ケイケイの映画日記
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2006年11月22日(水) 「トゥモロー・ワールド」


予告編から期待大だった作品、今日観て来ました。1970年代の初頭、「赤ちゃんよ永遠に」という、地球上が大気汚染に侵され、赤ちゃんを産むことが禁じられた世界を描くSF作品がありました。今から20年後を描くこの作品は、皮肉なことに「禁じられた」のではなく18年間赤ちゃんが産まれてこない世界が舞台です。SFの形を取りながら、未来に警鐘を鳴らすのではなく、今地球上に起こっていることが描かれていました。生命の操作、幼児虐待がマスコミで連日取り上げられる中、遠巻きにいるような私たちが何を成すべきかの、糸口の見える作品でした。監督はメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロンです。

2027年、地球上では18年間原因不明の不妊が続き、生命の誕生が絶えていました。希望を失いつつある今、世界各地では暴力が蔓延し、不安定な状態が続いていました。辛うじてイギリスだけは厳重な厳戒態勢を敷いて、不法入国者を取り締まっていました。エネルギー省の務めるセオ(クライヴ・オーエン)は、ある日突然拉致されます。彼の妻だったジュリアン(ジュリアン・ムーア)率いる反政府組織”フィッシュ”による犯行でした。ジュリアンは移民の少女キーの、通行所証発行を、セオに頼みます。”ヒューマン・プロジェクト”と名乗る組織に、彼女を引き渡すためです。結局ジュリアンの願いを聞き入れたセオですが・・・。

SFで未来を描くと、必ず暗く汚くジメジメしていますが、この作品もそうです。地球温暖化のせいで雨が多くなっていると想像されているのか、地面もいつもドロドロです。取り締まられている不法入国者も、まるでホームレスか罪人のような扱いです。しかし何よりインパクトがあるのが、冒頭でいきなり紹介される、地球上で一番若い18歳の少年の死です。18年間、一人も赤ん坊の生まれない世界。それが強烈にインプットされ、少々の説明不足や荒削りな部分には、目が届かなくなります。

キーをヒューマンプロジェクトに届けるためには、一緒にセオが同行することが通行証の発行の条件でした。そのためセオは大変な危険に巻き込まれ、彼が心から愛し、信じる人を一人ずつ失っていきます。何故みんなキーを奪い合うのか?

以下ネタバレ











キーが妊娠していたからです。ジュリアンも、セオたちを匿った友人ジャスパー(マイケル・ケイン)も、キーを守るため命を失います。ジャスパーが語る「信念」と「運命」のお話が印象深いです。ジュリアンと知り合った学生運動に没頭していた時の、セオの人としての「信念」が、キーを守らねばならない「運命」を引き込んだのでしょうか?他にも頼める人がいたのに、セオを選んだジュリアンは、今は投げやりな人生を送っている彼の「信念」を、見捨てなかったのでしょうね。

マイケル・ケインは、昔は反戦写真をたくさん撮っていたカメラマンです。風貌が、ジョン・レノンが生きていたらこんな風貌だったんじゃないか?と思わせます。ケインは若々しい感性と老人としての思慮深さ、そして隠された黄昏感も微妙に匂わせ絶品。年取って若い時より素敵になるなんて、本当に素晴らしい!認知症の妻との暮らしに、彼が死を考えたこともあるでしょう(匂わす場面もあり)。未来に希望の持てない生活ほど、辛いものはないと思います。未来を守るため、彼は自ら命を差し出したのだと思います。

キーの出産シーンは、へその緒が付いた本物の赤ちゃんが出てきたのかとびっくり!多分リモコンか何かで動かしている人形なのでしょうが、本当に泣くし動くし、本物の新生児のようでした。いやびっくり。

政府対反政府の戦いは、カメラの手ぶれ、血しぶきがカメラに飛んだままの撮影など大変な臨場感があり、ドキュメントのようでした。どうしても、あちこちで起こっている戦争が思い起こされます。同じく国を良くしたいという「信念」の違いのため、たくさんの人が亡くなっていくのです。その虚しさを知っているジュリアンだからこそ、平和的な解決を願っていたのに。結局「目には目、歯には歯」では、何の解決にもならないんだなと哀しく感じていた時、

キーの抱いている赤ちゃんの泣き声で、死んだようになっていた人達が立ち上がり、武装した兵士たちが銃を撃つのを止め、道を作るのです。延々写された哀しい戦闘描写から一転した素晴らしい演出に、止め処もなく涙が止まらない私。なんてすごい演出かと思いつつ、ここに監督の「信念」が込められていたのだと思います。

18年目の出産が、父親が誰ともわからない、有色人種で不法入国者のキーから生まれたことは、深い意味があるのだと思います。人種を越え地位を越え、誰から生まれたのか、そんなことは小さいことなのです。生まれ来る子は、等しくみんな祝福され、親以外の人間からも守られて当たり前なのです。ジュリアンやジャスパー、セオだけではなく、助産師だったミリアム、ホームレスまがいで狡猾に見えたマリカが見せた、キーへの思いから、私たちは学ぶべきことがたくさんあるように思います。18年生まれてこなくなって、その時知っても遅いですから。

クライヴ・オーエンは観る度違う役で、どれもこれも上手くこなしながら、カメレオン役者ではなく、絶対クライヴ・オーエンなのが、スター俳優として実力と華を兼ね備えている証拠かと思います。ジュリアン・ムーアは、もうちょっと観たかったな。キーの乗るトゥモロー号、私はセオたちの「信念」を引き継いでくれる船だと信じたいです。

つけたし
出産シーンについて。映画的には全然OKなので、これはツッコミではなく、ご参考まで。出産は赤ちゃんが出てへその緒を切ったら終わりではなく、その後またいきんで胎盤も出します。この胎盤が出てこなかったら、大変です。私は次男の時がそうで、医師の手で掻き出されました。そういう場合だいたいが大出血になり、私も出産直後の血圧が、60−30でした。そう、死ぬ一歩手前。冬だったのでガンガンストーブを炊いた分娩室で、一人寒いを連発し、気を失いそうになると、看護婦さんから頬を叩かれ、「寝たらあかんよ!」「何でですか?」と聞く私に、「そのまま死んでしまうから」。思考が止まってしまっているので、ああ、そーかくらいしか思いませんでしたが。子宮を早く収縮させるため、お腹に乗せた氷嚢が冷たいのなんの。入院中に輸血もされ、これがまた熱出したり、しんどいのです。輸血の件はその後エイズやらC型肝炎など、ずっと気にしていましたが、幸か不幸か、4月の手術の術前検査のおかげで、問題なしが判明しましたが、このように、お産が大変だと、後々まで響くもんです。皆さん、身近な妊産婦には親切にしてあげて下さいね。








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