ケイケイの映画日記
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2008年02月20日(水) 「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」




多分お友達各位には、素通りされる作品。でも私は本気ですごく楽しみにしていました。私の子供の頃は、アニメなら「魔法使いサリー」、アメリカのドラマなら「奥さまは魔女」「可愛い魔女ジニー」など、毎週楽しみにしていたものです。なので魔法というと、壮大なイリュージョンではなく、日常生活の延長に起こるシチュエーションが大好きなわけ。なので今回、その魔法使い役がダスティン・ホフマンだというので、本当にすんごく楽しみにしていました。が・・・微妙・・・。



画像は「可愛い魔女ジニー」のバーバラ・イーデン。私はね、ずっとジェシカ・アルバにこの衣装を着てもらって、映画化して欲しいと思っています。「殿」はユアン・マクレガーでお願い。





マゴリアムおじさん(ダスティン・ホフマン)の「不思議なおもちゃ屋」は、創業113年。今はかつて天才少女ピアニストだった店長のモリー(ナタリー・ポートマン)と、近所の9歳のエリック(ザック・ミルズ)に手伝ってもらっています。しかし243歳の誕生日を迎えたマゴリアムおじさんは、突如隠居を宣言。この店をモリーに譲ると言います。手始めにこのおもちゃ屋の値打ちは幾らか、会計士のヘンリー(ジェイソン・ベイトマン)に来てもらうことになりました。しかしおじさんが隠居することに不満な店やおもちゃたちは、反乱を起こします。

まずこのお話は、決して子供だけに向けたお話じゃありません。それなのに、私の観たラインシネマは吹き替え版のみ上映です。上映側の迷いは作品の視点の定まらなさと、散漫な演出からきたものかも。

モリーはかつて天才少女ピアニストとして、将来を期待されていたのに、23歳の今では、すっかり自信を失くしています。彼女はマゴリアムおじさんの魔法の力を信じていますが、それは日々彼の元で働く幸せが、憔悴した彼女の心を救ったであろうことは、想像に難くはありません。しかし肝心の魔法がなぁ。

おもちゃ屋の造形はカラフルでとても楽しく、店全体が不思議な魔法仕掛けになっているのは、とても楽しいです。特に私が気に入ったのは、ダイヤルを回すとおじさんの家の階段になったり、スーパーボールがピョンピョン跳ねる部屋になったりするところ。でもおじさんが宙づりになって眠るところや、魔法を使って何かをする場面がほとんどありません。シマ馬を家に飼っているのですが、別にそれだけのこと。空を飛ぶわけでもなく、サマンサのように鼻をピコピコ動かして、そこいらのモノを舞いあがらせるわけでもありません。ちょっと肩すかし。

普通は243歳の人なんているはずもなく、頭の堅いヘンリーのように、「ありえない」と反応するものでしょう。その普通の人のヘンリーに対して、夢がないユーモアがないと、毛嫌いするモリーにはちょっと閉口します。何故なら、どうしてモリーがおじさんと出会ったか、おじさんを信じ敬愛するようになった過程などが、全然描かれていないからです。

エリックもしかり。彼は友人がおらず、そのことで母親が頭を悩ますのは当然です。しかしちょっと変な子だとは感じても、周りの子供たちが彼を遠ざける理由の描き方が希薄。私には彼こそ周りの子供たちから、身を遠ざけたいように感じました。大人過ぎるのです。物の考え方が理路整然として、可愛くない。それがどこから来るのか描けていないので、膨大な帽子のコレクションが上手く機能していませんし、家にヘンリーを招き入れての打ち解け方は唐突で意味不明。お堅いヘンリーの、何があんなことをさせたのかを描かないと。

そしてラスト。暗黒になったおもちゃ屋が、再び芽吹く映像はものすごく楽しくて、やっと魔法のおもちゃ屋の面目躍如でした。しかしそこまでくるのに、落ち込んでばかりのモリーを描くので、謎が隠されている木のキューブ一つで説明してしまうのは、とっても乱暴です。だってモリーは最初からおじさんの魔法を信じていたんですから。なので「さぁ自分(モリー自身)を信じて」というヘンリーの言葉のあとの激変は、無理があります。ここもモリーの成長か、ヘンリーが魔法を信じたからか、どっちつかずの描き方です。

自分が周囲の期待を裏切ったと落ち込むことは、人生には何度か出てくる場面です。しかし裏切ったものではなく、別の所に自分が花開く場所があるというのも、またしかり。挫折を乗り越え、人生は一本道じゃないんだよと言いたいと、私は受け取りました。しかし!要するにアイデアやプロットは良いのですが、詰めが甘いのです。想像力を掻きたてる演出が単調で雑なので、心が動かされません。本当に惜しいなぁ。

しかし演じ手は愛らしいファンタジーらしく、皆素直な好演でした。特にホフマンとポートマンの「子弟」の姿は、演出以上にお互いに敬意と愛を持っているのが伺え、しみじみします。私がとても印象に残ったのは、おじさんが次々と違う帽子をかぶるエリックに、「いい帽子だ!」と、絶対笑顔で褒めること。それがエリックに対する最大の称賛だと知っているのですね。他にもガラス越しで字で会話する場面に、人付き合いの苦手な人の不器用さを、愛を込めて描いていたところが好きです。

いい場面も本当にあったんですよ。ちょっと辛い感想ですけど、監督のザック・ヘルムはこれが初監督。元は脚本家です。良い脚本を映像化する難しさを一番感じているのは、監督かも。次回に期待します。モリーになってね。


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