ケイケイの映画日記
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2022年05月08日(日) |
「リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス」 |
すごく良かった!素晴らしい!私がローティーンの頃から大好きなリンダ・ロンシュタットの半生を描くドキュメント。偉大な歌姫の人生を描くことで、音楽業界の成り立ち、ロックアーティストの光と影、移民問題、恋愛と家族、そして歌への情熱。これらが全て、くっきり浮かび上がっています。リンダのファンであることが、誇らしくなる作品。監督はロブ・エブスタイン。ナレーションはリンダ自身です。
先ず私がリンダのファンになった切欠の曲がこれ。 「またひとりぼっち (lose again)」 当時私は中学生。関西のUHF局の近畿放送で、「ポップス・イン・ピクチャー」(通称「ピップ」)と言う番組があってね、当時人気DJだった川村龍一(当時は川村尚名義)が司会で、豊富な洋楽の情報とPVを流していました。今みたいにネット等ない時代です。毎週とても楽しみにしてました。その時流れていたのが、このPV。観ていて何故か涙が止まらない。まだ子供の私にも、恋人と別れて孤独に向き合う女心が、切々と歌い上げるリンダの熱唱から伝わってきたのでしょう。その直後、当時これも愛読していた「ミュージック・ライフ」で、グラミー賞受賞記念的に、リンダの特集が組まれていて、彼女の生きざまにとても感銘を受けました。思春期に出合うのは、本当に運命的です。そして即行買ったアルバムがこれ。グラミーを受賞した「風にさらわれた恋」です。
リンダの曽祖父はドイツ人。メキシコに移住して結婚。時が流れリンダの父はアメリカ人の母と結婚。メキシコ国境沿いのアリゾナで育ったリンダは、アメリカ人です。父は自営業ではあったものの、メキシコの曲で歌手活動をしており、ラジオから母の好きなポップスが流れ、クラシックも大量に聞かされたそう。このごった煮のような音楽の洪水で育った事が、リンダの歌手としての礎になったのだと思います。
豊富な当時のリンダやその関係者の映像や歌が流れるのに並行して、現在の様子もインタビュー形式で映されます。これがお宝もの。私はイーグルスで一番好きだったドン・ヘンリーが出てきて、すごく嬉しかった(イーグルスで好きな曲は、全部ヘンリーがリードヴォーカルだった)。映像のみだったグレン・フライも、存命だったら出ていたはずだと、少し感傷的になりました。盟友だったボニー・レイット、エミルー・ハリス、そしてドリー・パートン。男性ではジャクソン・ブラウンに恋人でもあったJ・D・サウザー。皆が皆、良い年の取り方をしてたのが、本当に嬉しい。「あなたとリンダはお似合いだったのに、何故別れたんですか?」と聞かれたサウザーが、苦笑しながら「知らないよ。リンダに聞いてくれ」と返事。振られたんだね(笑)。
リンダはカバー曲がとても多く、自分で曲は書いていません。ドリー・パートンは「他人が歌った曲であっても、理解を深めて深めて、自分の曲として表現することは出来る」と言い切ります。ドリーの若き日の映像の曲は、彼女が作り歌った「ジョリーン」でした。この曲はオリビア・ニュートン・ジョンも歌って大ヒットしたので、敢えてこの曲を選んだのだと思います。
私の大好きな「またひとりぼっち」は、カーラ・ボノフの曲です。リンダが取り上げた縁で、世に出たカーラも歌っていて、「この曲はリンダの圧勝よ」と微笑みます。でもこれは謙遜。リンダと対照的に素朴に歌い上げるカーラも、当時好評でした。要は歌い手が曲をどう理解し、表現するか?聞く大衆はどちらを好むか?なのでしょう。俳優は演技力と共に、存在感が重要視されるように、歌手もまた、歌唱力と共に、表現力が大切なのだと、今更ながら痛感しました。いみじくもリンダ自身、「私より歌が上手い人はいっぱいいる」と語るのは、でも表現力では誰にも負けないと言う自負からなのですね。
レコード会社がフォークからロック、ポップスと、大衆に好まれる物を敏感に先取りし、発掘していく過程も描かれ、マネージャーやプロデューサーの腕が、如何にアーティストに影響するかも描かれます。そしてツアーからツアーの生活の中、才能の枯渇に怯え、疲弊した心身を癒すのに、アルコールやドラッグに手を出す実態も挿入。
「男性のロッカーたちは、女性のシンガーを敵対視し、見下す事で自我を守る」と言う若き日のリンダ。ボニー・レイットは「いつも私たちは一緒だった。女性シンガーが少なく、寄り添って協力していく必要があった」と語ります。全部今の世にも通じる話しです。彼ら彼女らの語りを過去の物とはせず、今を生きる教訓とすべきだと思いました。
フォーク、カントリー、ポップス、ロックと、世の中の求めに応じてシンガーとして変遷してきたリンダですが、アーティストとして確立した後は、自分の内面と正直に向かい合い、変遷していきます。オペラに挑戦したのは知っていますが、映像を観たの初めてで、上手くてびっくり!声の出し方から、何から何まで今までと違うはずなのに、お見事でした。その後、レコード会社から「売れない」と反対されたのに、母が好きだったジャズのカバーアルバム、父親のルーツであるメキシコ音楽のアルバムを出し、いずれもヒットさせています。恋多き女としても有名なリンダですが、これでもかと、ストイックに歌に情熱を傾ける様子は、恋はしても、結婚しなくて良かったのだと感じます。
イーグルスはリンダのバックバンドだったのは有名な話。当時彼らの独立をバックアップしたリンダは、「女の子をサポートするのは、決してカッコいいことじゃないから」と、「ミュージックライフ」で読んだ記憶があります。ジャズの時は、「シナトラが歌えるなんて、とても嬉しい」と語ります。作品の中で、「自己肯定感が低い」と評価されていましたが、そうでしょうか?これは謙虚な人柄が反映された言葉だと、私は思います。それと真逆な、音楽に対しての強情さ。リンダの多面性が伺えます。
同じ時代に人気のあった、同じくカントリーから出発したオリビア・ニュートン・ジョンが、その美貌から段々女優然として垢抜けて行くのに対して、愛らしい容姿にも関わらず、どこか垢抜けない人だと、私はリンダに感じていました。もちろん、そこも魅力なのだけど。メキシコ音楽の事を表する時、劇中「泥臭い」と表現されて、あっ!と思いました。垢抜ける事は、メキシコのルーツを否定して、自分で無くなる事と、もしかしたら、思っていたのじゃないかしら?ストイックな彼女らしいな。
最後は甥と従兄弟とのセッションが流れます。祖母からの遺伝のパーキンソン病を患い、現在闘病中のリンダ。自分の思うように歌えない今、穏やかな表情に悔しさは伺えません。音楽に捧げた自分の人生に悔いなし、と言うところでしょうか?跪いて、感謝を捧げたくなりました。どうか心安らかに、一日でも長く生きて下さい。ありがとう、リンダ。
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