ケイケイの映画日記
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2012年05月15日(火) |
「ル・アーヴルの靴みがき」 |
この作品はフランス資本ですが、監督はフィンランドのアキ・カウリスマキ。たくさんの国の映画を観ていると、日本のことわざが浮かんでくることがあります。この作品では、「情けは人の為ならず」。大人の寓話的な素敵な作品。
北フランスの湊町ル・アーヴルに住むマルセル(アンドレ・ウィルム)は、かつてはボヘミアンな生活をしていましたが、老境の今は靴磨きを生業とし、愛妻のアルレッティ(カティ・オウティネン)と仲良く暮らしていました。ある日不法入国して逃亡中のアフリカの少年イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)と出会ったマルセルは、イドリッサを匿う事に。その時アルレッティは病に冒され、余命いくばくもないと医師に宣言されながら、夫には隠してくれと望んでいました。
登場人物は下町のおじちゃんおばちゃんばっかりで、美男美女は一人もおらず、でもこれだけ楽しい作品が作れるんですね。いくらでも盛り上げたり、ハラハラドキドキさせられるシチュエーションがいっぱいなんですが、どれもこれも、間の抜けたユーモアでゆったりと描き、唐突ささえも微笑ましく感じます。
だからね、本当はあれやこれや、ツッコミもいっぱいなんです。しかしこの作品に限っては、ツッコミは野暮ではなく下品だと思う。だってこの登場人物たち、皆が皆貧しくとも、心映えの美しい人品卑しからぬ人ばっかりなんです。ある目的のため遠出するマルセルは、きちんと一張羅を羽織り、妻は夫に病気の重さを悟られぬよう、頬紅をほどこし、町のみんなはイドリッサのために案を練る。そりゃ、警視さん(ジャン・ピエール・ダルッサン)だって、常日頃は「この仕事の特徴は、人に嫌われる事だ」を意に介していなくても、この人たちに接するうちに、出世を棒に振っても良い生き方があると、きっと思ったんですね。
イドリッサは大変躾の行き届いた子で、何も教えないのにマルセルの荷物を担ぎ、皿を洗い掃除をし、靴磨き修行をして、マルセルの役に立とうとします。感謝の表現ですね。アルレッティに「ご主人には大変お世話になっています。マダム、早く回復することを祈っています」と言った時には、涙が溢れました。良くはしてもらっていても知らない土地、知らない人々。年端のいかない子が、先行きはどんなに不安かと思うのに、人を思いやる心がある。元々の心が豊かな証明だと思いました。貧しくても人を思いやる、この港町の人々と同じです。
「この街じゃ最近奇跡は起こっていないわ」「私はアルビノだ」など、予告編に出てくるセリフには爆笑しました。とても悲愴な状況なのに、何だか希望が持てるのです。ラストのハッピーエンドは、きっとイドリッサが運んできたんだと私は思います。だって「祈っています」って言ってたもん。あの時マルセルがイドリッサに情けをかけなかったら、事態は違う方向だったのかも。心に余裕を持つのは大切な事ですね。
妻を見舞う時は、いつもお花を手に見舞うマルセルが素敵でした。リチャード・ギアより素敵だった。いやホント。とても幸せになれる作品ですので、どうぞお確かめを。
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