ケイケイの映画日記
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2019年04月19日(金) |
「ビューティフル・ボーイ」 |
映画を観て泣くときは、色んな涙があると思います。感動、哀しみ、切なさ。でも辛くて辛くて泣き続けたのは、しばらくぶりの気がします。薬物依存症患者を持つ家族の姿を描いて、私は依存症の怖さより、子を思う親の愛情の深さや痛ましさの方を、痛烈に感じた作品です。監督はフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン。
心優しく優等生のニック(ティモシー・シャラメ)。父デヴィッド(スティーヴ・カレル)と母ヴィッキー(エイミー・ライアン)は、彼が幼い時離婚していますが、父の元で成長し母とも行き来があります。継母のカレン(モーラ・ティアーニ)とも良好な関係で、年の離れた可愛い弟と妹にも慕われています。それがある日、遊び心から薬物に手を出したニックは、坂を転げるように依存症に堕ちていきます。
人は自分や大切な人が闇を抱えた時、あれが悪かったのだろうか、これがいけなかったのだろうかと、思い悩み、答えを求めると思います。答えが解れば、対処方の糸口になるから。この作品の闇は薬物中毒。この作品を観る限り、理由は何もありませんでした。
優等生である事がストレスだった、父親が管理しすぎだ、ステップファミリーの中孤立した、実母の愛情が足らなかったのだ。この作品の背景で、ニックが薬に手を出した理由を論うには、幾らでもあります。でもどれもこれも関係ないと、私は断言したい。ただの遊び心、興味本位が招いた末路は、ニックと彼を愛する人々に、地獄の苦しみを与えたのです。これこそが、依存症の恐ろしさではないでしょうか?だから、誰しもがなる可能性があると。
父デヴィッドの姿が、ニック以上に痛ましい。怒りと哀しみが混濁し、一晩でも息子がいないと、狂ったように探し回る。時には大声で息子を怒鳴りますが、そんなの当たり前です。そして息子を理解しようと、果ては自分も薬物を試す。カレンと幼い二人の子との生活は、心ここにあらず。寂しさや不満を隠して、夫を支えるカレンの様子に、また切なさがこみ上げます。
そんな共依存一歩手前の夫を救ったのも、またカレンでした。逃げ去るニックを、車で猛スピードで追いかける彼女。泣きながらです。胸に去来したのは、私の家庭を壊すこの悪魔!もあったでしょう。でも大半は、どうしてお父さんの気持ちがわからないの?弟妹も、あなたが大好きよ。そして私も。帰ってきなさい。私はこちらだと思います。子連れのニックと結婚した時、夫の全てを愛そうと決めていたのでしょう。
ニックを追いかける車に、妻カレンの慟哭を見たデヴィッドが、その時真っ先に心配したのは、カレンが事故を起さないか、無事なのか?だったと思います。自分の人生を捨てて息子を救うのが自分の使命と思い込んでいたデヴィッドは、息子は人生の大切な一つ。自分には他にも守るべき者がいると、憑き物が落ちたのだと、その後の展開を見て感じました。
使命感は、執着の愛だったのかと思います。離れていた期間が多い実母ヴィッキーが、「あなたやカレンには感謝している。でも私はあきらめられない。あなたの助けが必要なの」と、涙ながらに別れた夫に訴える姿にも、また泣きました。ものすごく理解出来ました。精根尽き果てても、子供を救いたい。それもまた子を思う親の愛情です。この作品は、そんな親の姿の是非を問うのではなく、暖かく寄り添っていたところに、非情に感銘を受けました。
シャラメは繊細な演技で好演でしたが、堕ちていく過程で、もっと薄汚くても良かったかと。その方が、平穏時の美しさとの対比が明確になったと思います。カレルの演技は圧巻。母親とは異なる父親の愛を、知的にリアルに演じていました。とにかくこの人、何を演じても上手い!継母ティアーニは、私が大好きだった「ER」で主要キャストでしたが、久しぶりに観た役が重要な役で嬉しかったです。控えめ演技で、継母の愛を好演しています。
エンドロールで、この作品が実話だと知りました。誰も死ななかったけど、死ぬ一歩手前はたくさん出てきた。実話だと知り、なるほどと頷きました。死ななかったのは、運が良かっただけなんだよ。奇跡のようなオチが実話だと言うのは、依存症に苦しむ人々への、大きな光明になると思います。たくさんの人に見て欲しい作品。
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