ケイケイの映画日記
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2008年07月16日(水) 「純喫茶磯辺」




昨日観てきました。このクソ暑いのに、仕事を終え夕食の買い物を済ませ、ダッシュで映画館に向かう自分は、本当にバカなんじゃなかろうか?と思いつつ、電車に乗ってテアトル梅田へ。早く座席に座りたいぜ、とケットカウンターで「純喫茶磯辺」と言ったところ、「立ち見ですが、よろしいでしょうか?」・・・? えっ???マジですか?この作品、そんなにヒットしてるんですか?いくら座席が60程のスクリーンだって、平日ですよ、「純喫茶磯辺」ですよ。やっぱポイント倍押しの火曜日に観ようとした、スケベ根性があかんかったのかしらん?昨日は正直めっちゃしんどかったんですが(←なら映画やめとけ)、このまますごすご電車賃往復540円を無駄にする「勇気」がなく、そのまま「立ち見NO・8」のチケットを受け取り、二時間通路に座って観ました。観る前は何でこの程度の作品で、とほほ・・・、とかなり意気消沈しとりましたが、観た後は、地べたに座ってでも観て良かった!と、意気軒昂となったのでした。監督は吉田恵輔。

磯辺裕次郎(宮迫博之)は八年前妻(濱田マリ)と離婚し、今は一人娘の咲子(仲里依紗)と二人暮らしです。疎遠だった父が急に亡くなり、手元に遺産が入った裕次郎は、ガテン系の仕事を辞めてしまい、自堕落な生活を送っています。咲子に責められた裕次郎は、思いつきで喫茶店を始めますが、それが超ダサダサの店。しかしアルバイトの素子(麻生久美子)にメイド服を着せてからは、店は繁盛。珍妙な常連客も増えていきますが、どうも裕次郎は素子に気があるようで・・・。

と、前半は予告編で描かれた、ユルユルの笑いがいっぱい。何度声を出して笑ったことか。ユルイのですが、とにかくリアル。悪趣味な内装に年齢の出る裕次郎のダメ親父っぷりがとにかく最高!演じる宮迫は、お笑い芸人の中でも比較的アクが少ないタイプ。なので裕次郎から匂い立つ加齢臭も、悪臭ではなく、さりとて爽やかなグリーンノート系なわきゃなく、絶妙な親父臭が立ち上り、絶品なのです。

このダメ親父に本当は献身的に尽くしているのに、全然そうは見えない仲里依紗も特筆ものです。とってもハツラツとしているんですが、哀しさや寂しさを表現する時、愛らしい憂いも醸し出し、ちょっとヨーロッパの少女のようでもあります。「はぁ?」「何考えてんの?バッカじゃないの?」「もう死んでよ」と、父親に対して出るセリフは、ほぼこればっかりですが、咲子を観ていると、娘というより妻のように見えるのです。いや怪しい近親相姦じゃなくてですね、ダメ夫を叱咤激励しながら尽くす、母性愛いっぱいの妻という感じなのです。学業と家事を両立させ、お店も手伝う孝行娘は、一見イマドキの子ですが、なかなかお目にかかれぬ孝行娘です。

店の常連客となる安田(和田聡宏)に憧れるのも、すごーくわかる。私と男の趣味が似ているのだわ。父親に悪態つく時とは信じられない大変身で、目なんかパチクリさせちゃって、可愛いんだなぁ。あんなダサダサの喫茶店で小説を書く自称物書きなんてね、大人から見れば怪しさいっぱいなんですが、咲子の父親はアレだもの、咲子が安田が放つインテリの香りに酔うの仕方ないよね。その香りが嘘か誠か?なんて、高校生にわかるはずもなく、父親の言うことなんて耳も貸しません。

咲子にとっての裕次郎の存在の大きさは、素子の出現によってより色濃く描かれます。父と娘との間の割って入った、無自覚で素直な悪女・素子。素子に夢中になる父に、咲子が寂しさを募らせるのも当然です。咲子や元彼に、「人の気持ちがちっともわかってない!」と、罵られますが、私はそうは思いません。むしろ相手の気持ちを推測するから、誰にでも気のありそうなそぶりを見せてしまうのじゃないでしょうか?それはどんな相手にも嫌われたくないという思いでは?自分への自信のなさに感じました。相手を思う思いやりと、自分を守りたいための思いやりは、当然違うもの。元彼や咲子は、それを言っているんだと思います。

それはどこから来るかというと、自分の居場所があるかないか、ではないでしょうか?咲子には父という居場所があるのに対し、素子には無条件で自分を受け入れてくれる場所がないのではないかと感じました。それがNOと言える咲子、言えない素子の違いです。その心細さが、来るもの拒まずの自尊心のない素子を作ったんだと感じました。麻生久美子は意外なほどメイド服が似合って、とっても可愛いかったです。清楚な雰囲気のいつもとは違う役柄ですが、地に品があるのが功を奏して、バカっぽい素子の苦悩を、しんみりとこちらに伝えてくれました。

そういえば、裕次郎は咲子を路頭に迷わすようなことはありませんでした。父親はこれが一番大事だと私は思います。咲子の母の話では、離婚の際も、裕次郎はどうしても咲子を手放そうとはしなかったとか。素子と結婚を夢見ても、咲子の存在は忘れない裕次郎。さっさと再婚してしまう母。グータラして娘に甘えてばかりの裕次郎ですが、そこかしこに、咲子への愛情がいっぱいだと思います。このことを、きちんと娘に伝えられる元妻も、素晴らしいと思いました。

ラストは前半からは信じられない寂寥感と哀愁が漂い、とっても気に入りました。ユルユルのコメディ仕立てで、ダメ親父としっかり者の娘の愛情物語を描きながら、人生なんて欠落したものがいっぱいあってもいいんだよ、と優しく背中をさすられた気分になった、鑑賞後でした。


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