ケイケイの映画日記
目次過去未来


2012年09月17日(月) 「鍵泥棒のメソッド」

「運命じゃない人」「アフタースクール」の、内田けんじ監督作品。前二作も騙されて爽快の作品でしたが、今回は時空をいじって本当はこうでした、系ではありません。騙すのではなく、小見出しに出して行き、あぁそうだったのか!と、大いに納得させられる作品。脚本も監督自身。今回もストーリーは伏線バッチリ、綿密で全く隙がありません。観た後、心がほのぼのして、監督の作品では私がこれが一番好きです。

35歳の売れない役者桜井(堺雅人)。安アパートで自殺を図ったものの、死にきれず。銭湯のチケットがあったため、気を取り直して出かけて行きます。しかしそこの現れたのが伝説の殺し屋コンドウ(香川照之)。入浴しに来ただけですが、運悪く転んでしまい気を失います。コンドウの羽振りの良さを目にしていた桜井は、咄嗟に自分の鍵とを入れ替えます。記憶をなくしたコンドウは、自分を桜井だと思い込み、桜井はコンドウの素性を知り仰天。そこへ婚活中の雑誌編集長の佳苗(広末涼子)が絡んで行きます。

冒頭、生真面目で融通が利かなさそう香苗の描写が出てきます。いわく12月に結婚する事に決めた、でも相手がまだいない。色々婚活中だが、良い相手がいれば紹介してくれと、部下に頭を下げる始末。えぇぇぇ!何なんだこの人、ちょっと変わり者なのか?と仰天していたら、部下たちは拍手で応援を約束。会社ごと変わっているんだ・・・と、ただのユーモラスな描写だと思っていたら、後で二重三重の仕掛けが待っていましてよ。これが泣かせるのだなぁ。

ただ、以前の監督なら、これ全てオチに向けての仕掛けでした。ところが今回の仕掛けは、ヘタレに見えたり非情な切れ者に思えた人たちの、別の姿を描写する前振りだったんですね。人間とは多面性の生き物、視点をずらしたり変えたりすると、違う姿が見えると言う次第。今回は小見出しに彼らの善き姿を出していくので、知らぬ間に三人に好感を抱いてしまいます。今回はそういった人物描写に割く部分が多く、いつもながらのパズルの組み合わせだけではなく、面白い筋だけではなく、監督は人を描こうとしていると感じます。

人を描けば、結局は人生になるのよね。好いた惚れた、愛だ家庭だ結婚だの、平凡な人並みの生活には、人生の喜怒哀楽がいっぱい詰まっています。そして潤いも。クスクス、時にはゲラゲラ笑いながら、しっかりそれを実感します。

前二作は、後から後から情報が溢れ出して、あっという間にパズルが埋まってい感じでしたが、上手いかわし方だ、えぇ〜、ダメなの?ああそうくるのか、ひえぇぇ〜!と、今回は順序よくドンデン返ししてくれるので、伏線発見もとっても早いです。ユーモアとスリルの共存が、とても良い配分です。

広末涼子は、スキャンダラスな私生活がよく取りざたされて、離婚経験もある二時のママですが、それなりの年齢になっても、透明感とお嬢さんっぽさを持ち合わせている人です。それがとても生かされていて、ベストキャスティング。堺雅人と香川照之も、相変わらず手堅いです。特に香川照之は、今回渋いを通り越して、苦味のある表情がすごーく素敵でした。森口瑤子は今回老けてたんだよなー。だから安心していたけど、最後はやっぱ若返ってました(以下自粛)。

内田監督は、こんな丹念で綿密な作品を撮れる人だから、賢いに決まってるんですが、それを全然ひけらかさない、誰もが楽しめる敷居が低く、かつ優秀な娯楽作を作る人です。今回は監督のそういう人柄までまで感じさせる作品でした。これからも大いに期待しています。死ぬまで追いかけるよ!


ケイケイ |MAILHomePage