ケイケイの映画日記
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2007年02月11日(日) 「ディパーテッド」


ご存知香港映画の傑作「インファナル・アフェア」のリメイク。
監督は巨匠マーティン・スコセッシ、主演はレオナルド・ディカプリオ&マット・ディモンと、堂々のハリウッド娯楽大作としてのリメイク化です。やっぱね、大感激した元作を知っているもんでね、比較しないのは難しいのです。別物と割り切って観ても、少々脚本甘いなぁと感じる箇所も多々あり、初見の人は面白いと思いますが(それも太鼓判は押せず)、私は微妙という、歯切れの悪い感想が残る作品でした。

多くの前科者の血縁者から決別すべく警官になったビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)と、マフィアの大物コステロ(ジャック・ニコルソン)に育てられたコリン・サリバン(マット・デイモン)。ビリーは上司クィーナン(マーティン・シーン)とディグナム(マーク・ウォルバーグ)だけが連絡を取れる覆面捜査官として、コステロの元に侵入し、コリンはコステロの援助で優秀な成績で警察学校を卒業、新進気鋭の私服刑事として、マフィアの”ネズミ”として、警察内部に入り込みます。

コリンのコステロへのつなぎなんですが、よくあれでバレないなぁと思います。「父さん・・・」で始まるのがコステロへの連絡なんですが、あからさまに捜査中に連絡したり、そんなのありえるのか?携帯をつなぎのアイテムに多用していましたが、トニー・レオンのモールス信号のインパクトには負けるなぁ。ビリーにしてもしかり。薄氷を踏みながらという緊張感がみなぎっていた元作と比べると、物足りません。

アンソニー・ウォンが演じていた上司を二人に振り分けていますが、元作の覆面捜査官と上司の深い絆的情感は、主にクィーナンが担当。ちょっと説明不足気味ですけど、マーティン・シーンの持つパーソナリティが補っており、こちらは可。しかしティグナムの役回りが理解出来ない。ある出来事にインパクトを与えたいため、作った役なのでしょう。それならそれでいいのですが、やり手なのでしょうが口汚く敵も味方も罵り、「本当はいい奴なんだ」との同僚の言葉だけで表現されているだけで、具体的には私にはわかりませんでした。ビリーに対しても冷淡で、彼の身に危険が及ぶことがわかっているのに、自分の感情を優先して上司としての責任感を感じません(ネタバレのため事柄は秘す)。ラストに見せる様子も、あれはビリーのためじゃなく自分の自己満足が大きいと感じました。ウォルバーグは悪くなかったけど、これでオスカーの助演賞候補は私には謎。

元作に出てきたアンディ・ラウの恋人とケリー・チャンが演じていた精神科医を一つにして、精神科医(ヴェラ・ファーミガ)をコリンの恋人にして、ビリーにも心動かされる役に変更していますが、これも欲張りすぎ。コリンと上手くいっているのに、あんなにあっさり患者であるビリーと寝るか?「3」ケリー・チャンのバカよりはマシですが。だいたい警察専門の精神科医なのに、退職したビリーを診るのは変でしょ?本当は覆面でも、それは機密で今は上から下までマフィアの手下なんだから、診てもらうと、尻尾を掴まれかねません。どこの国もやくざってそういうことはすぐ嗅ぎ付けると思うけどなぁ。

一番の元作との違いは、「正義」についての欧米と東洋の認識の違いでしょうか?ビリーは自分を見失おうまいと精神科医にかかり、安定剤をがぶ飲みします。その様子は理解出来るのですが、元作のトニー・レオンは正義感に満ちた警察官が、悪にまみれることによって自分も堕ちていく辛さに耐え難く、それに抗う葛藤が胸に染みたわけです。アンディ・ラウもしかり。悪の巣窟で育ち、正義のなんたるかも知らなかったはずの彼が、警察官として日々人の役に立ち、正しく日の照る道を歩く人間らしさに目覚め、それが父とも慕い、自分を心底大切にしてくれるボス・エリック・ツァンとの板ばさみになり葛藤する姿が人間臭さを感じさせました。それがコリンには感じられません。悪の環境は心を蝕み、正の環境は人間らしい誠を呼び覚ますという事です。そこに人の弱さと善なる心の両方を感じさせてくれたことに、私は心揺さぶられたものでした。

なので今回のラストには、余韻は感じませんでした。

登場人物では何と言ってもジャック・ニコルソンが良かったです。最近は「恋愛小説家」や「アバウト・シュミット」「恋愛適齢期」など良質のコメディで、偏屈だけど愛嬌ある善良な人ばっかりを演じていて、それはそれで好感触でしたが、今回の貫禄たっぷりで脂ぎったマフィアのボスの凄みを、愛嬌一切なしで演じて、私は楽しみました。レオもマットもそこそこ良かったですが、彼らの代表作にはならないなぁ。

ところで画像のレオとマット、なんだか似てません?華も実力も兼ね備えたレオには、今一歩負けていると思っていたマットですが、この作品では全く互角でした。私はそこが一番嬉しかったかな?


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