ケイケイの映画日記
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2009年10月24日(土) 「ひだるか」

う〜ん・・・。困りました。お友達のとめさんに誘われ、港健二郎監督の「ひだるか」の自主上映に行きました。港監督とは、一度お目にかかったとこもあり、お友達各位の日記のコメントを拝見しても、そのお人柄の良さが伺える方です。しかし映画の出来と監督の人間性とはまた別モノ。残念ながら楽しめませんでした。辛辣に書いてしまうと思います、監督ごめんなさい!今回ネタバレです。

福岡の地方局の花形アナウンサーの陽子(岡本美沙)。不況で外資系資本により、テレビ局が乗っ取られそうになる最中、労組は二つに分裂する危機に直面します。この状況が、「三井三池争議」と共通するものを感じる陽子。争議には当時、陽子の父も関係していました。陽子は争議のことを、もっと知りたいと思い始めます。

物語の核は、三池三井争議の内容が、どんなものであったかということ、それに主人公陽子の成長物語を絡ませて描きたいのだとはわかりました。しかし如何せん、三井三池争議まで辿りつくのに、時間がかかり過ぎ。

それまではヒロインの魅力で引っ張らなければならないはずが、主演の岡本美沙に魅力が薄すぎるのです。アナウンサーというのにカツゼツが悪く、終始仏頂面で、表情は可愛げのない気の強さだけが常に強調されます。演技も他の無名の俳優たちが、それなりに役をこなしているのに対し、一人浮きまくるほどヘタクソです。実際のご本人が本日来場されていましたが、笑顔の柔らかな素敵な女性で、何故このチャーミングな笑顔がスクリーンで映らなかったのでしょうか?ちなみに音楽も担当されていますので、主演は別のプロの俳優を使った方が、ご本人のためにも良かったかと思います。

ヒロインも長く福岡に住んでいる割には、かの地に対して愛着が感じられません。優秀なアナであるとも感じさせるシーンはなし。これはまずいんじゃないでしょうか?大牟田での祭りの様子は映されますが、福岡らしさが画面には香ってきません。ここもバツ。

陽子は上司(四方堂亘)と恋仲ですが、何故八年間も秘密の恋とする必要が?二人の情事の場面が出てきますが、あの描き方では観客は不倫だと勘違いします。独身同士の恋なら、情事の場面は要りません。ピロートーク的に仕事の裏話を男女が色っぽく語るのならば、バスロープがごつ過ぎです。まるでコートを着てベッドに横たわっているようでした。

父親(入川保則)がガンで余命いくばくもないのに、手紙でその事を伝える母(星由里子)。このご時世に、一人娘にそんな大事なことを手紙で書く母親がどこにいる?ここは当然ガンが発覚した時点で電話です。父親には故郷の三池に思い出したくない理由があるらしいと、母親から語られるのですから、父が九州に娘が赴任するのに良い顔をしないのは、それなりに納得出来るのですが、それが長きに渡って娘との確執になる原因とするには、あれだけの描き方では納得し難いです。

自分がどうしてアナウンサーを目指したのか、原点回帰のため、当時の恋人に会うヒロイン。大学校内から元彼が出てきたので、大学の助手か講師になっているのかと思っていたら、外交官だと語られます。ここも違和感。途中のタクシーの中での会話なのですが、外交官である元彼が訪れたフィリピンの話になり、「知ってるわ、ピープルパワーね」という「だけ」の陽子のセリフには、絶句。いやしくも12年ジャーナリズムに身を置くキャリアのある女性が発する言葉ではなく、女子大生の発言です。知っていて当たり前のことです。語るならもっとピーブルパワーを掘り下げてヒロインに語らせるべきです。元彼にも未練たっぷりによりを戻そうと語らせるのではなく、もう既に結婚していて子供もいて、仕事でも実績を残している姿を見せて、陽子を発奮させるべきでは?ただ飲んでしゃべって元気が出たわ、では、30半ばの女性として非常に幼い気がします。

申し訳ないですが、いちいち語り口が拙いなと感じながら、ヒロインに感情移入出来ないまま、核心の三池三井争議に作品は突入。しかし残念ながら、私にはこの争議が如何に大変なものであったか、理解出来ませんでした。この描き方は争議の内容が頭に入った人には心に響くかもしれませんが、私はこの争議については予備知識がありません。ここは時間を割いて、争議の様子、それを支える家族の様子を回想シーンも交えながら、丹念に描く方が良かったと思います。時間の関係なら、前半を半分カットしてもお話は成立するはずです。

それとセリフの一つ一つに、言霊というか、あまり感情がこもっていないのが気にかかりました。気の利いたセリフがあるかどうか、これは作品の印象を左右します。

極めつけは、自分の担当する番組の本番中で、勝手に番組に全く関係ない労組内での内情を発言をするヒロインにまた絶句。番組は彼女一人のものではなく、たくさんの人の手がかかって作られているはず。こんな勝手が許されて良いわけはありません。第一私がイチ視聴者なら、ヒロインに反感を持つ行動です。これが正当化されて描かれている点が、気になります。ヒロインは、アレコレ時間をかけて自分を探しをしながら、いったいどこが成長したのか、私にはわかりませんでした。父親との確執は解けたかも知れませんが、それはあくまでプライベートの話。仕事面の成長があれでは、幼すぎます。上司から同僚深町に乗り換えるシーンも不必要。今彼・元彼・未来彼。男なしじゃ、いられないの?

全体に観客に向けてというより、どの描写も作り手の自己完結が過ぎて、観客は置いてけぼりと感じ、不満の残る内容でした。しかし有名どころのキャストは上記以外に、佐藤充、沢田亜矢子など、自主上映の作品としては豪華といえ、これは監督の人徳のあらわれでもあるのでしょう。次回作は是非その人徳が生かされる作品でありますよう、祈っていますので、頑張って下さい。応援しています。


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