ケイケイの映画日記
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東京のみ限定公開だったのが、蓋を開ければ大好評で、全国のTOHO系で公開となった作品。そんなに面白いのか?と勇んで観ましたが、出来はまずまずという感じ。テレビで紹介している時に、「超能力を使って、こんな手があったのか!」的な面白さを説いていましたが、私には新鮮さはありませんでした。それは多分私がデ・パルマの「キャリー」を観ているからだと思います。監督はまだ若干28歳のジョシュ・トランク。
引っ込み思案で根暗の高校生アンドリュー(デイン・デハーン)。母は病に付し、元消防士の父は、仕事中怪我を負い、その後働いていません。最近日常生活を古いビデオカメラで撮り始めました。従兄弟で唯一の友人のマット(アレックス・ラッセル)は、そんなアンドリューを心配してパーティーに誘います。そこで同級生のスティーブ(マイケル・B・ジョーダン)と三人、洞窟を発見。下まで降りた三人は、壁の物質に触れた事により、超能力を得ます。
三人は別に親友同士ではなく、秘密を共有した事がきっかけで、つるむ様になるのが微笑ましい。スティーブなど彼女そっちのけで、アンドリューとマットと蜜月の日々です。超能力を持つヒーローは圧倒的に男性が多くて、彼らも幼い頃から憧れがあったのでしょうか?スカートめくりや、スーパーで物を動かし驚かすなど、他愛もないいたずらで終わった頃は良かったのですが、超能力に磨きがかかってくると、事態は不穏な方向に導かれます。
親友は出来たものの、まだ学校に居場所を見つけられないアンドリューのため、スティーブは一計を案じます。それが功を奏したのも束の間、事態はまた元通り。この様子が切なくってね。男子の初体験の様子は、ユーモラスに描かれる事が多く、面白うてやがて哀しきと言う風情に持っていきますが、アンドリューの場合は、ただただ苦い結末に。この辺りから、青春ものの明るさから、暗転したムードに切り替わる節目になり、お話の繋ぎは上手いと思いました。
他の二人に比べ家庭に恵まれず、日常に鬱屈したものを抱えるアンドリューは、やがて平常心が保てなくなり、超能力を怒りの場面に使うようになります。結果的には超能力に感情を振り回されているのですね。。「インビジブル」のケビン・ベーコンなんか、ひたすら下衆い方向に力を使っていた事を思えば、三人はお若いのに人間が出来ていらっしゃると思っていたのでね、この辺はとても納得。しかし彼の事を心から心配するマットやスティーブの気持ちも、無にするのは、どうかなぁ。この辺はね、アンドリューの気持ちを理解出来るか、甘えてんじゃねぇ!に分かれるか微妙なところなんですが、演じるデイン・デハーンの若いのに似合わぬ憂いを帯びた風情が、前者に軍配を上げてしまいます。
超能力=ヒーロー=勧善懲悪と言う図式が多いので、「こんな手があったのか!」的な宣伝みたいです。でも「キャリー」も家庭にも学校にも居場所のない独りっ子の孤独を、超能力と絡ませて描いた青春もので、観ながらずっと「キャリー」と似ていると感じちゃった訳です。キャリーには偏執的な愛情を注ぐ母親がおり、対するアンドリューにはろくでなしの父親を充てがい、それぞれ同性の親と対峙させているのも、その思いを強くさせました。
ただ「キャリー」はホラー仕立てに対して、こちらはSFアクション。女同士の陰湿な関係や、初潮や初恋を絡ませた前者と、明るい友人関係や、男子の喧嘩はやっぱり力づくの後者の違いはあり、これは女子と男子を描く違いにも感じました。
メインの大掛かりな超能力合戦を最後に持って来たのは上手い組立で、ちょっとしたSF大作を観た気分になります。でも私が一番好きなシーンは、キャッキャ三人で騒ぎながら、大空を飛ぶシーン。青春の輝きが一番感じられたシーンです。
アレックス・ラッセルは新「キャリー」で、私が当時大好きだったウィリアム・カットの役を演じます。予告編を観る度、ハンサム度がガタ落ちの上、金髪じゃないし!と、怒り心頭だったのですが、この作品では明朗で誠実な感じが好感を持て、ちょっと気分が収まりました。ジョーダンも将来政治家になりたいスティーブを素直に演じていて好感が持てます。一番お金持ちで優秀そうで人柄も良く、の同級生を黒人が演じる時代なんだなぁと、ちょっとしみじみしました。
観て損はしませんが、必見作と言う感じではありませんでした。実はパート仲間の息子さん(驚くなかれ、高校生にしてプロレスラーなのだ!)が映画大好きで、この作品を推薦したのですね。ちょっと早まったかなぁとも思いましたが、考えてみればこの作品を一番楽しめるのは、彼くらいの年齢。感想楽しみにしたいと思います。
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