ケイケイの映画日記
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2014年05月18日(日) |
「ブルージャスミン」 |
本年度アカデミー賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット)作品。コメディと紹介している記事がありますが、これ、どこを笑うんですか?イタイ女性の話だと思っていたら、痛々しい女性の話だったと言う。ジャスミンの滑稽さを笑うにも、長く女の人生を送っている私には切なくて無理。最近はライトなコメディが多いアレンしか知らないお若い方には、面食らうだろうシニカルな作品。女性は必見作。監督はウディ・アレン。
実業家だったハル(アレック・ボールドウィン)が詐欺容疑で逮捕され、セレブ生活から転落したジャスミン(ケイト・ブランシェット)。ニューヨークから里子同士の妹で、シングルマザーのジンジャー(サリー・ホーキンス)を頼って、サンフランシスコの質素なジンジャーのアパートまでやってきます。自立を模索する彼女は、ジンジャーの恋人チリ(ボビー・カナヴェイル)の紹介で歯科の受付の仕事をしながら、パソコンの訓練に励む毎日。そんな時パーティーで出会った外交官のドワイト(ピーター・サースガード)と恋仲になり、またセレブの世界へカムバックする事を夢見るジャスミンですが。
無一文どころか莫大な借金さえ背負っていると言うのに、シャネルの服にヴィトンのバッグ、ファーストクラスの飛行機と、まだ現実がわかっていないジャスミンの現在と、我が世の春を謳歌していた過去の彼女の回想が交互に映し出し、その回想シーンで段々と、お話の確信に近づいて行きます。
まずは服装。仕立ての上等そうな趣味の良い上品なファッションのジャスミンに対して、年齢不相応に肌を露出し、頭の悪さ全開の品のないファッションを好むジンジャー。ジンジャーの周辺のロークラスの人々に、あからさまな侮蔑感を持つジャスミンに対して、ジンジャーはこの転落で神経を病んだジャスミンに、自分が必要だと思っている。里親は愛情の注ぎ方で彼女たちを差別したのに、今尚ジンジャーの中に、ジャスミンに対する憧れと親愛が残っているのがわかります。
ジャスミンは同じような下層階級の男ばかりを選ぶジンジャーに対し、「もっと自尊心を持ちなさい」と言う。なら彼女は自尊心を持っているのか?職場の歯科医に言い寄られても、屈辱だと跳ね返しますが、それは歯科医を見下げているからだと思いました。確かにあの歯科医はセクハラまがいだったけど、彼女的には自分に見合う相手ではなかったと言うところ。
自立を目指していたはずが、社交界に復帰できそうなドワイトとの出会いで、あっけなく方向転換。彼女の言う自尊心は、虚栄心じゃないのかなぁ。ジャスミンはドワイトについた嘘を、脚色だと言う。それは自分の背景にあるもので、自分自身の中身は本物だからと。でもそれは違うと言うのは、本当は彼女が一番わかっているから、嘘をつくのですね。
ジャスミンは持ち前の華やかさと美貌、巧みな会話で優れた社交術の持ち主です。でもそれは誰かの妻である以外、存在価値が希薄なのですね。傍らに男性がいてこそ引き立つ女性なのです。反面学歴もなく、仕事のスキルもなく、慈悲深く他者を思いやる母性があるわけでもなく。そう言う自分自身には蓋をして、見て見ぬふりをしていたのだと思います。ちょうどハルが詐欺で富豪になったのを、見て見ぬふりをしていたように。
それなりに自分自身を知っていたから、夫の浮気にデーンと構えてはいられず、心が掻き乱されるのでしょう。彼女も二度目の妻であるから。美貌の衰えに怯えても、美しく年輪を重ねる術は知ろうとはしないジャスミン。やはり見て見ぬふりです。現在のシーンで情緒不安定な彼女が、安定剤や鎮痛剤、アルコールを飲む場面がいっぱい出てきますが、その時のジャスミンの目元は、必ずマスカラやアイラインで滲んでいます。
回想場面で、ハルの浮気を友人から知らされた時の彼女の目元も、アイラインが滲んでいて、はっとしました。セレブからの転落で神経を病んでいたのではなく、夫の浮気が原因で、既に心が荒んでいたのですね。そして全ての不幸は、彼女自身が招いていた事なのです。この浅はかさは、恐怖が招いた事なのです。それをまた露呈したのが、ドワイトについたすぐバレそうな嘘。
でも私はこの浅はかさを、とても笑えない。実の親を知らず大学を中退してまでハルと結婚したのは、必死で幸せになりたかったからのはず。妻の内面の未成熟さを、ハルもまた見て見ぬふりをしているうちに、浮気に激昂する、神経を病んだ妻を持て余すようになっていたのでしょう。いくら高価な装飾品をプレゼントしても、それでは妻を愛しているとは、言えないわ。ジャスミンの結婚生活は全てが虚飾だったのですね。有り余るほどのお金は、人を沈黙させてしまうのでしょう
細い体に似合わぬ、女としてのドスコイ人生を歩むジンジャー。ジャスミンの影響で、ちょい無理目の男にシフトしようとしますが、結局玉砕。首尾よく元サヤに収まる姿は狡猾ですが、手玉の取り方の見事さに、外見ほど軽くないんだと、ここはクスクス。でも天晴れですよ、相手も心底幸せにしているのですから。
エレガントでゴージャスな様子と、狂気じみた表情とを巧みに演じ分けたケイトは、圧巻の演技でした。脚本通りなのか、一度も知性を感じさせなかったところもお見事。サリー・ホーキンスは私はあんまり記憶にないのですが、こちらも本当に上手い。ケイト相手に一歩も引けを取らないお芝居です。オスカー候補になったそうですが、やっぱり私的にはルビタじゃないと思うけどなぁ。
天晴れだけど、私はジンジャーも幸せだとは思わない。そこには本当の男女の愛も、息子たちへの思いも見えてこないから。身の丈に合った幸せって何なんでしょうね。ジャスミンは夜に咲き誇る花だそう。早くジャネット(本当のジャスミンの名前)に戻りなさいと、太陽の下をラストシーンに選んだんじゃないかなぁ。多分違うけどね。そう思いたいです。色んな教訓を感じる作品でした。
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