ケイケイの映画日記
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鑑賞後、呆然としました。自主映画かと思う稚拙さ。戦中戦後の市井の人々の感情を、性を通して描き、反戦の心を描きたいのだとはわかりました。でも演出が不味く、話の展開がつまらないし、つなぎが悪い。その上腹が立つ場面の続出で、久しぶりに1500円払ったのまで腹が立つ(通常1000円)。永瀬正敏、村上淳など、良い味を出していたので、とても残念です。監督は井上淳一。以降罵詈雑言、個人的な感想が炸裂すると思うので、この作品が好きな方は、スルーしてください。
妾稼業をしている飲み屋の女将の女(江口のり子)。パトロンと別れるのをきっかけに、無頼な作家の野村(永瀬正敏)と同棲します。一方戦場で片手を失った大平(村上淳)。温かく妻(高尾祥子)に迎えられるも、無気力な日々を過ごします。ある事がきっかけで、戦場の時の記憶が蘇った彼は、女性を強姦して絞殺する事を繰り返します。
この作品で大事な女性は、江口のり子と高尾祥子ですが、二人共戦時中の女性に見えません。他に出てきた女性たちはまだましでした。何故なんだろう?演技以前の気がします。江口のり子の洋服姿なんて、パンパンの時以外は全く現代の女性です。戦前なのにスカート丈が短すぎる。着物も今風の着こなしだし、あの時代髪を垂らしているのは、反骨心か何かだとすれば、あのレングスは中途半端。カツラでもかぶらして、垂らしたければ、もっと長くすべきです。高尾祥子も風情に乏しい。ラスト近くのもんぺ姿の着こなしなど、あれでは「もんぺファッション」です。
女と野村の馴れ初めは、とてもよく心情がわかります。「どうせ日本はもうじき無くなるんだ」と、絶望し酒を煽る頼りないインテリ崩れの野村が、刹那的な「おもちゃ」として、期限限定で女を引き受ける。見ているだけなら、私はこの手の男性は好きだし、無表情な中にちゃんと野村の気持ちを浮かばせていた永瀬が良かったので、最後まで見たようなもんです。
そこへいくとだね、江口のり子はどうしたの?彼女は決して美人じゃないですが、薄い眉に口元が薄幸と言うより薄情な感じで、切れ長の目元は涼しく賢そう。この作品の掴みどころのない女の役はぴったりのはずなのに、全然ダメでした。セリフは棒読みだし、ヘアまで見せてもエロくない。何度か泣くシーンがあるのですが、まるで学芸会です。狙ったのなら、全然的外れ。
この作品、江口の役は女性の共感を得ねばならないはずです。娼婦が長く、感じていると体が持たないので、気をそらしているうちに、本当に不感症になった。哀れですよ。同性として本当にそう思う。不感症だから、あの男この男と誰とでも寝ると言うのもわかる。感じないから出来るんですよ。それが始めて感じた場面がレイプって、はっ???です(永瀬バージョン)。
何か安手のAVのようなシーンが目の前に繰り広げられ、目が点に。その次笑えばいいのか?と思いました。この作品はピンク映画へのオマージュとして作られたそうです。私はピンクはほとんど観た事がなく語れませんが、もっと情感込めて描いているんだと想像してます。あれじゃ、ただの変態です。この女、戦災にあった街を歩くのが好きだそうで、荒れ果て人間や動物の死体が転がった街をくぐり抜けたかと思うと、何とヘア丸出しであそこを日光浴なさる。頭おかしいんじゃないの?どういう感情しているの?この役柄の設定なら、女はもっと妖精的な魅力と、したたかな女のたくましさがなきゃ、納得出来ません。イノセントでもなくエロくもなく、あれでは頭が足らないだけに感じました。
村淳の演技は良かったですが、大平の造形も謎。戦場で強姦と強盗を上官命令で繰り返したのがトラウマとなり、現在に至るわけです。要するに強姦と言う刺激がないとセックス出来ないのです。当時上官命令は天皇の命令だと思えと言われたと後述し、普通の男が戦場で変わり果て、その責任を戦争や天皇に求めているとはわかります。でもなぁ!
あれだけ唾を吐きたくなる強姦シーンを繰り返されたら、何を人の責任にしてんだよ!普通に暮らして日本の復興に役立った人の方が多いんだよ!甘ったれるんじゃないよ!と、怒鳴りたくなります。なので逮捕された後の「演説」も絵空事に感じるし、天皇陛下万歳!と言うところも、噴飯モノでした。江口との絡みも、変態では向こうの方が上なので、ホウホウの体で逃げ出すように見えて、また笑えばいいのか?と悩みました。
強姦シーンは、女優さんみんな裸になり大奮闘。最初の犠牲者の千葉美紅と言う女優さんは、迫真の演技で感心しました。でもその後は延々同じことの繰り返しです。一人乳飲み子がいると言う女性も手にかけるのですが、彼女が懇願するも絞殺。でもね、あの胸は授乳中の女性のじゃないし、胸を鷲掴みにされた時、必ず母乳がほとばしるもんです。何故それを演出しない?その方が、性器に木を突っ込むなんてバカするより、よっぽど被害者の無念が届きますよ。これは一端で、せっかく描き甲斐のあるプロットを、台無しにする場面の続出でした。
セリフも、何か気の利いたのがあった気がするけど、言霊が全くと言っていいほどなかったので、忘れました。描くのではなくセリフに頼りすぎです。せっかく面白くなりそうな題材だったのにと、とても残念です。
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