ケイケイの映画日記
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2006年11月25日(土) 「プラダを着た悪魔」


わぁ〜面白ーい!もっと笑えるコメディで、単純な恋も仕事も系のサクセスストーリーかと思いきや、重たくならない深みのある作品でした。実は私は短大を卒業の年に結婚してしまい、OL経験がありません。結婚前の学生アルバイトと、10年前からの各種パートのみが私の職歴の全て。早くに結婚したことは後悔していませんが、きちんとお勤めしたことがないというのが、密かに私の最大のコンプレックスなのです。そんな私にも、スクリーン上の女性たちのみならず、頑張ってお仕事している全ての女性たちを応援したくなる作品でした。

名門大学を卒業したジャーナリスト志望のアンディ(アン・ハサウェイ)。まずは経験を積もうとNYにやってきました。オシャレには全然興味のないアンディが、何故か世界中の女性たちの羨望の的のファッション誌「ランウェイ」に就職が決まります。仕事は編集長のミランダ(メリル・ストリープ)の第2アシスタント。しかしミランダは、泣く子も黙る鬼編集長で、信じられないハイレベルな要求を部下に命じる、悪魔のような上司だったのです。

とにかくオープニングから一貫、とってもテンポが良いです。気合を入れてお洒落して出勤するOLたちの様子も小気味よく、期待感が膨らみます。ミランダ初登場シーンは、スタッフの緊張感がユーモラスに伝わってとっても面白い。本当にこんなだったのかしら?(原作は「ヴォーグ」誌編集長のアシスタントだった女性の手記)。他にも無言でバッグとコートをアンディの机へに放り投げるミランダの様子の繰り返しや、くるくる着せ替え人形のように服を着替えるアンディの様子など、やりすぎ一歩手前で押さえているので、わ〜楽しい〜、とここでもテンポの良さが光ります。

ミランダは尊大で傲慢。笑顔一つも見せず、質問してはいけない、要求は全てクリアしなければならない、時には家の用事(それも全て無理難題)も押し付けちゃったりするのに、部下がついてくるのは、仕事が超一流に出来るから。お洒落なギョーカイを描くと思っていたのに、何だかこれって、職人さんの世界?大工さんとか料理人とか。まずは忍の一字で仕事を覚える。それも出来ないのに、上司や師匠をどうのこうのあげつらうのは、百年早いってか?結局どんな世界でも、一流の人について仕事を覚えるって、基本はいっしょなのかも。

最初「ジャーナリスト志望なの。ここに長くはいるつもりはないわ」、だからお洒落なんかどうでもいいの、と言うアンディに、おいおい、そんな気持ちは職場の同僚に失礼じゃないの?そんな甘い気持ちの人に限って、仕事出来ないんだよ(パートさんでもそんな人はいます)と、私が感じていると、予感的中。しかしミランダの片腕ナイジェル(スタンリー・トゥッチ)の助言を受けてからの彼女は、一皮も二皮も剥けたもので、その若さとガッツと素直さに、とても好感が持てます。

ミランダの要求に応え続ける度、ワーカーホリック状態になっていくアンディ。それに反して暗礁に乗り上げる恋や友情などの私生活。これって家庭で非難轟々の旦那さんみたい。でもアンディを観ていると、仕事が出来て、自分が段々磨かれていくのって快感なんだろうな。アンディを羨ましくも感じます。

今の価値観が多様化した時代は、女性も大変です。昔は数年勤めて寿退社だったのが、子供が出来るまではお勤め、それが今や0歳児で保育所に預けて働き続けるのも、珍しくありません。仕事も恋も結婚も子供も、ぜーんぶあきらめないのが理想とされると、辛いモンがありますよね。そんなキャリアガールの心を察するように、素顔のミランダのたった一度の涙、同僚を結果的に蹴落としてしまい、良心の呵責にさいなまれるアンディの心も描写されます。

ミランダを演じてメリル・ストリープが圧巻。誰もが無条件にハハーッとひれ伏してしまう貫禄は、世界一の女優(多分)の彼女ならでは。メリルがミランダを演じるのが決定した時点で、この作品は半分以上成功だったのでしょう。ファッションに煩い割には、あんまり彼女の洋服は素敵じゃなかったけど、あれは年齢から来る引き算でしょうか?受けて立つアン・ハサウェイは、アイドル女優から脱皮途中の、現在にぴったりの役で、とっても健闘しています。見る見る垢抜けて綺麗になっていく彼女ですが、少々野暮ったいのが親しみやすさに繋がるのが持ち味の人なので、それが良い意味で隙になり、私も頑張れば彼女みたいになれるかな?と、若い女性の意欲を掻き立てるのではないでしょうか?

ラストはこう来るか、と私には意外なアンディの選択でした。しかし最初で最後に見せたミランダの笑顔は、他人に悪意や難儀もむしゃむしゃ食べて、平気な顔をしているように思われているミランダの、自分とは違った形でアンディには開花して欲しいと願う、同性の先輩としてのエールのように感じました。とっかえひっかえ衣装を変えたアンディですが、最後に着た服が、一番似合っていたのは、紆余曲折の末一番自分らしい姿を、彼女が見つけたからだと思います。

惜しむらくは男がスタンリー・トゥッチ以外は、全然いけてないこと。一体全体これは何なの?というくらいひどい!アンディの恋人ネイトの容姿は、20年前でもダサいでしょうし、有名エッセイストのクリスチャン役のサイモン・ベーカーは、マイク・マイヤーズにそっくり。マイヤーズは好きですが、セクシーな二枚(セリフにあった)的容姿ですかねぇ。私はいつ「ベイビー、ヤォ〜」と言い出すかと、気が気でなかったです。

「もう仕事辞めて、この子といっしょに家にいたいなぁと思うときがあるんです。」と仰った、産休中の患者さんがおられました。わかるなぁ。こんなに可愛い我が子を保育所に預けて働くのは、母親として切ないでしょう。でも私は答えたのです。「でも子供はずーと、可愛いままじゃないですよ。その内口ごたえもするしね、憎たらしくなりますよ。その内お金もじゃんじゃんいるし。その時きっと、正社員で働き続けて良かったなと思う時が来ますって」。

そのお母さん、元気にお仕事続けられています。既婚女性が仕事を続けるのは、家庭の安定と家族の理解があればこそ。子供のこと、親の介護などで、仕事を辞めなければならない時が来るかもしれません。独身女性だって大変です。クリスチャンがミランダの悪口をいう時、「何故そんなことを言うの?ミランダが男性なら、誰も文句は言わないはずだわ」というアンディのセリフが、世の中を物語っています。でも将来何が来るかなんて、誰にもわからない。難儀が来ればそんときゃそんとき。適度に肩肘張って湿布も貼って、女性の皆さん、頑張って行きましょう!


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