ケイケイの映画日記
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2016年10月23日(日) 「何者」




今頃大学生の就活ものもなぁと、パスの予定でしたが、親愛なる映画友達の方が高評価なので、観てきました。いや〜面白い!SNSに依存する若者の風潮を背景にし、ちょっとした心理的サスペンスです。青春期が過ぎ去ろうとする若者たちのホロ苦さを描きながら、万人が自分に当てはめて想起できる作品。監督は三浦大輔。

演劇に情熱を注いでいた精神分析が好きな拓人(佐藤健)。天真爛漫でバンド活動に熱中していた光太郎(菅田将輝)。地道で素直な瑞月(有村架純)。常にアンテナを張り巡らし、何事にも意識の高い理香(二階堂ふみ)。理香の同棲相手で、就活に疑問を持ちと語る隆良(岡田将生)。ルームシェアしている拓人と光太郎の部屋の上が、友人の瑞月の留学生友達だった理香の部屋な事を偶然知った彼らは、理香の部屋を就活の情報収集の拠点にします。しかし一人二人と内定が出ると、段々と心の底の感情が露わになってきます。

いや〜、怖い怖い。ホラーかと思う程、内定の出ない彼らの焦燥感が手に取るように伝わってきます。最初こそ和気藹々啞で、サークル活動の延長のようだった彼らですが、次第に手の内を見せず、表面だけ取り繕うようになっていきます。追い詰められているのですね。

就職は結婚に似ています。思う人には思われず、思わぬ人から思われて。縁遠くなると焦りだし、どんな人と結婚(どんな仕事がしたい)のか、解らなくなり、何でも(誰でも)よくなる。そして本当はそこからがスタートなのに、ゴールだと思ってしまう。そんな中、内定が出たのは、明確に目的意識を持って、就活に臨んだ者です。そして過大でも過小でもなく、正当に自分を評価して、妥協点を見出した子です。

現実の希薄な人間関係の中、ネットのSNSでの繋がりだけを、生きる縁にしている様子は、若い子ばかりじゃないでしょう。最近承認欲求と言う言葉が、良く目に付きます。誰しも愛されたいし、認めて欲しい欲求はあるはずなのに、この言葉に、私は違和感があります。自意識過剰で、人の目に映る自分ばかり気になるは、自信のなさの裏返しだと思うから。そこに「役に立ちたい」「喜ばれたい」と言う感情があれば、もっとニュートラルな心を持てるのじゃないかな?

同じ学生劇団で、拓人と一緒に演劇に情熱を注いでいた烏丸ギンジ。大学も辞め、演劇の道一筋に生きるギンジに対し、演劇は学生の時だけと、就活に励む拓人は、一見真っ当な道を選んでいるように見える。でもツイッターでギンジをフォローし、ネットで始終彼の動向を気にするのは、拓人がまだ演劇への情熱に、燃え尽きていないから。世間の評価を気にせず、演劇の道を進むギンジが、羨ましくて妬ましいのです。似たような境遇の光太郎ですが、彼は引退ライブも盛大にやり、自分の中でケジメが付いていたのでしょう。冒頭、光太郎が髪を黒に染め直す様子が出てきますが、あれは気持ちを切り替える、大事な儀式だったんだと、後から思い返しました。

この作品には、ちょっとした仕掛けがあります。それを観て私が感じた事は、「頑張れ!」でした。人は大なり小なり、この子と同じような感情を抱いた事があるはず。私はこの子を笑えない。若い時は自意識過剰だったり、根拠のない自信で、自分が大きく見えるものです。いっぱい恥をかいて、いっぱい悩んで泣いて、絶望したり這い上がったり、引き締まったり緩んだりを繰り返しながら、等身大の自分が見えてくるはず。それを大人と言うなら、彼らより30才程上の私だって、まだ修業中。しかし30年前の私と今の私は、確実に違う人間です。本当の自分が見えてくるのは、生き方を決める事に繋がるのじゃないかな?

ラストシーンは、一分間スピーチの空しさを感じます。一分間で自分の今までなんか、語れないもの。でもこの会社、内定が出たと思います。私が面接官なら、その後の話しを聞きたいもの。でも勝負は本当はここから。決まってからが本番なんだよ。それを忘れないでね。世の中の就活生たち全てに幸あらん事を、祈っています。


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