ケイケイの映画日記
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2008年06月21日(土) |
「JUNO/ジュノ」 |
6月は「接吻」を皮切りに、超のつくお気に入り作品が続出。このまま今月行くのかと思っていましたが、何と鉄板で大丈夫と予想していたこの作品で、今月初めてバッテンつけたい気分になりました。作品の完成度やキャラクターの掘り下げ方には問題なく、とても出来の良い作品だと思います。私が非常に違和感を感じるのは、描かれる世界観です。これはアメリカのお話、日本とは事情が違うとわかっていても、この作品を面白いと言えるほど、私は進歩的な親ではありません。監督はジェイソン・ライトマン、脚本は元ストリッパーだったことも話題のディアブロ・コディ。今年のオスカーの脚本賞を受賞しています。
16歳のちょっと個性的な女子高生のジュノ(エレン・ペイジ)。BFのポーリー(マイケル・セラ)と好奇心で一度だけセックスするも、妊娠します。父(J・K・シモンズ)、継母(アリソン・ジャネイ)にはなかなか言い出せず、親友のリア(オリヴィア・サールビー)に相談。一度は中絶しようとするのですが、結局両親にも打ち明け、出産後は子供のいないヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)とマーク(ジェイソン・ベイトマン)夫妻に里子に出す契約をします。
アメリカの今の等身大の風景を観られるのが楽しいです。ティーンの部屋や、いかにもアメリカらしい食べ物や飲み物、学校生活、子供の意志を尊重する親子関係が、生き生きテンポよく観られます、。アメリカは片親でも条件を満たせば子供を養育でき、その辺は条件がかなり厳しい日本とは、だいぶ事情が違うのは、昔から知っていましたが、里子の募集がタウン誌に載るとはびっくりしました。
とにかくキャラがみんないいです。ジュノは音楽は70年代、映画はB級ホラーの大ファン。頭でっかちで達観したような、小生意気な言葉をいっぱい吐きます。しかし妊娠中の揺れる心は、とてもハイティーンらしい幼さと繊細な感受性を感じさせ、自分で自分がわからない年頃の危うさと脆さ、そして愛らしさを感じさせます。演じるペイジがこれまた抜群。早口でまくしたてるその奥の不安を、本当に上手に表現していて、ジュノ=ペイジに観えました。
継母との仲は良好みたいで、母と子というより、女同志として上手く付き合っているという感じで、これもアメリカ的風景の美点だと思いました。ジュノとはケンカもするけど、娘の尊厳を踏みにじる相手には、きっぱり言い返す継母さんは、とってもイイ感じです。親友のリアも美人に似合わず毒舌家で、外見はかなりジュノと違いますが、仲が良いのは合点がいき、この辺の友情の見せ方もネチネチしていなくて、とっても良かったです。
女性陣で一番印象に残ったのはヴァネッサ。容姿端麗でハイクラスの今の暮らしは、きちんと仕事のキャリアを築いて、自ら手にしたものなのでしょう。夫の稼ぎでセレブ妻になったのではないところも好感度大。きっと今までは努力で何事も克服できたのでしょう。なのに赤ちゃんだけは、どうすることもできなかったのですね。養子という選択は、私はとても建設的なことだと感じ、彼女の性格も表せています。血の繋がらない子供の母となることで、神経過敏と思えるほど入れ込むヴァネッサを、ガーナーが共感を呼ぶ演技で見せてくれます。正直彼女がこんなに上手く演じるとは、びっくりでした。
男性陣もこれまたいいです。父親らしい包容力でジュノを包む(ちょっと疑問はありますが、それはのちほど)父。突然の妊娠を告げられて、呆然以前の、訳のわからないポーリーの様子も、この年代の男子なら当たり前の様子です。愛しているという感覚もなく、「ちょっと好き」な相手に誘われて初めてセックス、それで妊娠してしまっては、「男の責任」を持ち出すのは酷というもの。せり出すジュノのお腹を見つめつつ、ポーリーなりの精一杯の誠意と愛情を彼女に示す様子は、とても好感が持てました。
