妻を支えていました。妻の、夫の手柄は、二人のもの。これからの世の中は、そうでなくては。私が好きだったシーンは、夜中子供が泣いた時、ジョディの夫が「僕が行くよ」と言うと、ジョディは「私が行くわ」。その直後「二人で行こう」となるシーン。夫婦は、こうでなければ。

ゾーイ・カザンは初めてちゃんと観ました。ビリングはキャリーが一番ですが、実質はゾーイの方が描き込まれています。熱演したくなるところを、ぐっと抑えて、優しい母の顔、被害者に寄り添い信頼を得る優秀な記者の顔とを、真摯に演じていて、心に深く残ります。


彼女たちの上司にパトリシア・クラークソン。二人に比べ、私生活は全く出てこないので、独身なのでしょう。一昔前は、女性がキャリを積むためには、幸せな家庭は諦めなくてはいけなかったのだとの、表現だと思いました。ラストの男女混合のチーム一体で、記事を送信するシーンは、それまでストレス満載だったため、物凄いカタルシスでした。そうよ、世の中はこのチームのように、心ある男性もいっぱいです。より良き世界を作るためには、男女共に手を携えなければ。何故かオスカーにはガン無視ですが、秀作ですので、ご覧ください。



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