ケイケイの映画日記
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2009年03月01日(日) 「少年メリケンサック」

やっと観ました。面白くてびっくり!だってもっと微妙な感想かと思ってたんだもん。「オトナコドモな男」の悪ふざけ満載の演出ですが、私は「本当に男ってバカだわ・・・」と、愛でながら観てしまいました。でもバカだけじゃないぜ!監督脚本のクドカンは、諸先輩方に彼なりの敬意を表して演出していて、私はグッときました。中身もちゃんとありますよ。

メイプルレコードの契約社員のカンナ(宮崎あおい)は、二年間働いても結果を出せずクビ寸前。最後にと社長(ユースケ・サンタマリア)に提案したのが、ネットで大評判のパンクバンド「少年メリケンサック」。気に入った社長から契約して来いと言われたカンナは、張り切ってベースのアキオの所在を見つけ出したのですが、そこにいたのは50歳のおっさんになった、アル中気味で身を持ち崩したアキオ(佐藤浩市)。何とネットでアップされた動画は、25年前のものだったのです。どうするカンナ?

パンクロックが注目を浴び始めたのは、確か私が中高校生の頃で、セックスピストルズやラモーンズ、トーキングヘッズなど、私も耳にはしていました。その頃は「普通のヘヴィメタ」やハードロックを中心に聞いていたもんで、アナーキーな若者の社会への怒りを、大人は眉を顰める風体(←ここ重要だ)で表現するロック、てな感じで受け止めていました。だからパンクの精神なんて、カンナ同様あんまりわかっちゃいないのです。クドカンは私より更に年下の1970年生まれ。だから体感していたわけじゃない。でも彼なりに勉強して下地を作り、日本の音楽シーンを懐古しながら、きちんと作ってあります。

アキオが引き抜かれたアイドルポップグループにモデルがあるの、わかりました?あれは「ドラゴン・ボール」の主題歌(ちゃ〜ら、へっちゃら〜♪の方)を歌う、今やアニソンの大御所・影山ヒロノブがいたバンド、「レイジー」がモデルです。扮装であれ?と気づき、洋もののニックネームがつき(影山氏はミッシェル。アニソン好きの二男と彼の話をする時は、我が家は今でも『ミッシェル』だい)、極めつけはヒット曲。「赤頭巾ちゃん、なんとかかんとか」みたいなタイトルでしたが、レイジーの代表的なヒット曲は「赤頭巾ちゃんご用心」でした。でも彼らには消してしまいたい曲だったというのは、解散後知りました。簡単にレイジーを紹介しますとですね・・・

レイジーのメンバーもスカウトされた時はヘヴィメタでデビュー出来ると思いこんでの上京だったのに、蓋を開ければ恥ずかしいアイドル路線。アキオと同じように、ヘヴィメタルをやりたくて発展的に解散。その後ギタリストの高崎晃とドラムの樋口宗孝(故人)は、多分日本人のヘヴィメタでは世界で一番成功した、「ラウドネス」を結成。キーボードの井上氏は現在音楽プロデューサーで、音楽関連の会社ランティスの社長です。だからユースケの役は、彼がモデルかも。ちょっと渋谷陽一も匂ったけどね。

アキオ・ハルオ(木村祐一)兄弟の父役に犬塚弘を配してるのも、ちゃんと彼が、クレイジー・キャッツでベーシストだったと知っているからだと思います。寝たきりの役だったけど、あの中指立てての強烈なシーンは、年齢からすると(80歳前後)とってもブラックだけど、クドカン流のリスペクトじゃないかなぁ。その後のアキオを引き出したのは、父ちゃんの姿だったと思います。

兄弟の確執も、私には納得出来る作りでした。兄を尊敬していた弟の方が先に人気が出て、嫉妬する兄。上下関係がきちんとしていた兄弟だったのに、音楽業界の魔物に取りつかれ、大事なものを見失います。そして人として絶対してはいけないことを、弟にしてしまった兄。でも兄に愛憎混濁の思いを抱きながら、まっとうに生活する弟と、朽ち果ててしまった兄の対象的な姿を描く事で、兄の深い悔恨を表現していたと思います。

他にも胡散臭くも存在感大のピエール瀧(チャーミング!)扮する音楽プロデューサーの、バンドの人気作りの裏側のノウハウなど、これは実際にもあるんだと思いました。その他の出演者も、田口トモロヲ、ユースケ・サンタマリアも、今では俳優の印象が強いですが、元はバンド出身者だというのをわかっての起用だと思います。

しかし!それをですね、いいセリフだなぁ、いいシーンだなぁと思うと、確信犯的に外して、絶対感動させないわけです。この間の取り方が、私にはクドカンの「照れ」に感じられて微笑ましかったです。わかる人だけわかればいいという、上から目線じゃなくて、気付かれたこっ恥ずかしいので、スルーして下さいみたいな。あぁ可愛いわ。なので汚物や下ネタまみれの連続シーン、田口トモロヲの涙(必見!)、失意のカンナをの傷口を更に拡大するような囃し立て方をするおっさん達のバカバカしい様子に大笑いしつつも、本当は大人に成りきれないのではなく、大人になってしまったのを自覚している中年男たちの、寂しさや哀愁も、同時に感じてしまいました。

宮崎あおいが絶品。今年早々の作品ですが、是非今年の主演女優賞に覚えておきたいです。オーバーアクトも全然暑苦しくなく、絶妙のコメディエンヌぶりです。ガーリーなファッションもとっても可愛いんですよ。辛いことしんどいこと、悩むこと、みっともないことから逃げまくっている、可愛いけど幼稚な彼女。今時の若い子だと感じさせます。仕事だけではなく彼氏との事も。しかし全然立派ではないおっさん達の世話をして「育てて」行く事で触発されるのです。彼女自身も逃げていた事柄に、否応なしに立ち向かわされ責任を負わされ、世の中の厳しさも責任と言う言葉の意味も知ります。一皮も二皮もむけて成長していくカンナの姿は、ダメ親父を矯正していく娘のようです。

私が好きだったセリフは、アキオの「若い時は大人にみっともねぇって言われて、今はガキどもにみっともねぇって言われてんだから、ずっとみっともなくていいじゃねぇか」というセリフ。社長に喰ってかかるシーンや、カンナの彼を評しての核心をついたセリフなど、やはり50男ならではの鋭い含蓄があります。しかし洞察力があっても、それが自分の人生に反映されているとは言い難いわけ。この辺は自分にも思い当たるので、ぐっときました。哀しいかな、そうなのよ。わかっちゃいるけど、ダメなんだなぁ。そしてずっとみっともなくていいと言い切れるのが、男の強さだと思う。こう言う時私は「腐っても男は男」だなぁと感じます。

ドラムのヤング(三宅弘城)が、「頑張ってやろうよ!今しかないんだから。来年は死んでるかもしれないだよ!」というセリフは、レイジーのメンバーが、50前後で既に二人亡くなっているのを知っているので、しんみりしました。が、そこで田口トモロヲのセックス・ピストルズ再結成の件で脱力&爆笑。一瞬えっ、シド・ビシャス死んでるじゃんと思いましたが、オリジナルメンバーでってことなんだって。「結局金だね」という結論で、また爆笑。そうそう、中年てお金要るんですよ。中年と若者の間に位置する年齢のクドカン、両方に理解を示して、彼なりの「悪ふざけ」でエールを送っている作品でした。


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