ケイケイの映画日記
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2014年10月19日(日) 「泣く男」




先週は同じ韓国映画の「レッド・ファミリー」も観て、そこそこだったんですが、昨日この作品を観て、自分の感受性に呼応するのはこちらだったんで、先に書くとします。南北統一の願いとか壮大なもんより、パーソナルな感覚の方が心に響くとは、人間としてのスケールが測れるってもんですが(笑)。監督はイ・ジョンボム。

アメリカで孤児となり中国人マフィアに拾われ、殺し屋として育てられた韓国人のゴン(チャン・ドンゴン)。ある使命から任務を遂行しましたが、誤って被害者の子供である少女まで殺してしまいます。自責の念に駆られる彼に、子供の母親であるモギョン(キム・ミニ)を殺せと言う更なる命が下されます。複雑な感情を抱き、久しぶりに故郷を戻るゴンでしたが。

スタイリッシュでクールなアクションが炸裂する中、孤独な少女とウォンビンの交流の哀切感がたまらなかった「アジョシ」の監督なので、観ようと思いました。今回は完成度は「アジョシ」には及ばないものの、まずまず。脚本も監督ですが、娯楽アクションにロマンスではなく、親子間の情感や哀切を滲ませるのが上手く、今回もその部分の描き方がとても気に入りました。

非情な殺し屋が、何故母親を助ける気になったのか?定説の展開ですが、それは母親への贖罪だけではないと思います。モギョンはファンド会社に勤める、やり手のキャリアウーマン。一見仕事への情熱のため、娘を捨てて夫に託したため、アメリカで娘は殺されたように思えます。娘への詫びや、亡くした事の辛さは一言も発しないモギョンが、娘の発表会のDVDを観て号泣する姿に、彼女の本心を見たゴンは、自分を捨てた母親を重ねたのだと思います。

捨てられる事を悟り、必死に取りすがったあの日、自分だけを置いて死んでしまった母。しかしゴンの母は、息子を道連れにはしなかったのです。息子には生きて欲しかったのだと思います。子を亡くし、気が狂ったように泣くモギョンのように、自分と別れる時、母だって辛かったのだと。モギョンを救う事は、母への鎮魂となると、彼は決心したのだと思います。それは死んだら地獄行きのゴンの魂をも、救う事です。

後半からの畳み掛けるアクションは、ライフルや拳銃、狭いマンションを使っての銃撃戦、巧みな爆弾処理などで、相応の工夫が見られ、まずまずの緊迫感です。ただし長い。10分は切れるかなぁ。マンション内での銃撃戦は、他に住人がいるはずで、悲鳴も巻き添えも全くないのは不自然です。唐突に裏切り者が出たり、伏線がないのでご都合主義的です。「全員悪者」的な作品ではないので、返って軽い感じになり不必要な気がします。

韓国イチの美貌を誇っていた(当社比)チャン・ドンゴンですが、ファーストシーン登場では、老けたと言うか、劣化が目立ちました。相変わらずの目力ですが、若干線が細い。アクションシーンは無難にこなし、健闘していました。ただしこの分野は、同じスター俳優系のイ・ビョンホンの身体能力が抜きん出ていて、比較されると思うので損な気も。彼も40代に突入ですから、トムちんみたいな永遠の美青年を目指すより、渋さを身に付け、年齢相応の華やかさを目指す方が良いかと思います。




ヒロインのキム・ミニは、松島菜々子を地味にした感じで、何でこんな華のない女優を持ってきたかなぁと、少々落胆しましたが、これが演技がとても上手かった!モギョンが娘と別れたのは、自分の母親が認知症で介護が必要だったからです。娘には父親がいるが、父を亡くし一人娘の自分しか母にはいない。介護にお金も必要なので、仕事は辞められない。彼女的には、娘を捨てたのではなく、夫に託したつもりだったはず。内面の葛藤を表現する部分や、疲れ切った表情など非常に上手く、私がこの作品に好感を持ったのは、彼女の演技力が大です。

他に良かったのは、ゴンと同じ組織のチャオズを演じるブライアン・ティー。一見エグザイルのメンバーみたいですが、非情な殺し屋の一面と、温かい血が通っていると両極端な部分を、落差のない自然な演技で感じさせてくれます。

ラスト近くで、ゴンがモギョンを守りたかった本当の真意がわかります。彼はこれを贖罪にしたかったのですね。長男を生んで、一生懸命子育てしている年若い母親だった私は、母としての子へ愛の強さ深さを実感し、母親のいない人生を送る子供の哀しみは、どんなに辛いだろうと、ふと思いを馳せた時がありました。

自分も母となりその心を知り、娘として母を捨てられなかったモギョン。そのモギョンを知り、自分の母への思いがこみ上げたゴン。「泣く男」とは、泣けなかった男が、母の愛を取り戻して「泣く男」のお話でした。私にはただの娯楽アクションではなかったです。


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