ケイケイの映画日記
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2014年10月08日(水) |
「アバウト・タイム」 |
大好きな大好きな「パイレーツ・ロック」のリチャード・カーティスの監督引退作品。まだ若いのになぁ、絶対観なくちゃと忙しかったけど駆け付けました。ユーモアたっぷりに同じと時間を繰り返す主人公を楽しく観ながら、考えさせられたり共感したり、楽しく観ていたら、、ラストに出てくる「非凡な僕の平凡な人生」と言う言葉に、どっと涙が溢れました。ありふれた「平凡が一番」と言う言葉、イギリスにもあるんですね。大好きな作品です。
イギリスのコーンウェル。少し風変わりな、でも温かく愛情溢れた家庭に育ったティム(ドーナル・グリースン)。心優しい青年ですが、気弱で何をやっても自分に自信がなく、彼女もなくイマイチな青春を送っています。そんなティムの21歳の誕生日、父(ビル・ナイ)がティムを呼び、我が家の男性にはタイムトラベルする能力があると告げます。最初は冗談だと思ったティムですが、試してみると、本当に過去へ。少しずつ過去を修正して今に戻る事を繰り返す彼は、ある日運命の人メアリー(レイチェル・マクアダムス)と出会い、必死にタイムトラベルを繰り返し、彼女の心を得ようとします。
手垢のついたタイムトラベルものなんですが、この作品は過去を変えようとか、地球を救おうとか、そんな壮大なものではなく、ちょっとした失言、あの時ああすれば良かった・・・的な些細な落胆を軌道修正すると言う、到って小市民的な出来事が繰り返されます。それってティムの元々の性格なんですねぇ。
しかし繰り返し挿入されるティムのタイムトラベルは、メアリーの愛を得る事の他は、知人や妹や父など、自分の大切な人のために使うだけど、決して仕事やお金儲けで使ったりしません。なので、メアリーの愛を得るため、少しずつい時間を変えて、涙ぐましい努力をするティムを観ると、如何に彼女を愛しているのかを痛感させます。だってゴージャス美女のシャーロット(マーゴット・ロビー)は、すぐ諦めたもん。私見ですけど、この心意気があれば、タイムトラベルを使わなくったって、きっとメアリーとは結ばれましたよ。
タイムトラベルで心を掴まれたのは、愛する妹のキットカット(リディア・ウィルソン)を交通事故から救うため、時間を遡るティム。しかし家に帰れば愛しい娘ではなく、そこには息子が。時間軸が少しでもずれると受精のタイミングが変わり、別の子が現れるのだとか。娘に会いたい一心で、妹はそのまま事故に合う方を選ぶティム。一見すごく非情ですが、子持ちの私にはその気持ちがすごくわかる。性別とかではなく、一年慈しんで育てた我が子が、例え血が繋がっていようが、全く別の子にすり替わるなんて、到底受け入れられません。お腹に宿った時から、子供とはそれくらい親の人生にとって「特別な存在」になるものです。その後に妹の救済も描き、親の心情が強く浮き彫りになる、とても良いプロットだと思いました。
この出来事のアンサーのような形で向かい合う父と息子。「何時に戻りたい?」と聞かれて、ティムが幼い頃、二人で海辺を駆けた時と答える父。ここも気持ちがわかり過ぎて、滂沱の涙。私はいつも今が一番好きだと思える、おめでたい人間ですが、タイムトラベル出来るなら、私も上の二人が小学生で、三男が赤ちゃんの頃に戻りたいのです。五人家族になって、必死に子育てして、幸せを噛み締める時間もなかった時。あっと言う間に自分の時間を持てるとは、知らなかった日々。今なら自分の時間なんてなくてもいいから、もっともっと子供たちとの時間を大切に出来るのになぁ。
クスクスいっぱい笑って、あのシーンこのシーン、みんな楽しかったタイムトラベルのシーンですが、私が印象深いのは、笑いではなく上記の親心を描いたシーン。そして時間を割いてセリフなしで描いた、リズミカルでロマンチックなティムとメアリーが愛を育む一年間のシーンが、私は大好きです。と言う事は、「人生を変えるのは、時間軸を変えるのではなく、自分の強い意志が必要なのだ」と言うティムの言葉と重なります。タイムトラベルしなくても、ティムとメアリーは結ばれたと感じた私の思いは、監督のメッセージでもあるのでしょう。
ドーナルは、恰幅が良く線の太い感じのブレンダン・グリースンの息子さんだそうで、びっくり。なるほど顔は似ていますが、お父さんよりナイーブな感じで、押し出しなんてほとんど感じないタイプ。そんな彼が男として息子として夫として、逞しく成長していく姿には、清々しいものがありました。赤毛もチャーミングで、私は好きなタイプの俳優です。レイチェルはまぁ、「パッション」での、ビッチな悪女が印象深かったもんで、まさか30半ばで、こんな可憐な姿を見せてくれるとは、驚愕でした。初登場シーンの野暮ったいのに、新鮮で可憐な様子から、段々と幸せに満ちた妻・母としての美しさが画面いっぱいに広がり、彼女のファンには堪らない作品です。
「非凡な僕の平凡な人生」が、ティムが掴んだ人生訓でした。彼が何を取捨選択したのか、お楽しみに。奇想天外な設定を用い、笑いと涙に満ち溢れて、輝かしい平凡の美しさを描いた作品だと、私は思います。「剣客商売」の再放送を観ていて、大治郎の妻三冬が「この平凡な家庭を、私は切に望んでいました。今幸せでございます」と言うセリフに、最近涙ぐんだばかりです。形は違えど、ティムも三冬も私も、「非凡」な人生を背負って、結婚により平凡な人生を手に入れました。平凡は最強ですよ。その最強さは、毎日の生活を誠実に丁寧に生きる事から得られるのだと、改めて感じました。
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