ケイケイの映画日記
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2015年09月06日(日) 「クーデター」




大好きなピアース・ブロスナンが出ているので、観に行きました。彼の前作「スパイ・レジェンド」は、ぼやぼやしているうちに終映。またそんな憂き目をみないように初日に行きましたが、これが拾い物。シンプルな逃走劇としても、緊張感が途切れる事無く秀逸だし、家族愛や政治にも触れ、観終わった後も余韻が残りました。監督はジョン・エリック・ドゥードル。

アメリカ人のジャック(オーウェン・ウィルソン)と妻のアニー(レイク・ベル)と二人の娘の一家は、ジャックの仕事のため、東南アジアの某国に家族ごと赴任した直後、民間人のクーデターが発生。政府は倒れ、彼らの宿泊先のホテルにも暴徒が乱入。彼らの狙いは、政府から欧米諸国の来訪者を皆殺しにする事に移ります。ジャックたちは、知り合ったばかりのハモンド(ピアース・ブロスナン)の手を借りて、国からの脱出を試みます。

国を特定していないのは、差しさわりがあるからでしょう、色々と。タイにもマレーシアにもインドネシアにもカンボジアにも思えます。日本に住んでいると、それぞれ違う国であると認識出来るのですが、欧米人には多分どの国も同じ。その辺を皮肉っているのかもしれません。

ヒタヒタと暴徒が迫ってくる怖さが秀逸。捕虜ではなく皆殺し。一瞬の猶予もなく、地理もわからず、正に着の身着のままでで逃げるジャック一家。それがどれ程の恐怖か、我が事のように感じます。顔立ちがまるで違うので、生物としてまるで異質にも感じて、そこに放り込まれたとしたら・・・。そう思うと更に怖い。

そんな中、父親として夫として奮闘するジャック。劇中の台詞から、この渡航も妻には相談せず独断で決めたとわかります。万事がそういう事が多かったのでしょう、妻には苦労をかけているのですね。必死に耐えて付いて行く妻は、それでもこの暴動のさなか、自分は幸せだと言い切る。それはジャックがいつも家族のために、と思ってやっている事が裏目に出ているだけで、夫の人生の中心は、自分と娘たちなのだと理解しているからだと思いました。ただの自分勝手ではないのでしょう。「フレンチ・アルプスで起きたこと」の旦那さんとは、真逆なんだな、きっと。強面でもなく、ヒーローっぽくもないウィルソンが演じる事で、一層の誠実味を感じさせます。

夫婦で子供を必死で守る姿には、泣けてきました。そうなんだよ、親として一番大事なのは、子供の命を守る事なんだと痛感しました。危機また危機を潜り抜ける度、何度ホッとしてため息をついた事か。

お目当てのブロスナンですが、激シブで出だしから、タダのネズミじゃない感満タンで感激しました。若い頃より、今の方が断然素敵だわ。女好きのチョイ悪オヤジっぽいのですが、今は妻子にも去られて独り身。人生の盛りを過ぎ、振り返ってみれば、幾つも悔恨があったのでしょう。改めて何のために生きるのか?自身で問うて、きっと今のハモンドになったのですね。

私も思い当るのです。伊藤比呂美の「閉経期」を読んでいて、「おばさんになってくると、社会悪に対して、ものすごく怒りを感じるようになる」と記述してあって、今の自分にドンピシャなので、びっくり。私も人生の盛りの頃は、子供と家庭を守る事で必死で、世の中をしっかり見て回る余裕なんかありませんでした。遅まきながら見渡してみると、もう怒りがいっぱい(笑)。ハモンドみたいに命は張れないけれど、私も何か出来る事はないかなと、思いました。

何故暴動が起きたか?ハモンドが語る理由を、ジャックたち市井の人は知らされていません。人道的に立派な事をしていると信じている。「黄色人種の命は、白人より軽い」。そんなふざけた思い上がりが、まだまだ欧米には根強いのでしょう。その結果が暴動です。無残な殺戮を招いたのは何故か?何故普通の市民が殺人に手を染めなくてはいけなかったのか?政治家は本当に国を思って欲しいし、民はそれを、しっかり吟味する目を持たなくちゃなと思います。

最後の最後までノンストップでハラハラするので、観た後ぐったりしますが、あれこれ想起出来て、拾い物の作品です。


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