ケイケイの映画日記
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2011年09月22日(木) |
「あしたのパスタはアルデンテ」 |
超楽しかった!食べて飲んで泣いて笑って感動して、もうお腹いっぱい!のはずなのに、別腹でティラミスもいただけちゃう余裕もあります。これは影の主役・お祖母ちゃん(イラリア・オッキーニ)の御陰だね。イタリアが大好きになる作品です。監督はフェルザンス・オスペテク。トルコから移住してきた人なんだとか。監督さんもイタリアが大好きなんですね。
老舗のパスタ会社の社長の次男トンマーゾ(リカルド・スカマルチョ)は、大学進学でローマに出た後そのまま居住。今日は兄アントニオ(アレッサンドロ・ブリィティオージ)の社長就任を家族で祝うため、故郷南イタリアのレッツェに帰郷します。その席でトンマーゾは、経営学ではなく文学部を卒業したこと、家業は継がず小説家になりたいこと、そしてゲイであることを家族に告白しようと思っています。しかし一同揃っての夕食会の時、兄が先に自分がゲイであることをカミングアウト。怒り狂った父はアントニオを勘当。ついでに血圧急上昇で入院してしまいます。家族一同動揺する中、父にお前が家業を継いでくれと懇願されたトンマーゾは、恋人の待つローマにすぐ帰るはずだったのに、そのまま実家にしばらく滞在するはめになります。
全然ノーマークの作品でした。それが拙掲示板で、原田芳雄追悼作のお知らせにレスを下さった方がいて、その時心斎橋シネマートでも上映ありと知りました。無事「野良猫ロック」と未公開作品「新世界」を鑑賞(こちらも楽しみました)。その時予告編で流していたのがコレ。予告編から爆笑するほど面白く、絶対これも観ようと決心。有り難きは映画好きのご縁ですね〜。本当に感謝感謝。Grazie!
冒頭に愛しい人と添えず、哀しみに沈む美しい花嫁の姿が。これがお祖母ちゃんの昔の姿だと最初に描写しているのが効いています。その辛さが、孫の代まで続くとは因果なものです。「他人の望む人生なんて、つまらない」が、この作品のキャッチ・コピーですが、長男として一生懸命家と会社を守ろうとしたアントニオ、自由に人生を謳歌出来る立場が一転、初めて兄の大変さを噛み締めるトンマーゾの頑張る姿を描き、ただ野放図に自由気ままを勧めているのではありません。自分を偽る哀しみ、家族の期待に添えない情けなさ。頑張った奥のそんな辛さを経験してこそ、本当の自分の人生が見えてくる、そう教えてくれます。
共同経営者の幼馴染のアルバ(ニコール・グリマウド)は、お金はあっても恵まれない家庭に育ち、情緒不安定。仕事は出来るけど友人はいません。精神病であるとも語ります。人生に捨て鉢気味なアルバが初めて心開いた相手が、ゲイのトンマーゾとは何とも皮肉です。次第に彼女を愛おしく感じるトンマーゾ。男の恋人のいるトンマーゾとアルバの関係を、お安くは描かず、大きな意味での人間愛に昇華させている数々の場面が、切なくも心暖まります。アントニオやトンマーゾと違い、家族に縁の薄い彼女には、私はこの描き方の方が幸せになると思います。
イタリア式食べて飲んで愛し合って喧嘩しての物語が、何故かお腹にもたれず清々しいのは、セックスシーンがなかったからかな?親愛のキスや、男性同士の事後の様子は映しますが、胸の谷間全開にさせて殿方を誘うのは、熟女さえもうじき卒業の淑女たちです。この目が腐る一歩手前のエロエロで笑わせておいて、哀しい彼女の過去を語らせるのは技ありでした。さすがイタリア映画!
トンマーゾのゲイの友人たちが、それを隠してトンマーゾの家族と接する場面は爆笑の連続です。しかし爆笑の裏に、如何に自分を偽るのが苦しいのかも理解出来る仕組みです。短髪に適度なマッチョの友人の、ピタピタのノースリブのオフタートルとパンツ姿に、「ゲイ丸出しだ」と他のゲイの友人に却下されるシーンでは、笑いながら考えさせられました。だってとっても似合ってたんだもん。太陽の燦々と降り注ぐ海ではしゃぐ彼らとアルバ。ひっそり隠れることないのよと、抱きしめたくなります。
男も女も騒がしくて滑稽、でも熱気いっぱいのこの作品で、気風の良さと器の大きさを最後の最後に披露したお祖母ちゃんの幕引きの仕方が、あっぱれです。会社を大きくしたはずのトンマーゾたちの父親も、まだまだ母親には勝てないものですね。
登場人物全て描き分けもくっきりしているので、知っている顔がいなくても、迷うことはありません。ラストの大円団は、息子二人がゲイで、家が絶えるなんて事ないのよ、好きな道を生きなさいと優しく諭されているようです。孫が女の子二人なのも、そう言う意味を含んでいるのかも?
いや〜「人生ここにあり!」と言い、イタリア映画最高です。最近はラテンと言うとスペイン映画ばっかり観ていましたが、古くはソフィア・ローレンやマストロヤンニの主演作がいっぱい日本でも公開されてたし、これからもどんどん公開して欲しいな。折しも10月には御大ヴィスコンティ大先生の「ベニスに死す」もリバイバルするし、この秋はイタリアに染まりたい気分です。
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