ケイケイの映画日記
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いやー、面白い!すごい面白い!ツッコミを強引にかわしてしまう、スピード感とハラハラ感が充満。きっちり親子の情愛も描かれており、取り分け息子へ胸が張りたい、ヘタレの父親の心情にはホロッとさせられます。監督はあのジャッキー・チェン作品で観客を泣かせるという離れ業を成した、「香港国際警察」のベニー・チャン。この監督さん、好きだわー!
ロボットの設計士であるグレイス(ハービー・スー)は、六歳の娘を育てる母親です。夫は亡くなっており、今朝も娘を学校に送って会社に向かうはずでした。しかし何者かの手によって誘拐・拉致されます。理由がわからないまま混乱するグレイスでしたが、壊された電話から接続に成功。かかったのは気弱な経理係アボン(ルイス・クー)の携帯でした。最初はグレイスの訴えを悪い冗談だと思うアボンでしたが、銃声が聞こえ、彼女の話は真実だとわかります。一度は警察官(ニック・チョン)に携帯を手渡すのですが、信じてもらえず、結局アボンがグレイスの救出に向かいます。
ハリウッド作品の「セルラー」の香港リメイクです。実は公開当時も映画好きの間では大評判でしたが、私は意図的にパス。「セルラー」の原案はラリー・コーエンなのですが、コーエンがその前に脚本を書いた「フォーンブース」も当時評判だったのですが、私は外してしまいました。いまいち私には面白みが感じられず、「セルラー」についても、そんな予感がしたからです。
この作品も出だしこそまずまずでしたが、グレイスは結構なお金持ち的設定なので、その辺りで誘拐されたかと思っていたら、理由は実弟にあり。それなら何故金持ちの設定に?グレイス及びその娘の命を託されたアボンにしても、あんた、二人助けるために、どんだけの人巻き込んでるねんとまずツッコミ。
しかしその巻き込むカーチェイスは、とんでもなく面白かったです。追いつ追われつ、川を渡り信号無視し、路面を逆走。クラッシュ盛りだくさん。この辺は火薬バンバンのハリウッドとは違う、技で見せるカ―アクションで見応え充分です。そして段々車のパーツが剥がれ、アボンの車が丸裸になった頃、これはアボンが巻き込んでいるんじゃなくて、グレイスの誘拐事件に巻き込まれた、アボンの「ダイハード」なんだと私が視点を変えると、後は全然ノープロブレムに。「ダイハード」なんだから、ツッコミなんて無粋なことしちゃ、イケマセン。
アボンが息子との約束を反故にしてしまうかも知れないのに、見知らぬグレイスの救出に向かったのは、彼女が「夫は亡くなりました」と言ったからでしょう。アボンの妻はヘタレの夫を見限り離婚。彼もシングルファーザーなのです。ブルース・ウィリスじゃないんですから、救出劇は全然カッコ良くありません。間抜けだったり、トンチンカンだったり、そうかと思うと絶妙のタイミングでいい仕事をするアボン。その必死さ全てが、彼の精一杯の勇気と善良さを見事に表わしています。
今まで有言実行したことがなかったアボン。グレイスとの約束は必ず守ると決めたのです。そして息子との約束も守るために、取引の場に空港を選んだアボンに胸が熱くなる私。今までなら、きっと両方あきらめていた人だったと思います。そんな彼が、両方の約束を守ろうとしてるのです。このお話は不甲斐ない父親の、成長物語でもあるわけです。この手の男の自我は、どこで芽を吹くからわからないから、面白いなぁ。
空港での追跡劇も、これまた見応え充分。お腹いっぱいになる手前で、ちょっといいお話も挿入してからの展開には、正直びっくり。これでお腹パンパンになるくらい満足しました。このひと捻りがあるのとないのでは、鑑賞後の満足感は3割くらい違ったと思います。
グレイスを追い求めるアボンには、香港式のユーモアが要所に挿入され、緊張感を和らげ彼のキャラを際立たせたのに対し、グレイスの方は一貫して恐怖と絶望を描いたのも、絶妙な対比でした。あの様子を見せられれば、どうして見知らぬ人の為に命懸けに?という疑問は、出てこないと思います。
役者は総じて皆好演でした。敵役のリウ・イエ以外、馴染みのある顔はいませんでしたが、全く問題なく面白く観られます。閑職に追いやられている警察官役ニック・チョンの使い方も上手く、きちんと作品にコクを与えています。あの場面で拳銃が出てきたときは、とってもにんまりしました。
「香港国際警察」でチャーリー・ヤン演じるジャッキーの恋人が、あの場面での「私のこと、愛してる?」で感涙を搾られた皆さま、それに匹敵するシーンもございます。例え息子との約束を破っても、人の命とどちらかが大切かと問われたら、それは見知らぬ人であっても命でしょう。父親に他人と自分とどちらが大事かと問い詰めて、約束を破ったと怒る息子に育ったならば、その子育ては私は失敗だと思います。そういう気持ちでずっとアボンを応援しながら観ていた私には、ラストシーンが一番の嬉しいドンデン返しでした。
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