ケイケイの映画日記
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2016年06月26日(日) 「日本で一番悪い奴ら」




やくざ映画かと思いました(笑)。いやいやれっきとした警察を描く映画です。例え腐敗していてもね。私は事件は全然記憶にないのですが、北海道の警察官の手記を元にした実話です。一番悪い奴って、そういう事だったんですね。監督は白石和彌。

優秀な柔道選手である事を見込まれ、北海道警察に入職した諸星要一(綾野剛)。最初は純情な好青年だった諸星ですが、先輩刑事村井(ピエール瀧)の「指導」よろしく、やくざの黒岩(中村獅童)やチンピラの山辺(YOUNG DAIS )、パキスタン人のラシード(植野行雄)を情報屋の「S}にして、検挙率をアップ。あっと言う間に所轄のエースとなります。しかし、ノルマのような検挙数に、しだいに焦りを感じ、段々と違法行為に手を染めて行きます。

描いている内容は、刑事を主役にしたピカレスクロマンなどに、既視感のある内容ですが、これが実話だと思うと、本当に驚愕。拳銃不法所持の検挙方法なんて、目が点になります。シャブ、チャカ、シャブ、チャカ。そしてお互いを呼び合う時に、「兄弟」「オヤジ」って(笑)。もうこの言葉の洪水で、警察とやくざは表裏一体どころか、ほとんど同化していると言っていい状態です。

前半はコミカルにテンポよく、「天下を取った」気分よろしく、出世していく自分に酔う諸星が描かれます。かなりパワフルに面白おかしく描かれるので、こちらもついつい笑ってしまう。両隣が高齢のオジサマ(要するにオジイサマ)でしたが、とにかくよく笑っていらっしゃる。そして私も同じところで笑う(笑)。笑いのツボは、描かれる年代が20世紀な事もあって、何となく懐かしい味わいでした。

しかし、検挙する覚せい剤のグラムで、点数が違うなんて知らなかった。その点数に縛られ、営業マンみたいに上司から尻を叩かれる刑事たち。物を売る訳じゃないんだからなー。普通に考えたら、検挙が少ない方が平和だと思うんですが。すごく奇異に映ります。

出世、と言っても、それほど階級が上がる訳でもなく、「糟糠の情婦」ホステスのユキ(矢吹春奈)と結婚するわけでもなく、他に女まで作る(なんと婦人警官!)。まるで足抜け出来ないやくざのようです。

泳がせ捜査やでっち上げ、Sに渡すお金のため、諸星は借金まみれに。どう考えても、おかしい。自社製品を買わされる会社員よりもっと悲劇に思えますが、本人は気付かない。やがてそれがため、本当にびっくり仰天の方法で、お金を工面する諸星。

ここからは坂を転げるように転落する諸星が描かれます。反目・裏切り・仲間割れ。悪行で結ばれた絆は儚いもので、おもろうて、やがて哀しき哀愁に満ちた展開が待っています。

綾野剛が絶品。純情青年からハイテンションのイケイケ悪徳刑事、昨今巷に話題の転落場面まで、全編出ずっぱりで大奮闘です。彼の作品はあれこれ観ていますが、全部印象が違うのに、「綾野剛」を強く印象付けるのがいいです。美形を売りにする顔立ちでもないので、中年期以降もすごく楽しみです。

覚せい剤を打つ場面が出てくるんですが、すごく物哀しい気分になります。孤独だったり絶望だったり。結局は現実逃避なのです。最近は普通の主婦までターゲットになっているそうで、君子危うきに近寄らず、現実逃避はもっと安全な方法が良いようです。映画とかね(笑)。

警察の腐敗を描くいているのに、憤りより、むしろ悲哀を感じてしまいました。後に引いたり、思いにふける作品ではないですが、観ている時はとっても面白い!そこも昔のやくざ映画を彷彿とさせる、「刑事もの」でした。


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