ケイケイの映画日記
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2007年05月24日(木) |
「恋愛睡眠のすすめ」 |
私が大好きな「エターナル・サンシャイン」を監督したミッシェル・ゴンドリーが、脚本も担当した作品。「エターナル・サンシャイン」は、才人チャーリー・カフウマンの脚本にばかり目が行きましたが、この作品を観て、それはゴンドリーが監督したから好きだったのだと改めて確認。感想が賛否両論だったので、可愛い映像だけでも楽しめたらいいかくらいの気持ちでしたが、意外や中年の私にも、このビタースウィートの味わいは、とても好感触でした。
メキシコで暮らしていたステファン(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、メキシコ人のパパが亡くなり、別れて暮らしていたフランス人のママ(ミュウ=ミュウ)の元に呼ばれ、花のフランスにやって来ます。隣には知的で心優しいステファニー(シャルロット・ゲンズブール)が越して来て、ステファンは彼女に恋します。しかし奥手で気の弱いステファンは、仕事も恋も冴えない日々で、彼女の心を掴めません。日々のストレスからか、子供の頃から夢に逃避するステファンの兆候は一層加速し、やがて現実と夢との境がわからなくなってしまいます。
ステファンの観る夢は、まるで「ポンキッキ」か「ウゴウゴ・ルーガ」の世界。大人の観る夢を、クレイアニメやイラストも多用し、その中に大の大人の観る夢なので、セックスへの期待や仕事の成功も描かれます。セロファンの水、綿の雲、フェルトの馬、段ボールの自動車。描かれる世界はとてもファンタジックで、この辺は私の好みにとても合いました。夢の内容が大人でも、描き方がお花畑がいっぱいのメルヘン兄ちゃんなのは、ステファンがアダルトチルドレンであると言いたかったのじゃないかと思います。
彼の寝具は、まるで小学生の男の子の使う柄でした。ガラクタに囲まれた部屋も、オタクというより整理のつかない子ども部屋です。その布団からママに電話して泣き言を言うステファン。彼の少し病的な睡眠障害は、6歳の頃からだとママは言っていたので、離婚した両親の不仲から、逃避したかったことから起因するのかも知れません。最初ステファニーを「パパと似ている」と表現するステファン。彼女は愛らしい容姿・囁くような喋り方に似つかわしくない、大きな手の持ち主です。シングルで子供を育てる方は、性に関係なく父性・母性、両方をフル回転させなきゃならないので、とても大変。臆病で冴えない、でも繊細で純粋なステファンからは、亡きパパの人柄が偲ばれます。ステファニーの大きな手と優しさは、ステファンに懐かしい「パパの母性」を思い出させたように思うのです。
対するステファニーも、30過ぎくらいでしょうか、派手なことが嫌いの地味な性格。美しく芸術的センスも良いのに、自分独りのメルヘンの世界に、やはり逃げ込んでいるように思えます。いわば似た者同士。ステファンとステファニーという名前は、それを表現していると思います。普通なら「あんた変よ」でお終いなはずのステファンを理解しようとする姿は、自分も恋愛に不器用だからでしょう。友人のハツラツとしたゾーイとは対照的ですが、彼女に恋人でも取られたことがあるのかな?そう思わすような脚本で、ステファンとの恋に逃げ腰な様子に説得力がありました。この辺きめ細かく後半で描かれるので、彼女の女心も思わず抱きとめたくなります。
恋愛に奥手なのは、いけないことでしょうか?自己主張が弱いのは責められることでしょうか?出会ったばかりの相手とすぐセックスしたり、人を押しのけ上に向かうことしか知らない人より、私にはこの二人のような人たちの方が好ましく思えます。ステファンは、やはり治療が必要な状態だと思えました。監督自身を投影させているというステファンの、その状態を愛らしくユーモラスに表現しているのは、世界中にたくさんいそうな、繊細な精神状態の若者への、デリケートな心遣いのように感じます。
主役の二人は絶品で超チャーミングです。気の弱い冴えない男の子なんて、あの美形でラテンのフェロモンだしまくりのガエルが、どう演じるんだろう?と思っていたのですが、これが全然違和感ありません。カタコトのフランス語も披露し大健闘で、約の幅が広がり、欧米どこでも通用する俳優だと証明された感があります。シャルロットはもう30半ばのはずですが、相変わらずの透明感と清楚な雰囲気、母親(ジェーン・バーキン)譲りの「攻撃的でない胸」は、お母さんとは違うベクトルの魅力があります。とにかくこの二人でなかったから、ここまで気に入る作品ではなかったと思います。
脇のユーモラスな同僚や友人たちも良かったです。生々しく俗っぽいステファンの同僚・ギィと、発展家らしいゾーイの存在も、対比しながら臆病者の二人を応援している様子が、暖かでした。
ステファンの混迷の度合いと共に、観客にもどれが現実か夢かわからなくなって行きます。私はステファニーは絶対ステファンを裏切らなかったと思う。彼女はいつもジーンズなんですから。「エターナル・サンシャイン」でケイトの髪の色で表現していたように、少しずつヒントもありますから、お見逃しなく。ラストは本当に切なくほろ苦いです。でも私は希望のあるラストと取りました。カウンセリングは二人だけではなく、ママもいっしょにね。私はステファンの、「パパといっしょにメキシコに戻ってごめんね」の優しさには、涙が出ました。
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