ケイケイの映画日記
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中年向けハーレクィーンロマンス的趣の作品。その年代の人用のスウィートさ満載で、出来としてはボチボチでんなという感じですが、それでも私がプラスαを感じる事が出来たのは、自分の年齢とキャスティングのお陰だと思います。
夫の浮気に悩み別居中の主婦エイドリアン(ダイアン・レイン)。反抗期の娘に手を焼き、喘息の息子の体調を気にかける毎日ですが、心から子供たちを愛しています。子供たちが夫の元に出かけた時、親友のジャン(ヴィオラ・デイビス)から、海辺の小さなホテルの留守番を頼まれます。シーズンオフのリゾート地の泊り客は、医師のポール(リチャード・ギア)だけ。しかし彼も家庭と仕事に問題を抱えていました。二人だけで過ごす五日間、お互いに心を打ち明け合う間になっていきます。
と、設定はどうしようもなくあり得ない訳なんですが、、そこをカバーする小技はあるわけで。冒頭普通にガミガミ子供たちに接するエイドリアンを映し、夫との不仲の原因、復縁したい夫の気持ちもさらっと紹介するので、こういう風に家族と切り離されて、自分独りになれる空間があるって、考えるのには都合がいいよなと、自然体で受け入れる事が出来ます。
二人は急接近するわけではなく、フランクでありながら節度も保つ姿が好ましいです。お互い大人で子供や家庭があるわけですが(ポールは離婚している)、それが良い意味で心を許す材料になっているのは、よく理解できます。それと男性は家庭や子供に悩みがあっても、男同士では話が出来ないのではないかと思います。行きずりとまではいかない、でももう会うことはないだろう中年女性、それも落ち着きと賢さを感じさせる人にならば、自分の心を解放させることが出来るんでしょうね。この辺は全く無理はありませんでした。
それになんたってギア様とダイアンですもの!見た目で好感を持たない方が、おかしいってもんです。この辺キャスティングにものすごく納得感あり。ダイアンはジョシュ・ブローリンと結婚後、すごい勢いで盛り返しており、年齢より深い皺も隠さない姿は、ナチュラルな美しさに溢れています。内面の充実さが表に出ているのでしょう。女の皺も人生の味わいと感じさせる、稀有な女優だと私は思っています。そしてギア様。還暦前でね、女とああだこうだと悩んだり喜んだり、そんな人は彼しかいません。ジェレミー・アイアンズもこういうの似合うんですが、あくまでエキセントリックで、一緒に地獄に落ちそうなのが得意でしょ?その点ギアは、甘くてハッピーなムードを漂わせているので、この歳になってまで、色恋で深く考えたくない中年女には、とっても向いていると思います。
ポールが滞在中、上手い事嵐が来て、予想通りの展開に。この辺もご都合主義なんですが、私は至って素直に映画は観る方なので、この辺は既に画面にほろ酔い加減になっておりました。別に気にしない気にしない。
前半のリアルとファンタジーない交ぜの匙加減の上手さから、残り1/3は中年女性の夢の実現に向けて、お話は猪突猛進していくので、この辺りからはちょっと夢も覚め加減になる私。ほろ苦い部分も含めて、女性に良いとこ取りで言い訳が過ぎるのは、ちょっと疑問が残ります。別居中というのにエイドリアンは働いていないのはおかしいですし。夫の造形も上滑りで、もっと丁寧に夫を描けば作品の味わいはぐっと上がったと思います。あれでは結局男が出来た、それだけの理由に思え、前半のエイドリアンの思慮深い賢さが半減されます。
ラストもなぁ。ああいう風に悲劇的なラストはいいのですが、あれでは安物のメロドロマです。中年ならではのほろ苦さと哀歓を感じさせる成り行きならば、ハーレクィーンロマンスから脱したと思います。
それでも「良い母親であることだけが、私のプライドだったのに」というエイドリアンのセリフや、ポールの患者の夫に扮するスコット・グレンの、妻への切々たる思い、その43年連れ添った妻が夫に向けた、「あなたのために綺麗になりたい」という言葉は、私のような中年女性には、とても心に染みる言葉でした。こういう細部が心に残るので、美中年を使っての夢物語じゃん!と、切り捨てることが出来ないのです。
「良い母親だけが私のプライド」、ずしーんと来ますよ。子育てと家庭を守るため、あれもあきらめ、これもあきらめ、夫は家庭を「ほどほどに」振り返るだけ。子供だけはちゃんと育てねば!と、私も思ってたなぁ。でも子供はいつまでも子供にあらず、母親の手から離れていくのは、本来は「良い母親だけが私のプライド」だった私たち中年女性には、喜ばしいことなのですね。幸か不幸か、歳とってしょぼくれ気味になった多くの夫は、妻の元に帰りたがります。幸い私の夫は真面目な良い人です。これからは「良き妻であることが私のプライド」を目指し、頑張ってみるか。くれぐれも「だけ」にはならないようにね。
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