ケイケイの映画日記
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2012年11月25日(日) 「その夜の侍」

元は舞台劇なのだとか。役者さんたちが総じて好演しているので、とても見応えはありましたが、面白くはなかったです。観た直後は、そのことが大いに不満でしたが、一晩寝てみると、それはそれで値打ちがある作品かな?と、気分的には盛り返しています。監督は舞台版も演出している赤堀雅秋。

小さな町工場を経営している中村(堺雅人)。五年前妻(坂井真紀)をひき逃げ事故で亡くし、抜け殻のようなまま日常を過ごしていました。そんな彼を妻の兄青木(新井浩文)は心配して、度々中村の元を訪れています。犯人の木島(山田孝之)は刑務所を最近出所。しかしひき逃げを起こした事の反省もなく、友人の小林(綾野剛)の元に身を寄せながら、傍若無人の限りを尽くしています。そんな木島の元に、「8月10日、お前を殺して俺も死ぬ」と言う脅迫状が毎日届いていました。8月10日は、中村の妻の命日でした。

登場人物はわかる人もおり、そうでない人もあり。一番心を寄せたのは中村です。冴えない中年男で、生前直前の留守電を何度も聞く、遺骨を今でお墓に収められずお膳の上においてあり、部屋には妻の衣服だらけ。ポケットに常に妻のブラジャーを入れている姿など、一歩間違えば変態です。しかし堺雅人は上手かった。仕事で汗まみれなのに純粋な雰囲気、腰が低く寡黙な姿から、善き人である事が伺えます。その様子は未練がましく女々しいのではなく、妻への愛が溢れているのだと感じました。私なんか、右のポケットにパンツ入れてもいいのよと、言いたくなりましたもん。

対する木島は、良心と言うもんが全くないような男。暴力的で奔放、解釈は常に自己中心。吐き気がするような男です。山田孝之は最近こんな役柄ばかりで、お手のもん的に観客を惹きつけます。役柄的には、中村の方が難しいでしょうね。一歩も引けをとらない堺雅人の上手さを、山田孝之を観ながら確認していました。

一つ一つのプロットが息詰まるようなので、見応えがあったのだと思います。でも長いんですよ。暴力シーンしかり、語らうシーンしかり、ラストの雨の対決シーンしかり。長い間に、グワーと気持ちが盛り上がって来る人もいるでしょうけど、私は退屈感の方が大きかったです。何故なら理解出来ない登場人物が多かったから。

筆頭は谷村美月。理不尽に体を求められ、えっ?許してしまうんですか?の次の日は、部屋に上がらせ食事まで作る。「誰かが家にいるっていいですね」ってあなた、一人より狂犬でも誰かといたいの?また出た!バカ女・・・の気分です。これを孤独だからと表現するのは、安易過ぎると思うのですが。嫌々であるならまだしも、結構喜んでいる。田口トモロヲに貸したパジャマ、私なら次の日捨てます。洗濯したって着ませんて。それ以前に貸しません。私が意地悪なの?謎すぎる。

次は義兄。何となくはわかるんですよ。義弟である中村に幸せになってもらわねば、本当は彼も妹の死が吹っ切れないのでしょう。ならば何故木島にあんな形で屈するの?「平凡は全力で作り上げるもんだ」は名台詞だと思います。なのでいくら恫喝されたからと言って、私にはあれが全力とは思えません。

次は田口トモロヲの小林の同僚。木嶋の暴力に合って、支配されているのはわかります。でも更なる他者への暴力の場面で居合わせる必用はないでしょう?その理由が「暇だったから」って、それはないでしょう?ここは猛然とセリフに腹が立ちました。こんな脱力系のセリフで、支配されれているだろう人の心を表現しないですよ。

次は安藤サクラのホテトル嬢の場面。糖尿でセックス出来ないはずの中村が彼女を呼んだのは、「たわいない話」をしかったからでしょう。その気持ちはわかる。でもだらだら同じ事の繰り返しが、またくどい。段々金もらってるんだから、もっと真面目に仕事しろよと、安藤サクラに腹が立つ。

書きながら感じるんですけど、結局この監督の演出が私の感性と合わないのですね。

反対に理解出来たのは小林。彼こそ木島がどんな男か、骨身に沁みているのでしょう。でも行方をくらませて、木島を巻くことは出来たはず。言い訳じみた「あいつには俺がいてやらないと」の台詞も本心、木島に死んでもらいたいと思う気持ちも本心でしょう。これも愛憎かなぁ。

木島が包丁を持ち出したとき、中村が怖いのだと思いました。現状を守りたい人間には暴力は有効であっても、そうでない人間には無効なのですね。それを動物的な嗅覚で嗅ぎ取ったのでしょう。

中村の「君には関係のないことだ」と言う台詞は、自分の心にはお前なんか入って来られないんだと言う事なのでしょうか?そう言いながら、木島に執着する様子は、とても人間臭いと思いました。でも!やっぱりこの台詞へ来るまでのシーンが長い!私的にはあんなに要りません。ラストの締めくくりは悪くなかったけど、プリンも一回でいいよ。

一番好きなシーンは、中村に雇われている工員さんが、彼と何気なく過ごした後の涙です。工員自身何故泣くのかわからないと言います。そんなもんですよ。心の中で社長の幸せを願っている、その気持ちが涙になって現れていたのだと思いました。中村と言う人が、とても良く現れていたシーンだと思います。

書いてて結構いい映画だったのか?と思い直しています。あと10分、いや20分短かったら、感想が変わっていたかも?でもこの尺は面白くなかったです。


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