そして情けなくもリアリティがあったのが、マークです。女性はつわりなどの体調変化、せり出すお腹、お腹をけっ飛ばす赤ちゃんの様子で、段々と母親になる準備ができるものです(なのでそれがないヴァネッサが、自分が母親になれるだろうか?と、異常に神経質になるのも、良く理解出来るのです)。しかし父親は、妊娠中はおろか、生まれたって正直それほど「俺の子!」という思いが湧かない人は、多いんじゃないでしょうか?ましてや里子をもらって父親の責任を果たすなんて、自分には荷が重すぎると、逃げ腰になるのもわかる気がします。良い悪いではなく、属性の違いでしょうか? 辛辣に言うと幼稚性なのでしょうが、ベイトマンのオタッキーな様子が愛嬌があるので、素直に受け取ることが出来ました。
で、これだけ楽しく観ているのに、何故私がバッテンつけたい気になったのかと言うと・・・・
以下ネタバレ
ジュノは一貫して、自分で子供を育てる気にはならないのです。この辺は、最初は中絶希望→やっぱり産みたい→両親に告白→ジュノ、養子に出したい→両親承諾。養子縁組の相手との契約の席は、父親も同席。
と言う流れで、全然迷いが生じないのが、私には疑問がいっぱい。私が短大の時の英会話の先生は、カナダ人でした。二人実子がいましたが、「我が家にはもう一人子供を育てる余裕があり、欲しかったのだが出来なかった。なので養子をもらった」というお話をして下さった記憶があります。養育出来ない家庭を知らない子を、養育できる環境が整っている家庭が引き受けるのは、当たり前のことだ、とも仰って、若い私はその心根に痛く感激した記憶があります(ちなみに養子は日本人)。
なので欧米では、養子に出すということは、ありふれたことだという認識がありました。ただし、「養育出来ない家庭」です。ジュノ自身は高校生ですが、家庭は平均的な家のようで、両親とも仕事を持っており、さほど生活が苦しそうではありません。養子をもらうのもありふれたことなら、尚更自分たちが援助して、娘の子供を育てようとは、何故この両親も思わなかったのが不思議です。幸い日本なら退学モノでしょうが、ジュノは大きなお腹を抱えて通学もしています。妊娠出産は周知の事実のはずで、隠し事ではないはずです。
ポーリーの両親に知らせないのも謎。確かに男の責任の取れる年齢ではありませんが、妊娠の半分の責任は、当然彼にあります。まだ責任の取れない年齢なら、保護者に伝えてしかるべきです。ジュノはポーリーの母親を嫌っていますが、そこは常識と現実を教えるのが親のはず。娘の気持ちを尊重してなら、親も幼稚です。ポーリーの親が知ったら、自分たちが育てたいというかも知れないでしょ?言える権利は、彼らにもあるはずです。だって子供はポーリーの子供なのですから。ポーリーがジュノに、「僕の気持ちを踏みにじった」と言いますが、それはジュノが心にもないこと彼に告げたためですが、それ以外も一見全部自分だけでしょいこんでいる風ですが、私にはジュノは、かなり勝手な子だと言う風に観えました。
なので出産後のジュノの涙も、私にはただの感傷に見えてしまい、自分のしたことの意味が、本当にわかっているのか?と疑問に感じました。そしてラストのあまりの軽さにも絶句。二人は本格的に付き合うのはいいのですが、それならヴァネッサに渡した赤ちゃんは?それこそ一生忘れられるものではないでしょう。そのことには全く触れていません。
何も家族崩壊するほど大ゲンカし、子供恋しさに泣き叫べとは言いません。仮に親に説得されて養子に出したとしても、ジュノが自分で子供を育てたいと思う場面があったなら、私のこの作品の評価は、正反対になっていたと思います。確かに出来は良いのですが、私はこの作品を好きになれません。 ジュノが生んだ子を始めて抱くヴァネッサが、「私はどう観える?」と、ジュノの継母に聞くと、彼女は微笑んで「新米ママに観えるわ」と答えます。このデリケートな子供への思いの描写が、ジュノにも欲しかったです。
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