ケイケイの映画日記
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2008年05月29日(木) |
「Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼」 |
こういうタイトルが目に入ると、絶対観なくちゃと、ムラムラしてしまう己が哀しい(胡散臭そうなサスペンスが大好き)。落ち目のケビン・コスナー主演、共演はこれまた落ち目になって久しいデミ・ムーアという、哀愁漂うキャスティングもグッド。配給体制から考えたら、私の苦手なテンロクの某劇場で上映のはずなんですが、梅田ブルグというシネコンで上映ということで、速効レディースデーの昨日観てきました。
この梅田ブルグ、実は大阪市内で唯一私が足を運んだことのない劇場でね。メジャー作品が上映のほとんどなので、別に来る理由がなかったんです。でも時々ここしか上映のしない作品もあるんですが、稀代の方向音痴のわたくし、知らん劇場まで行くのが、億劫だったんですね。今回行きは「なんか違う・・・」と思いつつ、久し振りに「歩く歩道」なんか歩いちゃってさ、辿りつくのに15分かかりました。帰りは駅まで5分でしたが。そんな私のブルグデビュー作は、上々の手応えでした。
アール・ブルックス(ケヴィン・コスナー)は実業家として成功し、美しい妻エマ(マージ・ヘルゲンバーガー)や、一人娘のジェーン(ダニエル・バナベイカー)も得て、平和で幸せな家庭も築いていました。しかし彼には連続殺人鬼という影の顔があったのです。いつもは完璧に証拠を残さない彼ですが、二年ぶりの殺人の今回、カーテンが開けられていたのを見逃していました。危惧した通り、ブルックスが犯人だという証拠の写真を持った、スミス(ディーン・クック)という青年が、ブルックスの前に現れます。そしてブルックスの一連に事件を精力的に捜査する女性刑事トレーシー(デミ・ムーア)も、ひたひたとブルックスに近づいていました。
追い詰められるブルックス、というだけではなく、たくさんのプロットが詰め込まれています。出来の悪い娘に手こずるホームドラマ的な部分には、血の呪わしさという部分を前面に出して、少し風変りな味付けが面白い。仕事では辣腕ながら、私生活はまるでついていないトレーシーの日常を、上手く筋に絡ませて、デミの見せ場もふんだんに取り入れています。少々強引な切りまわし方の箇所もありますが、ほぼきれいに整理され、観ながら迷う事はありません。
殺人に手を染めることの強烈な罪悪感、それに反する悪魔的な背徳の喜び、この二つの葛藤をシニカルにブラックに見せるのが、ウィリアム・ハート扮するマーシャルの存在です。影のようにブルックスに添うマーシャルが何者なのかは、段々とわかってくる仕掛けです。ブルックスにとってマーシャルは、逃避場所のような存在なのです。
この二人のオジサンのツーショット場面が実に楽しいです。花の盛は過ぎたものの、多少なりとも清々しかった若い頃とは程遠い今の油濃さは、まだまだハリウッドで主演を張れる元気の素かもなぁと、感じました。しかし無駄にギラついているだけではありません。コスナーは凡庸で人柄の良い表の顔と、完璧な殺人を繰り返す冷血なクレバーさを持つ裏の顔とを、実に巧みに使い分け、好演です。特に獲物を射止める時のような目で引き金を引く時は、ゾクッとするほど魅力的。殺人鬼はセクシーで魅惑的でなきゃね。
私的に久々に観るデミもとっても良かったです。仕事は出来るけど仲間からは浮いていて、その上ダメンズの年下夫からは、法外な理由で法外な慰謝料を取られそうになるなど、踏んだり蹴ったりの役ですが、強気一辺倒の可愛げのなさには、同性として共感出来るのです。妥協すること、甘える事に不器用な人なのだと思っていたら、その理由はラストで語られます。なるほどと、更に好感度アップ。自分に自信がないのに、誰にも弱みを見せられず、敬い褒めてくれそうな年下夫と再婚したのですね。それで更に墓穴をほっちゃったんだ。仕事場でのカッコ良さと対照的な、私生活のダメさ加減が人間臭く、近年では出色の女刑事ではなかったかと思います。
一つだけ気になったのは、やはり罪もない人を殺して、魅力的に見えちゃくことです。まぁレクター博士もそうなんですが、こちらはサイコ的味付けがあちらより薄い分、気になりました。しかしラストの見せ方は、ブルックスが選択したことは、捕まるよりも殺されるよりも、もっと苦しく恐ろしい毎日が持ち受けているのだと、ちゃんと罰を与えており、この辺もクリアでした。
落ち目と言えど一世を風靡した人は、やはりものが違うなと、つくづく感じました。場面場面のカメラの切り替わり方も上手く、ちょっと変わったサスペンス物として、面白く観られる作品です。すぐ終わっちゃったら、どうぞDVDでご鑑賞下さい。
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