ケイケイの映画日記
目次|過去|未来
2007年07月12日(木) |
「傷だらけの男たち」 |
センスのないタイトルだなと思いつつ、昨日観てきました。「インファナル・アフェア」の制作陣が集結(監督はアンドリュー・ラウ)、それに主演がトニー・レオンと言うことで、取りあえず押さえておこうと劇場へ。そんなに期待はしていなかったですが、それ以上に期待はずれ。映像的に面白い箇所や美しい場面はありますが、内容が二時間ドラマっぽい薄さでした。
刑事のポン(金城武)と上司のラウ(トニー・レオン)。ポンはラウを「ボス」と呼び慕っています。ある連続殺人事件を解決した夜、自宅に戻ったポンは、長年の恋人レイチェルが自殺している姿を見つけます。三年後、心の傷が癒えぬままボンは警察を退職。今は私立探偵をしながら、まだ何故レイチェルが自殺したのかに囚われています。そんな時プライべートでまだ親しい付き合いのあるラウが、富豪令嬢スクツァン(シュー・シンレイ)と結婚。祝福するポンでしたが、ほどなくしてスクツァンの父と執事が強盗によって殺害されます。犯人はすぐ逮捕されますが、真犯人は他にいると信じるスクツァンは、捜査をポンに依頼します。
今回ややネタバレです。というか、先に映画の方で犯人を見せちゃうのです。ラウが犯人なのですが、設定だけでまず怪しいと、観客にピンとさせるお安さを逆手に取ったのかと、観ながら思っていました。でもその安さがずっと続くのです。
まずは警察が処理済の事件なので、スクツァンがポンに頼むのは納得できます。しかし今は私立探偵という一般人がずけずけと、警察しか立ち入れないはずの場所に入ったり、証拠となるような資料を持ってこさせたり、構わないの?コメディリリーフ的なチャップマン・トー演じる刑事の存在自体は良いんですが、このネタくらいで昔の同僚に捜査のネタを明かすのはありえません。ポンに単純な捜査不足を指摘されたり、ちょっと警察をアホに描き過ぎです。ラウは部署を異動しているので、捜査には直接かかわれない設定にしている意味がない。
ラウの復讐の動機というのも、どこかで見た既視感のあるもの。それはそれでいいのですが、もっと憂いをもってラウを描かねばならないところを、本当に平凡に描いているので、ラウの壮絶なはずの痛みが伝わってきません。特に家庭を知らなかったラウが妻を得て安らぎを知り、復讐に妻を巻き込むことの罪悪感や自責の念、復讐と妻への愛に揺れ動く心をきちんと描けば、最初に犯人を見せた甲斐もありましょうが、これもラストにちょっと描くだけ。レオンの演技力に頼るのも限界があり、やはりもっと脚本がしっかりすべきではないかと感じました。
ポンがいつまでも女々しく自殺した恋人の影を追う姿は、金城武の甘い雰囲気に合っていて、良かったです。モノクロで何度も恋人の幻影を見たり、ポンが最初怪しいと睨んだラウが犯行に及ぶ様子が、彼の目を通じて描かれている場面は面白い手法だと感じ、作品に陰影をつけていたと思います。他には香港の夜景が美しかったです。
しかしこのレイチェルの死の真相なんですが、これも取ってつけたようなのですね。せっかく出だしでポンが恋人を愛しているのだが、長年の付き合いで合わない相手だとわかった、それで悩んでいるということをラウに相談しているのですから、それをもっと膨らませる真相の告げ方はなかったのでしょうか?レイチェルも悩んでいたのはわかりますが、あの落とし方では、「復讐は虚しい、赦すことが大切」の方が浮かびます。もちろんラウに向けての状況でしょうが、そんな当たり前のことより、長い春から破局に至った恋人たちの苦い心を掘り下げて描いた方が、観客の心に残ると思います。
トニー・レオンは今回は役に恵まれなかったせいか、生彩を感じませんでした。シンレイは私は初めて観ましたが、硬質ですが冷たくない雰囲気で良かったです。もう少し早くに夫を疑う様子を描けば、彼女ももっと演じ甲斐があったかも。スー・チーも新しいボンの恋人となる女性で出演しています。私は彼女が好きなんですが、あまり魅力はなかったような。だいたいスー・チーのような年齢で名の売れた人がやる役ではないです。新進の女優さんが良かったように思います。ついでですが、レイチェル役の人も、もうちっと別嬪さんが良かったような。ごめんね、失礼なこと書いて。
何でこのような失礼なことを書くかというと、今回私的には金城武の二枚目ぶりがあまりに良かったからです。トニー・レオンと並んだり、捜査している時より、この人は女性と並ぶと、本当に10倍くらい輝きが違うのですね。それが恋人であれ、スー・チーであれ、恋愛関係のないスクツァンであれそうなのです。酔いどれ演技はちょっと臭かったけど、今までの「大根ぶり」からみれば、全然OK。すこぶるつきの美男子で、清潔感もあって、ちゃんと生身の雄の魅力もあるんですから、向かうところ敵なしじゃございませんか。これで演技力もあったら厭味というものです。人間は何か欠けている方が、愛嬌があってよろしい。もう30半ばくらいにはなるだろうと思うのですが、この現実感のある星の王子様的スウィートさは、それだけで充分存在価値があろうかというもの。「ウィンターソング」は見逃したけど、金城武で「華麗なるギャツビー」みたいな作品が観たいなぁと、思った私でありました。
|