ケイケイの映画日記
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これも優先順位低めでしたが、親愛なる映画友達が二人も大絶賛なので、これはすぐ観ておかねばと、11日に観てきました。(最近は梅田が遠いのよ、トホホ・・・)なるほど、観れば納得。様々な調べに乗りながら、喜怒哀楽、感情の浮き沈みが、理屈ではなく観客に伝わります。音楽の力ってすごいなと改めて感じる作品。監督はジョン・カーニー。
音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)は、かつては次々と新人を発掘した辣腕でしたが、現在は時代に取り残され、その憂さ晴らしに飲んだくれている始末。ついには自分の設立した会社からクビを宣告された日、偶然入ったライブハウスで歌うグレタ(キーラ・ナイトレイ)の歌声を聴きます。彼女の歌に惚れ込んだダンは、すぐに契約を持ちかけます。グレタはグレタで、チームを組んでいたつもりだった恋人のデイヴ(アダム・レヴィーン)だけがブレイクし、あげくに別れ話も持ち上がって、やさぐれ中。軍資金のない二人は、寄せ集めのバンドを連れて、町中をスタジオ代わりにデモテープを作り始めます。
始まってすぐ辺り、アコースティックで歌っていたグレタを、ダンが脳内でピアノやドラムのアレンジする様子を描く場面が秀逸。フォークっぽいギターの弾き語りが、瞬時でポップな曲に変換されてワクワクしました。録音場面も、その辺で遊んでいる子供をコーラスに引っ張り込んだり、電車や騒音も味方につけての逆転の発想は楽しい限りでした。
でもこれは、しっかりとした楽曲あってのお話。アレンジ一つで楽曲が洗練されたり、生まれ変わったりもするし、相互の相性も大事なんですね。そういえば、息の長い女性歌手のパートナーは、アレンジャーが多いです。
お話の中心は音楽。オリジナルのポップやバラードばかりではなく、若いグレタが「好きな曲なの」と、シナトラや「カサブランカ」が流し、改めて名曲は時代を超えて世の中に語り継がれていく、その豊かさや嬉しさが、画面いっぱいに広がっています。
ダンやグレタ、ダンの娘のバイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)が、葛藤や苦悩から如何に再生するか?そこはあっさり薄口に仕上げています。これはこの作品の主役は、音楽だと言う事なのでしょう。
その代り、小技の利いた演出が随所にあり、登場人物たちの情感は豊かに描けています。登場時、やさぐれて「男みたい」とダンに言われたグレタの装いが、段々と本来のカジュアルだけどお行儀の良い服装に戻り、見つめ合うダンとグレタに、揺れる男女の心が映ります。
中でも私が秀逸に感じたのが、ダンと別居中の妻ミリアム(キャサリン・キーナー)の煙草のやり取り。加え煙草でで禁煙(多分)の我が家に戻ったダンが、それをミリアムに渡すや、彼女は吸い始め、煙をドアの外に吹かすのです。離婚寸前のようでも、まだ男と女の情が残っている証拠。煙草一本の回し吸いは、同性と異性では全然違う情景を映しだします。二人とも煙草を吸うのは、この家は以前は禁煙ではなかったんですね。それが今はミリアムは煙草は止めて、ダンにも禁煙を強要しているのでしょう。夫婦がいつの間にかすれ違ってきたのも表している。劇場は若い人もいっぱい。こういった感情の機微を表すシーンを見逃さないで、受け取って貰えたら嬉しいです。
義理人情に厚いラッパーや、グレタを支える愉快な友人のスティーブ(ジェームズ・コーデン)など、サブキャラもチャーミング。古風な情感を刺激され続けたのに、落としどころは、あっと驚くほどドライ。人生の取捨選択は大事だぞ。人との出会いもね。素敵なキーラの歌声を、是非劇場で聞いて下さいね。
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