ケイケイの映画日記
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お盆休み中、唯一のレディースデーの昨日観てきました。まず先に・・・。ごめんなさい、ごめんなさい!「夕凪の街 桜の国」「河童のクゥと夏休み」「プロバンスからの贈りもの」などなど映画友達の皆さんがお勧めしてくださった作品、「時間を作って観ます」と言っておきながら、全部すっ飛ばしてしまいました!これは夏のせいなのねぇ。
↑に出てくる作品、みんな感動や、そこまで行かなくてもハートフルにはなっていると予想出来るでしょう?私の本業は主婦なもんで、この「ハートフル」という曖昧で優しげな感覚を家族に提供して、今日も明日もあさっても、疲れた家族の心と体を励ますのが、重要なミッションのひとつな訳ですよ。安もんの愛のビールかけみたいな日々もあれば、ドンペリ級の愛も注いだこともあるわけですよ、私としては。ドンペリ飲んだことないけど。
そして時は今、夏休み。この発狂しそうなクソ暑い日々の中、自分も仕事しているのに、チビの夏期講習だ、クラブ活動だの時間に合わせ、少しでも夏バテが防げるようなメニューを考え(朝晩だけでなく、弁当もだ!)、普段以上に膨大な洗濯物と格闘し、気ぃ利かせーの、体使いーの、家族サービスはマックス状態。その上今年は前倒しで旅行に行ったもんで、お盆休みはずっと家とくらぁ!おまけに夫と長男と二人で風呂場のペンキ塗りを二日かかってしてくれたのでね、有難かったけど「お母さん映画はしごするから、今日は外食ね〜」などど言えなくなったじゃねーかよ。
かように干からびた精神状態の今、「感動」や「前向き」な映画なんぞ観ちゃ、却って心が追い詰められるようなもんでしょ?えっ?普通はそれで「私も頑張らなくちゃ」と己が心を潤すってか?いや〜、前ばっかり向いて走っていると、人間てしんどいぞ。なので「後味が悪い」「秀作だけど二度と観たくない」と、とっても今の自分の心にマッチした(ホントか?)風評のこの作品にしました。「オーシャンズ13」みたいな作品でも良かったんですが、悪い意味で打ちのめされたかったんですよ。見応えがあったし、私は希望も残るラストだと感じ、観て良かったです。
性犯罪登録者の監察が仕事である公共安全局のエロル・バベッジ(リチャード・ギア)は、18年勤め上げた職場を、行き過ぎた仕事ぶりから、退職間近です。自分の後任のアリスン(クレア・デーンズ)を引き連れ、数日間彼女に仕事を教えることになります。折しも少女が誘拐され、エロルは登録者の中の誰かが犯人だと、目星をつけるのですが・・・。
エロル達の仕事というのは、警察ではなく観察です。警察ではないのがちょっと目新しい設定です。エロルの登録者への訪問や質問は、お前はまたやるだろう、そうにきまっている、そう決めつけてな強引な手法です。人権無視も甚だしくこれでは寝た子を起こすようなもんで、アリスンも不快感を露にします。しかし冒頭でのエロルの独白が強く印象に残った私には、何か意味があると感じます。
その独白とはこうです。「怪物と闘う時は自分も怪物にならないよう、気をつけねばならない。深淵を覗く時、その深淵もこちらを覗き返しているのだ」
登録者は小児愛、レイプ、バラバラ殺人、行き過ぎたSM行為での傷害致死など、性倒錯者ばかり。今は気軽にフェチと言う言葉が使われますが、総じて簡単にいうと「変態」です。しかし犯罪を犯すまでは行かなくても、やや変態気味だと自覚アリの人は多いと思うのです。かく言う私だって、暑気払いに猟奇殺人事件を扱った作品を選ぶは、血がしたたたるスプラっタもんも全然平気、むしろ積極的に観たいという人間で、変態指数は30%くらいあると思うのですね(本人推定)。でも私は多分犯罪は犯さないと思う。何故なら自覚があるから。
以前とある方の講演を聞く機会があり、その時「知って犯す罪と知らないで犯す罪は、どちらが重いか?」という内容に入りました。当時私は知らないで犯すのだから、その方が罪が軽いと思っていたのですね。しかし答えは反対。いわく「焼け火箸を持たなければならない時、それが熱いとわかって持つのと、知らないで持つのとでは、どちらが火傷が軽いだろうか?」というお答えでした。
性癖もそうだと思うのです。自意識に組み込まれているか、無自覚なのかで全然末路は違うのです。それを体現していたのは、他ならぬエロルを演じていた、ギアだと思うのです。永遠の二枚目ギアに、一見暴走するうらぶれた、分別のないエロルはミスキャストです。ここで冒頭のエロルの独白が生かされると感じました。エロルは自分の性癖に自覚がなかったのでしょう(多分サディスト)。登録者を取り締まり観察するうち、彼もその深みにはまっていったのではないでしょうか?それらしい俳優を使うより、ギアに演じてもらう方が、リアリティがあったように感じます。
寸でのところで理性を働かせた彼が選んだアリスンは、家庭に恵まれず自傷行為を繰り返していた過去があります。エロルが彼女を選んだポイントはここだと思いました。彼女は変態ではありませんが、人とは違う自分の暗闇を自覚しているはずです。その彼女ならば、自分のように破滅せず、この仕事を全うしてくれると、エロルは期待したのではないでしょうか?だから彼は洗いざらい自分の恥部を見せるような仕事ぶりを、彼女に見せたのかと感じました。これは全て、倒錯した嗜好を持つ人が犯罪を犯す犯さないの分岐点がどこにあるか、それを伝えたかったためかと、思いました。
誘拐犯は、被害者が助手席の人間と話していたとの証言で、ピンとくるものがありました。大昔日本で若い女性の誘拐が頻発し、犯人を捕まえてみれば、あっと驚くような人物で世間は驚愕しました。その事件を私は覚えていたからです。この作品での凄まじい主犯格の犯人の様子と、重なるかどうかはわかりませんが。
惜しむらくは、エロルはアビゲイルという少女が被害にあってから、彼の暴走は加速したと語られますが、何故そうなのかが語られません。被害者の家族と自分に類似した箇所があるとか、そういう説明があれば、エロルの一連の行動により説得力がついたかと思います。
ラストの犯人の様子は、「セブン」のケビン・スペイシーを彷彿させました。格調高かった「セブン」に比べ、全体に薄汚いムードが充満している作品でしたが、私なりに性犯罪を犯さないためには?という糸口を感じ、決して後味は悪くありませんでした。
選ばれしアリスンを演じるデーンズは、ブロンドに赤い口紅という、普通はゴージャスな女性の性を表わすアイテムを用いながら、知性が勝る印象です。これも今後のアリスンに期待を寄せる表れかと思いました。
監督はアンドリュー・ラウ。凡作に感じた「傷だらけの男たち」、大勘違い純愛ロマンス「デイジー」と、立て続けに観ましたが、ようやく初ハリウッド作品で面目躍如のようです。私も自分が平凡な「変態」で良かったと、思わず安堵しました。やっぱりこの作品にして良かった。めでたしめでたし。
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