ケイケイの映画日記
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超有名なミュージカルの映画化。原作は小学生の時「ああ無情」で読みましたが、大人用は未読。粗方ストーリーは知っているわけですが、最初の方の司教さんの「これは彼に贈ったものです」で、もう既に落涙。もちろん以降泣きっぱなし。自分でもえぇぇ!と意外でしたが、たまに思考より先に心が反応して、ずっと泣きっぱなしの映画に出会うことがあります。今までで一番だったのが、「ずっとあなたを愛してる」で、今年なら「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」です。自分でも自覚せずに心に渇望するもの、それに出会った時、涙とともに魂が浄化されるのだと思います。多分今年最期の作品、新年を迎えるにあたって、私には最高の締めくくりとなりました。監督はトム・フーパー。
有名な原作だし、年末によりあらすじは割愛(ごめんね)。冒頭、囚人たちの過酷な扱いが映されます。それは懲役ではなく奴隷のよう。そして憎しみのような眼差しをジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)に向けるジャベール警部(ラッセル・クロウ)。ジャンは19年間の牢獄生活を経て釈放されますが、一生仮釈放で、重要危険人物の証明証を持たされます。たった一個のパンを盗んだだけ、それも飢えた妹の子のためだったと怒るジャン。お前の罰が増えたのは、脱獄を繰り返したからだと冷酷に答えるジャベール。この時の二人は、最後ではまるで別の人物になるのです。
フォンテーヌ役のアン・ハサウェイが素晴らしい。色んな役柄に挑戦する彼女ですが、今回は子を思う薄幸の娼婦。汚れた境涯に落ち、身も心も荒みながら、しかし純粋な心は残るフォンテーヌを熱演。切々と歌い上げる「夢やぶれて」には、今回一番号泣しました。
ファンテーヌと同じくらい泣かされたのが、エポニーヌ(サマンサ・バークス)。愛するマリウス(エディ・レッドメイン)の心がコゼット(アマンダ・セイフライド)に向かうのを知り悲しみにくれるエポニーヌ。しかし愛するマリウスの幸せを一心に願う彼女の姿は崇高ですらあり、例え片思いであっても、愛する、その事の素晴らしを感じずにはいられません。
葛藤の末、自分と間違われた人を救うため、正体を明かすジャン。本当に別人になるための絶好のチャンスを、みすみす手放します。言うも地獄、言わぬも地獄。そうだったのでしょうか?見ず知らずの人を救ったジャンに、神が与えしものが、コゼットだったのだと思います。ジャンは改心はしたものの、警察の手から逃れるための人生です。誰かを愛することは憚られたでしょう。しかしこの子を守らねば、この子をフォンテーヌの代わりに育てねばの決心は、ジャンに愛も強さも与えた事でしょう。それはジャンの人生に苦しみだけではなく、喜びや潤いを与えたと思うのです。
ジャベールは自分も監獄で生まれたと言います。きっと母は罪人なのでしょう。己を律し正義を追求した結果が今の職業なのでしょう。彼の背負った過酷な境涯が、罪を憎み人を憎み、不寛容で無慈悲な人を作ったのだと思いました。彼もまた、誰かを愛すると言う意味を知らぬ人です。そんなジャベールが、自分を憎んでいるであろうジャン・バルジャンに命を助けられ、初めて自分の行き方や正義の在り方に疑問を持つシーンも、深く心を揺さぶられました。
ジャンとジャベールは合わせ鏡のよう。一人は陽のあたる場所を歩み、一人は日陰で人知れず生き。しかしどちらが生の豊かさを享受出来たかと言うと、日陰を生きたジャンの方だと感じるのです。もし彼がフォンテーヌに慈悲深い心をかけなかったら?血の繋がらぬコゼットを厄介者だと思ったら?ジャンの人生は豊かに彩られはしなかったと思います。
自分の目の前に突き出された現象をどう感じ捉えるか?光も影も自分で消化し、苦しい境涯と戯れる人生を送ったジャンが、「あなたは何も悪くない。自分の仕事をしただけだ」と語った時、憎し抜いた目でジャベールを見つめた最初の釈放の時から、数十年が経っていました。自分の罪を悔い改める、それが今のジャンの行動なのだと思いました。ジャベールの顛末は絶望なのでしょうか?ジャンが上記のように見えた私は、絶望ではなくジャベールの再生と思いたい。
ヒュー・ジャックマンが歌が上手いのは知っていましたが、キャストみんなが上手いのにはびっくり。なんだかんか言っても、ハリウッドは底が厚いなと感じます。台詞は全て歌で、踊りは無し。この形式は「シェルブールの雨傘」もそうでした。一般的なミュージカルの趣ではないですが、調べに乗ると、セリフに言霊が入るようで、どの曲もとても心に響きました。特に数人のキャストが自分の思いの丈を、同時に切々と歌い上げる場面が圧巻。その他も、映画ならではの空間の使い方もあり、私的に充分楽しめました。
重厚さや華やかさではなく、端正で上品な作りです。原作に力があるびで、映画は忠実にその感動を再現するのが最優先だと思うので、私はこの作りで良かったと思います。心を新たにするお正月に観るに、ふさわしい作品だと思います。
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