ケイケイの映画日記
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2013年07月18日(木) 「殺人の告白」

予定外でしたが、評判が大層良いので観てきました。びっくりするくらい面白かったです。すんごい拾い物。ポン・ジュノが「殺人の追憶」で描いた華城事件がモチーフとなっているサスペンスで、もちろんフィクション。頭からシッポまで楽しめる娯楽作ながら、ちゃんと韓国の世相にもシニカルに苦言を呈しています。監督はチョン・ビョンギル。

1990年、韓国中を震撼させた連続殺人事件の犯人が、時効を迎えた事を機に、事件の詳細を書いた本を出版する事になります。犯人と名乗る男はイ・ドゥソク(パク・シフ)。不敵で高貴な笑みをたたえる美しい彼は、瞬く間に韓国中の人気を集め、本はベストセラーに。それを苦々しく見つめる刑事がいました。彼はチェ・ヒョング(チョン・ジェヨン)。当時事件の主任であり、彼もまた、恋人を殺されていたのです。対立する二人。ドゥソクは本当に犯人なのか?彼はいったい、何故本を出版したのか?謎に包まれたまま、この事件は思わぬ方向へと進んで行きます。

冒頭の雨の中のアクションシーンで、まず目を奪われます。ド胆を抜かれるような目新しさはありませんが、とにかくスピィーディー。あれ?と感じている間に、時間が交錯して、これは15年前の事なのだとわかります。女将さんのかすれ声を聞き、生きていて良かった。

大々的な宣伝と、派手なパフォーマンスを繰り広げるドゥソクに国中が盛り上がり、テレビ局も遺族との対立を煽る。これは下衆な好奇心に煽られやすい国民性、拝金主義も横行していると皮肉っているのでしょう。申し訳ないけど、実感を持ってわかります。日本でも、殺人容疑者に人気が集まった事がありましたが、あれはネットでの言わば裏の話。こちらは堂々たる表舞台での事です。もちろん、韓国でも実際には有り得ないでしょうが、ありそうだなと、感じさせるのは、作りが上手いからですね。

そしてドゥソクの美しい容姿。彼が不細工な男性だったら?これ程民衆は騒がなかったはず。上手いところを付いている。これはどこの国でもそうでしょう。女性なら若さも加味されるはず。特に韓国は整形大国。その事も後で重要なアイテムとして出てきます。この卑しい下世話さ満載を観て、自分は絶対渦の中に加わらないと断言出来る人は少ないでしょう。そうやって観客の心を、逆説的に戒めているのかも。

モヤモヤした謎に包まれたまま、お話は二転三転して行き、とにかく途中までは先が全然読めません。刑事の当然の正義感と思って見ていたものが別物だったり、混乱していく頭は、しかし段々と核心に近づき伏線を拾って行く様子はお見事です。常に息詰まるストーリー展開の中、派手なカーアクションや素手の格闘で、一層気分を上げてくれます。途中で恋人同士や親子の情愛を滲ませ、犯人への憎悪を観客に共感させるのも上手い。そして合間合間にのんびりしたギャグを入れて、気分を緩ませる事も忘れません。常に心が張ってばかりだと、返って面白さを味わえませんもんね。ちなみに脚本も監督で、すっかり魅了されました。

主役二人は出色の出来。チョン・ジェヨンは久しぶりに観ましたが、やっぱり上手い!やさぐれ刑事のだらしなさと俊英さが混濁した複雑なキャラを、見事に表現できています。そして殺された恋人を思い続ける男の純情さにも泣かされました。あの短気さ、あれは韓国の男性の伝統ですよ。この描き方を見ると、どうも肯定しているようですね(笑)。パク・シフも得体の知れない酷薄な美しさをたたえるドゥソクを、白いベールに包まれながらのような演技で、こちらも好演でした。引き締まった肉体美を披露するシーンもありますが、思えばこれも伏線でした。

犯人はどうなるのか?も、お国柄が出ているのでしょう。私は有りだと思いましたが、日本で描かれたら、どうかな?韓国でも実際はこのような事は無理なはず。民衆の願望を叶えるのも、映画の仕事ですもんね。ここも国民性が出ているのでしょう。オーラスはちょっと垢抜けないけど、この浪花節的な泥臭さ、秀逸なサスペンスの最後としては、私はミスマッチで、ここも如何にも韓国映画の娯楽作と言う感じで、好きです。

大阪は来週金曜日までですって。他の地方は未だのところや上映中のところもあるので、是非足をお運び下さい。超オススメ作!


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