ケイケイの映画日記
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2010年09月01日(水) 「東京島」


え〜、「ぼくのエリ」や石井輝男特集など観ているのに、対して出来の良くないこの作品から書くのはどうよ?という自己ツッコミもあるんですが、あんまり芳しくない評価が多いので追い打ちかけたいと思いますまぁ想像していたよりは、ましだったんですが。
監督は篠崎誠。

結婚20周年記念に、ヨットで世界旅行を計画した清子(木村多江)隆(鶴見辰吾)夫妻は、航海中に難破。無人島に辿り漂流します。ほどなく与那国島からのきついバイトから逃げ出したフリーター男子16人も漂流し、彼らは島を「東京島」と名付けコミュニュティを作り、救助が来るのを長い間待っていました。そこへ中国人の密入国グループも漂流し、少しずつ日本人グループに亀裂が入っていきます。

桐野夏生の原作を読んでいます。桐野作品は登場人物のキャラ立ちがどの作品でも際立っていますが、この作品のヒロイン清子のキャラも強烈です。自然に老いていくはずだった小太りの平凡な中年主婦が、無人島に漂流、逆ハーレムのような環境に追い込まれ、逞しくしたたかに変貌していく様子が痛快でした。

なので地が美しくスリムな木村多江が清子役っつー時点で、原作絶賛派には負けたも同然だったわけですが、その不安が的中。木村多江のための清子に変更になっていました。原作では清子の腹黒さ計算高さ、身勝手さ、それらが強烈な生命力を伴って、獰猛な魅力になっていました。

無人島に数年生活しているわけですよ。原作では着の身着のままで漂流したので、服は洗えないし痛んでしまうので、みんなジャングルの奥深くで生活するような半裸なわけ。それが清子ときたら、ほんの少し薄汚れただけで、都会で生活しているようなファッショナブルさ。男たちも白のTシャツがそのまんま真っ白です。そんなわけないじゃん。

原作で夫隆が日記で「これからは僕たち夫婦が、ここでの彼らの両親となろう」と綴ります。でもそう思っていたのは夫だけで、妻は母ではなく、盛りもとうに過ぎたはずが、若い男に囲まれて「女」を逆走、男たちの性を浴びて、どんどん変貌していくわけです。しかし変貌と言ってもね、これは状況が特殊だからで、普通40半ばの女が息子ほどの男たちにチヤホヤされるわきゃ〜ない。原作はその辺に妙味があったのですが、それが木村多江でしょ?普通に若い男落とせるじゃん。清子に過剰に入れ込むカスカベ(山口龍人)とのツーショットなんて、滑稽じゃなきゃいけないのに、普通にナイスカップルです。

「この年増の娼婦が!」とワタナベ(窪塚洋介)に罵られる清子ですが、確かに原作ではたった一人の女の利点を生かし、あの男この男入れ食い状態ですが、この作品では夫の隆を除いて、清子が関係した男はたった3人。そのうち二人は当時『夫』で、あと一人は無理からぬ理由。男23人に囲まれているのに、まぁ何て貞淑なんでしょ。代わりに強調されたのが食べる欲でしたが、これは隆でもっと描き込んで欲しかったなぁ。

清子以外の男たちの無人島での焦燥感も薄く、何だかリゾートに、ちょっと不便な無人島を選びました〜的な演出です。それは旺盛な生活力を誇示するはずの中国人たちも同じで、全然日本のヘタレフリーター軍団VS密入国の獰猛な中国人軍団になっていません。

だいたいさ、40女が「女装」するって大変なんだぞ。ちょっと気を許すと「婆さん」が顔を出すもんで、日々どんだけ気を使っていることか。それが紫外線浴びまくりでシミもなく皺もなく、シャンプーもリンスもないのに、白髪もないサラサラヘアーたぁ、どういうことだい?まゆ毛だってカットしないとぼうぼうだぞ。無駄毛の処理はどうする?だから〜ここは〜、それをうっちゃるために、女性ホルモンの活性化のお陰と、バカスカ若い男と寝ないとダメなの。

女はセックスの対象が終わっても、まだまだ孕む性で男を威嚇し、ドスドス踏み台にする逞しさも感じられず。あれじゃあ寝たから出来ました、です。だいたいすんげぇ高齢出産なんだよ?その不安も全然出てこなかったなぁ。

全体的に原作のダイジェスト版としては、それなりにまとめていましたが、五倍薄めるのが基準のカルピスで例えると、原作は原液、映画は20倍くらいに薄めた感じです。原作では隆を筆頭に、男たちも描きこまれていますが、この作品ではワタナベ以外全然印象に残りません。ワタナベも別モンなんですが、窪塚洋介はとっても良かったです。亀の甲羅を背負っても全然違和感なし。これは意外&感心しました。マンタの染谷将太は、悪いけど噴飯ものでした。この役は難しいです。彼にふる方が悪い。この役は田中要次だと思いました。

とすると、清子って誰だろう?あと5年経ったら、寺島しのぶでOKですが、今なら室井滋かなぁ〜?原作派の方は、脳内変換して楽しんで下さい。


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