ケイケイの映画日記
目次|過去|未来
うーん。素材はイマドキ感いっぱいだし、キャストも豪華なので期待していましたが、イマイチでした。調理が拙かったみたい。監督はジェームズ・ボンソルト。
巨大SNS企業「サークル」に新入社員として入社したメイ(エマ・ワトソン)。地味な生活を送っていた彼女には、びっくりほど華やかな世界です。同僚から時間外でもっとレクも楽しめと勧められた彼女は、次第にその華やかさに慣れていきます。ある事で九死に一生を得た彼女は、「サークル」の創始者イーモン(トム・ハンクス)の勧めで、自身の24時間の生活を、ネットで公開する事になります。
SNSやネットの功罪は、言われ始めて久しいですが、その部分は上手く描かれています。毎日を楽しく充実させなきゃいけないと言う、同僚からのプレッシャーに、最初は追い立てられて、付いていくのに必死だったメイが、次第にその世界感に染まり、パーティーや習い事、自己啓発セミナー三昧の生活を送る様子は、若い子以外でもありそうです。
常にエキサイトしていて、見ていてしんどい。だって楽しいから必死になるはずが、楽しむ為に必死になっているんだから。そうこうしているうちに、SNSに興味のない幼馴染のマーサー(エラ・コルトレーン)まで、悪気ないメイの写真のアップで、喧騒に巻き込まれます。
それが段々イーモンや腹心の、「地球に平和を!」と叫ぶ姿の裏に何があるのか?が、次第に明らかになります。ここまでは良かったんですが、その後が、ダメ。企業サスペンスとしては凡庸で、「サークル」の鍵を握るラフィート(ジョン・ボイエガ)の扱いが雑。メイとの絡み方が拙く、イーモンと袂を分かっても、重要機密扱いのIDは所持し、いくらでも自分だけで、初志貫徹出来たんじゃなかろうか?
新興宗教めいた啓蒙や啓発など、詐欺感がいっぱいです。これにお金が絡むと、人々が狂乱するのは納得出来るのですが、「24時間ネットで自分を晒す。そうすれば、悪い事出来ないでしょ?」と言う理屈は、云わば道徳心アップです。好奇心がそれほど続するとは思えない。悪意だって一過性だものね。 群集心理の恐ろしさを、ネットで描くのは、もう古臭く感じます。
作品の途中で、高齢の男性が席を立ち、「この映画、あかんわ。皆さん、これは間違ってまっせ!」と、捨て台詞を吐いて、退席されました。そう、間違っているのです。その絶対的な間違いを、胸に刻みつけずに、表層的に撫でて終わり。一番最悪なところは、そこでした。ネットに不慣れな高齢者には苦々しくとも、この描き方では、ネット民の心には、響きません。
お洒落には程遠く、センスも悪かったメイが、段々と洗練されていくのですが、これが着飾るのじゃなく、ニットにパンツスタイルでのセンスアップ。女性版スティーブ・ジョブズ的で、IT社会では、着飾るのはご法度なのかと、興味深かったです。
メイの両親を演じたのは、ビル・パクストンとグレン・ヘドリー。奇しくも二人とも、まだ60過ぎの若さで亡くなっています。特にビルパクは、たくさんの作品で楽しませて貰い、映画好きには名の知れた人で、とても寂しいです。私はお茶目な「トゥルー・ライズ」の彼が、一番好きでした。お二人のご冥福を祈ります。
|