ケイケイの映画日記
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2011年05月19日(木) 「ブラック・スワン」

もう、予想していたのと、全然違うじゃございませんか。実は私、昨年の12月から精神科のクリニックの受付をしており、ちったぁ精神疾患についてお勉強しておるわけです。そんな素人に毛が生えた程度のワタクシめでも、これってこの病気じゃないの???と、始まってすぐ感じました。以降稚拙に分析してしまい、素直に作品に入れませんでした。あぁ残念!監督はダーレン・アロノフスキー。本年度アカデミー賞主演女優賞受賞作品(ナタリー・ポートマン)。

ニューヨークのダンサーのニナ(ナタリー・ポートマン)は、同じくダンサーだった母(バーバラ・ハーシー)の期待を一身に背負い、厳しい練習に励んでいます。そんな時バレエ団のプリマであるべス(ウィノナ・ライダー)が引退、座付きの振付監督トマ(ヴァンサン・カッセル)は、「白鳥の湖」の主役に、ニナを抜擢されます。優等生のニナは、清楚な白鳥は完璧に踊れますが、官能的な黒鳥は上手く表現できません。ライバルの奔放なリリー(ミラ・クニス)に役を取られるのではないかと、疑心暗鬼になるニナ。次第に精神が蝕まれていきます。

え〜と、予告編で出ていた幻覚、私は主役に抜擢されたプレッシャーやストレスで、次第に神経をすり減らしたヒロインが観たのだと思っていたのですよ。しかしだね、それがまだオーディションに行く前の段階から、幻覚やドッペルゲンガーを観る訳です。自傷行為もあり。もちろん抜擢後はその病的な状態が加速。はい???

抜擢される前から病に罹っているんですね。当方ドクターじゃないんで、病名は恐れ多くてここでは書けませんが、とってもポピュラーな精神疾患が思い浮かぶ。ここで根本的な視点が激変してしまい、以降精神疾患を抱えた人の物語として観てしまいました。

当初は少しかまい過ぎるけど、仲の良い母娘に思えたのが、次第に母は娘の年齢には不相応の溺愛と抑圧を繰り返し、ニナの神経を蝕む根本なのがわかります。会話から母はかつて座付き監督(トマとは別)と関係を持ち、キャリアを捨ててニナをシングルで出産。以降自分の果たせなかった夢を娘に託しているのがわかります。娘にもしっかりその事は伝えています。

でも母は同じダンサーでも群舞の一人。出産は28歳と、既に先は見えていたその他大勢の一人だったわけ。出産を大成出来なかった事の言い訳にしたいのでしょう。おまけに自分より美貌と才に恵まれた娘に、嫉妬もしている。正常な親子関係を営んでいる方には、えぇぇ〜?と驚かれるかもですが、同性の娘に嫉妬する母親、いるんです。その嫉妬は邪悪だとはわかっているので、子供を束縛し同化して運命共同体になる事で、折り合いをつけるわけです。ややこしいでしょ?私の母も同じような人だったので、この辺の描写はよーくわかる。

ニナはと言うと、大人になって母の嘘と執着の愛に苦しみながらも、愛され保護されている事には素直に感謝しているので、反発心も抑え込みます。まぁ反発すると、この手のお母さんは発狂するしね。正確に言うと、子供が言う事聞くようにヒステリーを起こすわけ(ケーキのプロット参照)。無自覚の狂ったふりです。そうすると、子供は学習しているので反発はせず(後で面倒くさい)、代わりに自分の神経に変調をきたす。おまけにストイックなダンサーの日常、ライバルたちとの葛藤が、それに拍車をかけます。

ニナは性的にも奥手。これは自分が婚外で出生している(私の想像)事に起因しているのでは?母に感謝は出来ても、やはり辛いのでしょう。自分自身で自己評価が低いのかも。トマに気があっても、無理に異性やセックスへの憧れや欲望を抑え込んでいるので、ドッペルゲンガーはセクシーで、ドッペルゲンガーを実在したような、奔放なリリーが非常に気になる。セックスに恐れがあるのも、妊娠を嫌悪する気持ちがあるからでしょうか?それで現実と幻覚が行ったり来たりしながらも、性の相手は女性なのでしょう。

等々、つらつら考えて観ていると、もう映画を楽しむどころじゃーないわけ。血が噴き出したり生爪を剥いだり、悪魔が見えたり、本当は観客としては怖がらないといけなのでしょうが、もうこんな恐ろしい幻覚が見えるニナが、うちの患者さんたちと重なってしまい、可哀想で可哀想で。あんなのが現実に見えたら、本当に怖いですよ。早く病院に行きなさいよ、お薬飲みなさい。バレリーナとしては生きていけなくても、人としての人生があるのよ、と痛々しい思いで観てしまい、「あなたは病気なのよ!」と終盤で叫ぶ母に対しては、それなら早く病院に連れて行けよ、お前、母親だろう?!と、母としての未熟さに怒り心頭。作り手の思惑ダダはずれの感想へ、まっしぐらです。

ナタリーは、演技も上手だし良い女優さんだと思っていましたが、少々味気ないとも思っていたのも事実。そんな私のナタリー像と今回のニナはぴったり重なり、対照的な白鳥と黒鳥の場面など、鬼気迫るようで、とても良かったです。ミラ・クニスは今回初めて観ましたが、キュートにしてコケットリー、若々しいセクシーさが発散されていて、大好きになりました。小悪魔的な雰囲気で、性悪なのか、ただ奔放なだけなのか、ニナを悩ます様子も作品のアクセントとして、上手く機能していました。カッセルは年取って段々アクが減って、よくなったきた感じです。厳しく腕の立つ監督と、洗練されたプレイボーイの両方、きちんと演じていました。

そうだなぁ、母親は置いといて、例えばトマが、ニナを女性として開花させるのに、あんな手練手管を使わず、厳しくも「君なら出来る」的アメリカンな方法で彼女を鍛えたとしたら?ストレートに両手を大きく広げて、ニナを受け止めたら?結果は違っていたかもなぁ。誰でも支えてくれる人と環境が大切なんですよ。それは精神疾患に限らずね。結末はバッドではないけれど、やはり悲劇だと思います。白鳥=オデットに重ねているのでしょう。

他はもうちょっとバレエの場面が観たかったかな?でも「白鳥の湖」を持ってきたのは良かったです。ストーリーに踊り、音楽など、すごくポピュラーなものですから、門外漢にも理解出来ましたから。それとクレジットでウィノナの名前を発見して大ショック。役名を観てこれまたショック。全く気付かなかったの。あんなギスギスで花がなくなっちゃって、キャリアじり貧なんですねぇ。私生活を整えて、まだまだ若いのだから頑張って欲しいと思いました。

と、こんな感じの感想です。医療機関の受付は長いのですが、精神科は難しいです。入職した当初感じた事と今では、180度変化した視点もあります。自己満足な接遇になっていないか?常に気をつけなくちゃいけないし、他の科目では、すぐにどの患者さんとの距離感も掴めたのに、未だに手探りの人もいます。でも他の科目より、精神科の患者さんたちは大人しくて純粋だと、個人的には感じています。年長者でも「可愛い!」と思える人も多いです。やっかいな人もいますが、それはどの科目で働いても居ますから。そう言った意味では、疑似体験出来たので観て良かったと思っています。って、全然映画の感想ちゃうやん・・・。


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