ケイケイの映画日記
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TOHOシネマズフリーパスで観た最終作品。先週の水曜日に観ましたが、すっかり書くのが遅れました。珠玉の小品佳作で、私の一番好きなタイプの作品。今年のベスト10に入れようと思うので、少しでも書いておこうと思います。監督はマーク・ウェブ。
自死してしまった天才数学者だった姉の遺児メアリー(マッケナ・グレイス)を育てる叔父のフランク(クリス・エヴァンス)。実はメアリーも数学に秀でた才能を持つ天才でした。しかしその事で苦しんだ姉は、普通の環境で娘を育てて欲しいと、弟に託します。意を汲むフランクは、、地元の小学校へメアリーを通わせます。しかし学校にメアリーの才能を見抜かれ、英才教育を施す学校へ、転校を勧められますが、フランクは拒否。困った学校は、フランクの母でメアリーの祖母のイブリン(リンゼイ・ダンカン)を見つけ出し、連絡。イブリンはメアリーの才能を伸ばすべきだと主張し、母と息子は衝突。前代未聞の、親子間での親権争いが始まります。
実はイブリンもケンブリッジ卒の才媛で、結婚と同時に家庭に入り、数学の研究を辞めています。ずっと不満に思っていたのでしょう、天才の娘が生まれ、娘に自分の野望を託し、支配した結果、母と娘の間は亀裂が入ったのに、その事をイブリンは、娘の弱さと切り捨てます。
野望ではなく、希望だったら良かったのに。作品では解りやすく天才児ですが、イブリンのような母は、たくさんいます。始末に悪いのは、それが絶対子供の幸せだと思っている事。結局自分の幸せは、子供の幸せであると。自分はどうなってもいいから、子供だけ幸せになればと言うお母さんと、根本は一緒だと思う。子育ては、親子ともが幸せにならなければ。
前職は大学で哲学の准教授だったフランク。天才の姉、秀才の弟と言うところでしょうか?イブリンがフランクに執着しないのは、天才でなかった事ではなく、自分に縁の薄い、文系の才能を持っていたからだと思います。どうしても数学に執着する母。
人付き合いが苦手だった、と姉を語るフランクですが、どうもメアリーの母親は、アスペルガー的要素が伺えます。アスペルガーの女子は、言葉の奥が汲み取れないので、異性との交際には、親の注意が必要だと読んだ事があります。法廷で明らかにされた姉の初恋相手は、千載一遇だったかも知れない善き相手であったのに、身分違いと勉学の邪魔を理由に引き裂いた母。その後知り合ったメアリーの父親は、ゴミみたいな男。その事も意に介さないイブリン。
その後の行動も、本当に強すぎる思い込み、強引過ぎる行動で、相手がどう思うか、傷つけてしまわないか、全く考えない。法廷で激高する様子など、とても猛々しく、これでは付き合う方は疲れてしまいます。彼女自身にも、何か障害があるのか?と思ってしまいます。そしてもう一つ始末が悪いのは、本当に愛情も入っていること。「あなたを傷つけるつもりは、ないのよ」と息子に語るイブリンですが、これは本当の気持ちです。対するフランクは「結果はいつも傷つけられる」です。何故傷つけられるのか?お互いに、親子としての信頼関係がないからだと思う。
辟易するような母親なのに、私はこの人に腹が立つより、哀れを感じました。だって溢れる才能、裕福な暮らしと身分を持ち合わせるのに、それを生かせず、ちっとも幸せじゃないから。イブリンにもしも障害があるとしたら、彼女は精一杯頑張っているのじゃ、ないかしら?それをサポートすべきは夫だったはず。
物語は、泣いたり笑ったり、色んなエピソードを詰め込み、子供の幸せとは何か?を問いかけます。フランクは言います。最初はすぐ里子に出そうと思っていたのに、メアリーは毎日面白かった。日々の暮らしが楽しく、ここまで来たと。私が一番ほのぼのしたのは、「俺だって一人になる時間が欲しい」と怒鳴り、メアリーを傷つけたフランクが謝るシーン。「お前だってピアノが欲しいと言ってダメだと言ったら、俺に死ねばいいと言っただろう?あれと同じだ」。これで子供が納得するのは、大したものです。メアリーは、フランクが一番愛しているのは、自分だと言う、絶対的な愛情を受け取っているのです。フランクは本当の「父親」だと思いました。一人でいる時間が欲しいと願うのは、一生懸命子育てしているからです。この台詞に共感する人は多いと思う。
そして裁判の最中、この選択は正しいと思うか?と問われて、「わからない」と答えるフランクの言葉にも、強く共感しました。その最中なんて、何か良くて正しいのかなど、本当にわからない。この選択は、本当に子供のためか?母親の私が楽したかっただけじゃないか?本当にこれで良かったのか?私も自問自答ばかりの、惑う情けない母親でした。でも子育てが終わり、「わからない」が、正しかったのだと感じています。独善的に突き進むイブリンを観て、再確認しました。
キャプテン・アメリカことクリス・エヴァンスは、髭を蓄えた方が断然素敵。暖かみと包容力抜群で、父性も育つものだと痛感させるフランクを好演。そして初めて観たマッケナちゃん、超絶可愛い!溌剌としたお転婆なメアリーを、これが地なのか?と思うほど、素直な演技で魅了してくれます。数学の天才役なので、難しい単語も出てきますが、難なくこなしています。歯が生え変わる時期で、歯抜けの笑顔もとっても可愛い。私は子供はこの時期が好きだな。ちゃんと会話も出来るし、大人が想像しない事もやってくれるし、一番面白い時期だと思います。そしてリンゼイ・ダンカンが演じてくれたから、私はイブリンが嫌いになれないのだと、思いました。多かれ少なかれ、母親にはイブリン的部分があると自警する気持ちは、子育ての上で大事だと思います。
夕日に向かって、メアリーがフランクにじゃれつくシルエットのシーンが秀逸。あの多幸感は、苦労の多い子育てに忙殺される者に対しての、御褒美です。私は大した子育て論を吐ける、立派な母親じゃないけれど、成人した子供三人とは、現在良好な関係です。育てる者と子供が、毎日笑顔の日々を送ること。子育ては、これに尽きると思います。笑っていれば、子育ての苦労なんか、いつか忘却の彼方に吹っ飛ぶ日が、来るんだよ。
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