ケイケイの映画日記
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2008年05月08日(木) |
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 |
う〜ん、困ったなぁ。とっても重厚で立派な作品です。それは絶対認めます。長尺の作品なので、観る前はひるんでいたのですが、それも筋運びの巧みさと格調高い演出で、杞憂に終わりました。でも好きな作品かと言われれば、超微妙。でも嫌いかと言われれば、それも違います。う〜ん、困ったなぁ。監督はポール・トーマス・アンダーソン。
20世紀初頭のアメリカ。ダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ・ルイス)は、息子HW(ディロン・フレイジャー)を伴い、油田を求めて土地の買収に渡り歩いています。油田の発掘に、自分の全てを注ぎ込むダニエル。その彼に、サンデー家の息子ポール(ポール・ダノ)が、自宅から油田が発掘できると、話を持ちかけてきます。
19世紀末期から約30年、油田の発掘に人生を賭けた、ダニエルの生涯が描かれます。油田の発掘風景は、とても重労働かつ危険と隣り合わせで、真っ黒になりながらの発掘作業を、丹念に演出しています。取り分け石油が噴出する様子は壮観で、この油に、男たちの夢と金が詰まっているのかと思うと、感慨深くもありました。ダイナマイトで爆発する場面、発掘作業中ガスが噴出して、大火事になる様子なども、ちょっとしたスペクタクル場面として楽しめます。
口先三寸で油の出そうな土地を買い漁るダニエル。まだ幼い息子を仕事の相棒と紹介し、「家族で仕事をしている」と、人々を安心させます。息子HWとは、ある秘密があります。私は赤ちゃん時代のHW役の子の、助演賞モノの好演でわかりましたが、少し謎めいたまま、そのまま素通りした方もあったでしょう。しかしこの赤ちゃんの表情やしぐさを引き出した監督は、とっても偉い!
同じように、腹違いの弟と称するヘンリーという男が現れるや、側近として重用するダニエル。一見すると、自分の仕事に血縁者を利用しているように見えますが、心の拠り所として息子や弟が必要だったのは、ダニエルの方だったと思います。「血縁者」という、おおまかな括りに捉われるダニエル。それは育った家庭環境から来るのでしょう。サンデー家の父親が、娘のメアリーを殴ると聞くと、それが許せない彼。彼の一連の行動は、血縁者・家族というものに対して、とても複雑な感情を持っていると感じます。
彼は誰も信用せず、劇中ただの一度も心を許した女性も現れません。裏切られることを恐れていたのでしょう。でも信頼されたいと思う心はあるのでしょう。劇中、ダニエルなりに愛を示したのは、この二人だけだったと思います。利用したと皆に思われているHWにしろ、それだけで男手一つで乳飲み子を育てられるものではありません。自分の生きるかすがいとして、HWが必要だったと思うのです。
これらの事から、一見豪放で野卑な男の見えるダニエルですが、独りでいる事の出来ない、小心者で孤独な男の姿が浮かび上がります。私が痛々しく感じたのは、そのことに彼自身が気づいていないという事です。際限ない欲望に目が眩むと、人とは自分の心の内も気づかぬものなのでしょう。
重要な登場人物として、サンデー家の長男で、ポールの双子の兄イーライ(ポール・ダノ二役)がいます。インチキ宗教の教祖にして、口先三寸で自分の野心のためなら、簡単に神をも裏切る男です。あくなき欲望に対しての一連の行動は、ダニエルととてもよく似ています。これが最後までお互い憎しみ合い利用しあった故なのでしょう。
失笑するようなイーライの様子を映して、一見カルト宗教に走る人々を嘲笑しているような演出です。しかし本当の目的は、お金のために簡単に神の前で、嘘をつき自分を偽る事の出来る二人を映し、彼らの行動の諸悪の根源は、神の存在を信じなかったからだ、と言っているように、私には感じるのです。
と、このように痛みも理解も出来るのですが、どうもイマイチ心に迫ることがないのは、誰も共感出来なかったからかも知れません。ルイスはいつもながらの完璧な演技で、オスカー二度目の受賞は、誰も文句ないと思います。彼の作品は「存在の耐えられない軽さ」が一番好きなのですが、本当はこの人、とっても美しい人ですよね?こういうエキセントリックな役柄もいいんですが、普通の二枚目の彼も観たいと思いました。
ポール・ダノはとっても健闘していたと思います。思いますが、ルイスとタメを張るイーライが彼では、少々荷が重かったかな。何度もこれが若い時のエドワード・ノートンなら、3割増しくらいで格が上がったろうと思いつつ観ていました。これも食い足りない理由かも?
以上とっても出来の良い作品だと理解出来るけれど、編愛する作品ではなかった、ということでしょうか?私は音楽はいつもボーと聞いているのですが、今回のスコアは身震いするほど感激しました。何と言うか、場面場面ではミスマッチのようなのですが、どの場面も暗い躍動感を感じさせ、ダニエルという男を、的確に浮かび上がらせていたと思います。
観る価値は充分の作品です。でも多分早くに終わっちゃうかなぁ。
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